伊東良徳の超乱読読書日記

雑食・雑読宣言:専門書からHな小説まで、手当たり次第。目標は年間300冊。2022年から3年連続目標達成!

荊の城 上下

2017-03-16 23:33:23 | 小説
 ロンドンの西、メイデンヘッドの町の近くのマーロウという村の古城に伯父と住む巨額の資産の相続人だが結婚するまでは相続財産を自由にできない娘モード・リリーの存在を知り、モードを騙して結婚しその後はモードを精神病院に入れて財産を自分のものにしようという詐欺師リチャードの計画に誘われ、モードの侍女となってリチャードのアシストをすることになった17歳の孤児の掏摸スーザン・トリンダー(スウ)が、侍女として過ごすうちにモードに好意を持ちついには性的関係を持ってしまい、揺れる心に悩まされながら計画を進めるうちに予想外の事態に陥るという展開のミステリー小説。
 スウの側からの第1部、同じ場面をモードの側から見る第2部、再びスウが舞い戻る第3部の3部構成になっています。予想を裏切る巧みな展開ではありますが、下巻に入ると特に重苦しい雰囲気が強まります。第1部がスウの視点で入りますので、ふつうの読者はスウの側で読み進めると思うのですが、そういう心情では、第3部は陰鬱な思いが続き、次第に読み進むのがつらく感じられてきます。そんなに悲しい思いをさせなくていいんじゃないの、と私は思ってしまいます。モードへの愛憎を重ね、後半恨み続けるスウを見るのがしんどく思え、ラストの展開に、正直なところそういう気持ちになれるか疑念を抱き、すっきりしませんでした。
 孤児スウの育ての親、スウが母ちゃんと呼ぶサクスビー夫人の実の子と長年育てた子への思いも、重要なポイントになっています。血は長年共有し積み重ねた思い出よりも重いのでしょうか。その点も考えさせられますが、私の感覚とは違うなぁと思いました。
 この作品を原作とした韓国映画「お嬢さん」では、後半のスウを悲しませる重い部分、サクスビー夫人の立ち回りなどをカットして、ハッピーで痛快に仕上げています。重厚さ、人生の悲哀を感じさせる味わいをなくしたともいえるでしょうけど、私には、この作品を読んで、こういう展開にして欲しかったなぁと思ったストーリーで、娯楽作品としては映画の方がよかったかなと思いました。


原題:FINGERSMITH
サラ・ウォーターズ 訳:中村有希
創元社推理文庫 2004年4月23日発行(原書は2002年)
コメント
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