パート・有期法と派遣法改正で、パートタイマー(短時間労働者)、有期契約労働者、派遣労働者の3類型の非正規労働者について、通常労働者との間で、不合理と認められる待遇差を設けてはならない(均衡待遇)、職務の内容が同一で職務の内容及び配置の変更の範囲が同一と見込まれる場合は非正規であることを理由として待遇の差別的取扱をしてはならない(均等待遇)等の規定が設けられた(拡大・整理された)ことへの使用者側の対応について、使用者側の弁護士が、法の理念や理想は無視して裁判や厚労省の指導を回避できるギリギリのいちばん低いレベルの対応を指南し推奨する本。端的に言えば、政府・厚労省が政策的に非正規労働者の待遇改善に向けて進めようとしていることに乗せられずに、当分は労働者の待遇改善などせずに、裁判所の判決の動向を見てやらないと負けるようになるまで、行政が積極的に指導してくるようになるまでは様子見をしておけばいいとするもの。弁護士の感覚では、裁判になった時の見通しがはっきりしないときは、安全を見て、労働者側は労働者側に厳しめの助言をし、使用者側は使用者に厳しめの助言をするものだと思いますが、徹底的に使用者側での強気の姿勢で貫かれています。下級審レベルでは待遇差が不合理とするものが多数となってきている住居手当や、私傷病欠勤時の有給の休暇・給与保障についてもイケイケどんどんで、不合理とした下級審判決の方を非難しています。こういう姿勢で闘って負けたとき、依頼者にどう言うんでしょうね。まぁ本に書くときと違って事件として受任するときは「チャレンジだよ」って言うんでしょうね。
本としては、第2部第2章のパート・有期法第8条(均衡待遇)関係の裁判例の解説と、それをとりまとめた巻末資料(1~3、12)が読みどころです。ここは、弁護士としては勉強になります(巻末資料の12も、労働者側弁護士としては腹立たしいまとめ方ではありますが、裁判例のまとめとしては参考になります)。
編著者の助言は、典型的には均等待遇との関係で、均等待遇を避けるために、問題対応やクレーム処理等は正社員のみが行うことにして職務内容が同じでも責任が違うようにする、あるいは非正規は役職に就けず昇進させない制度にして配置の変更の範囲が違うことにする(265ページ、331~332ページ)とか、非正規労働者に対する説明義務履行のための文書で厚労省の推奨では「貴職は通常の労働者と同視すべき要件を満たしているので待遇について通常の労働者との差別的取扱をすることはありません」とされるところを「パート・有期労働者が通常の労働者と同視すべき要件を満たしている場合、パート・有期労働者の待遇については、パート・有期労働者であることを理由として、通常の労働者との間で差別的な取り扱いをしません」とする(384ページ:厚労省推奨の案では当該労働者が差別的取り扱いをしてはいけない労働者だと告知するが、編著者案ではそこに触れず労働者がそれに気づけないようにする)など、実に小ずるい狡猾なものです。前者については、編著者自身が「このような対応は、法の潜脱であるという批判もあるかも知れません」とまで言っています(332ページ)。立法がおかしいからこういう対抗手段をとってもいいんだと開き直っていますが。
編著者は自己の主張を正当化するのにさまざまな歴史的経緯や統計等を駆使しています。それはそれでその博学ぶりに敬意を表したいところですが、「『終身雇用』を支持する者の割合は、調査を開始した1999年以降、過去最高の87.9%」(345ページ)等の認識(だから非正規労働者の待遇改善など後回しでいい)と、「『正社員になりたいけれどなれない』不本意非正規労働者は、現在、非正規労働者の1割程度に過ぎず」(46ページ)という認識(だから非正規労働者の待遇改善などしなくていい)は、両立するのでしょうか(ほとんどの人が終身雇用を支持し、つまり希望しているというのに、非正規労働者はほとんどが自分の希望で非正規になったって)。私には、都合のいい話をつぎはぎしているように見えます。
石嵜信憲編著 中央経済社 2020年2月15日発行
本としては、第2部第2章のパート・有期法第8条(均衡待遇)関係の裁判例の解説と、それをとりまとめた巻末資料(1~3、12)が読みどころです。ここは、弁護士としては勉強になります(巻末資料の12も、労働者側弁護士としては腹立たしいまとめ方ではありますが、裁判例のまとめとしては参考になります)。
編著者の助言は、典型的には均等待遇との関係で、均等待遇を避けるために、問題対応やクレーム処理等は正社員のみが行うことにして職務内容が同じでも責任が違うようにする、あるいは非正規は役職に就けず昇進させない制度にして配置の変更の範囲が違うことにする(265ページ、331~332ページ)とか、非正規労働者に対する説明義務履行のための文書で厚労省の推奨では「貴職は通常の労働者と同視すべき要件を満たしているので待遇について通常の労働者との差別的取扱をすることはありません」とされるところを「パート・有期労働者が通常の労働者と同視すべき要件を満たしている場合、パート・有期労働者の待遇については、パート・有期労働者であることを理由として、通常の労働者との間で差別的な取り扱いをしません」とする(384ページ:厚労省推奨の案では当該労働者が差別的取り扱いをしてはいけない労働者だと告知するが、編著者案ではそこに触れず労働者がそれに気づけないようにする)など、実に小ずるい狡猾なものです。前者については、編著者自身が「このような対応は、法の潜脱であるという批判もあるかも知れません」とまで言っています(332ページ)。立法がおかしいからこういう対抗手段をとってもいいんだと開き直っていますが。
編著者は自己の主張を正当化するのにさまざまな歴史的経緯や統計等を駆使しています。それはそれでその博学ぶりに敬意を表したいところですが、「『終身雇用』を支持する者の割合は、調査を開始した1999年以降、過去最高の87.9%」(345ページ)等の認識(だから非正規労働者の待遇改善など後回しでいい)と、「『正社員になりたいけれどなれない』不本意非正規労働者は、現在、非正規労働者の1割程度に過ぎず」(46ページ)という認識(だから非正規労働者の待遇改善などしなくていい)は、両立するのでしょうか(ほとんどの人が終身雇用を支持し、つまり希望しているというのに、非正規労働者はほとんどが自分の希望で非正規になったって)。私には、都合のいい話をつぎはぎしているように見えます。
石嵜信憲編著 中央経済社 2020年2月15日発行