伊東良徳の超乱読読書日記

雑食・雑読宣言:専門書からHな小説まで、手当たり次第。目標は年間300冊。2022年から3年連続目標達成!

武士道ジェネレーション

2017-03-21 23:56:26 | 小説
 武士道シックスティーン、武士道セブンティーン、武士道エイティーンと続いた剣道青春小説武士道シリーズの磯山香と西荻早苗の高校卒業後を描いた続編。
 大学でも剣道一筋で教職課程も単位が取れず就職できないで桐山道場に居残る磯山と、膝の負傷で剣道をリタイアしながらつてをたどって東松学園高校の事務職員となり桐山師範の遠戚の沢谷充也と結婚した早苗の掛け合いで話が進行します。
 以前から続く剣道青春ものとしての味わい、展開は維持されていますが、この作品で作者は、東京裁判批判、「自虐史観」批判を展開し、「民間人虐殺を行わなかった日本」(46ページ)とまで述べ、「アメリカは東京大空襲で少なくとも十万人、広島への原爆投下ではその年内に十四万人、長崎では七万人を死亡させている」(46ページ)と言っています。この点は、この1か所だけではなく、繰り返し執念深く登場し(42~51ページ、213~215ページ、216~224ページ、319~323ページ)、作者が確信をもって、この作品を通じてこの考えをアピールしようとしていることが読み取れます。警察もので名を挙げた作者が、犯罪の加害者/犯人を憎み加害者の検挙等による解決を志向し、犯罪者を非難しその残忍さを描くことは理解できます。しかしその作者の視界には、アジアの人々の被害は入らない/見えないのでしょうか。被害者の数は、歴史の記録としては重要でしょうけれども、被害者自身やその関係者にとっては、犠牲者が1人であってもかけがえのない命です。南京大虐殺の被害者の数が過大だと声高に言う作者は、では20万人ではなく10万人なら、あるいは5万人なら殺されてもかまわない、「虐殺ではない」というのでしょうか。日本への空襲を戦時国際法違反だと非難する作者は(私は、アメリカ軍の空襲を批判すること自体は正しいと考えていますが)、日本軍が行った重慶爆撃は「なかった」というのか、民間人が犠牲にならなかったというのか、いったい何をもって日本軍が「民間人虐殺を行わなかった」などというのか、私の目には、作者が、日本人の命は大切だが、アジアの人々(朝鮮人、中国人)の命はどうでもいいと言っているように見えます。


誉田哲也 文藝春秋 2015年7月30日発行
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