伊東良徳の超乱読読書日記

雑食・雑読宣言:専門書からHな小説まで、手当たり次第。目標は年間300冊。2022年から3年連続目標達成!

マンガでわかるゲームの理論

2015-03-19 22:27:48 | 実用書・ビジネス書
 経済学でよく用いられる「ゲームの理論」を、典型事例の「囚人のジレンマ」だけではなく、ダメな上司が働かない理由と対応策、近所トラブルが悪化するメカニズムとその対応策などの日常生活の場でのさまざまな問題に適用して親しみやすく説明する本。
 ゲームの理論に親しみを感じさせわかりやすく感じさせるという点では成功していると思います。
 しかし、例えば、「なぜ牛丼屋、弁当屋は値段を下げるのか?」と銘打って、A店が500円で販売している場合に競合するB店も500円で販売するとA店の利益が5万円、B店が450円に値下げするとA店の利益は2万円になり、A店が450円で販売する場合にB店が500円で販売するとA店の利益が6万4000円、B店が450円で販売するとA店の利益は4万円という説例で、A店はB店の販売戦略に関係なく450円で販売した(値下げする)方が得をする(B店が500円の場合、A店が500円で販売する時の利益5万円よりも450円で販売する時の利益6万4000円の方が大きく、B店が450円で販売する場合、A店が500円で販売する時の利益2万円よりも450円で販売する時の利益4万円の方が大きい)から、450円で売るがゲームの理論による正しい解である(46~53ページ)というのは、競合店が価格競争に陥りやすいことの説明としてはやや違和感があります。値下げ前の双方500円の時には双方が5万円の利益があり、双方が450円に値下げすると双方の利益が4万円になるのに、その2者ではない比較だけを見て450円に値下げするのが合理的な対応と言われても納得できません。先に値下げをすれば一時的には利益が上がるとしてもそうなれば競合店も値下げするのがふつうでしょうから、値下げをした時に最もありそうな現実的な予想は「相手も値下げする」なわけで、そうすると利益は値下げ前より減るのが当然です。現実の世界ではゲームの理論の(この本での)説例のように競合店が追随値下げした時にシェアが元通りになるとは限らないのでそこに値下げのモチベーションが生じると思いますが、それはこの本でのゲームの理論の説明を超えた問題で、ゲームの理論では説明できていないものです。ゲームの理論で言えば、「値下げ競争」の原理を「同時手番ゲーム」1回の説例で当てはめようとしたのが間違いで、同時手番ゲームの繰り返しか、逐次手番ゲームで議論すべきことかもしれませんが。
 ゲームの理論で身近なさまざまな問題を説明する場面では、当事者の「利得」をすべて数値化して議論することになります。近所トラブルの説例では、お互いに親切にすると双方10の利得、一方が親切にして相手が意地悪をすると、親切をした方は気分が悪くて-5、意地悪をした方は気が晴れて5の利得、双方が意地悪をするとお互いに0としています(78~79ページ)。しかし、ゲームの理論はその数値の比較ですから、数値が変わると結果も変わってしまいます。商売の利益なら数字が決まってくるでしょうけど、こういう問題は根拠のない数値を勝手に決めて説明されても、しっくりときません。説明したい結果になるような都合のいい数値を設定しているだけじゃないかとも思えます。
 そういう点で、身近な問題をゲームの理論で説明したり、ましてや「解決する」というつもりで読むと納得感がなくむしろしらじらしく思えますが、あくまでも教養としてゲームの理論を理解するというかゲームの理論に怖じ気づかずに親近感を覚えるということを目的として読むのには手ごろな本だろうと思いました。


ポーポー・ポロダクション サイエンス・アイ新書 2014年6月25日発行
コメント
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