「最後の文士」と呼ばれた無頼派作家須賀庸一の死後に、30年あまり前に須賀の妻詠子が殺鼠剤入りの麦茶を飲んで死亡した直後に発表された須賀の出世作となった「深海の巣」が妻を脅迫して遺書を書かせて毒殺したという内容だったことから父を憎み縁を切っていた娘山本明日美宛に須賀庸一名で送られてきた「文身」と題する小説原稿の中で、須賀庸一の小説はすべて15歳で死んだことになっている弟堅次が書いた原稿の内容を実行し、現実に実行したのに合わせて修正して完成させて「私小説」としての説得力を持たせていったものだと告白されたという設定の小説。
「私小説」のどこまでが現実か、現実であるべきか、また小説とは何を何のために書くべきか、小説家とはどのような存在か、小説家の人生は小説にどこまで/どのように描かれるべきかなどの哲学的な問いかけが、娯楽小説の形で論じられています。終盤になってその問いかけがばたつく感じがあって、その前の小説家須賀庸一の半生的な記述の長さと、ちょっとバランスが悪い印象を持ちますが、最後で持ち直してうまくまとまるため、読後感はいいと思います。
岩井圭也 祥伝社 2020年3月20日発行
「私小説」のどこまでが現実か、現実であるべきか、また小説とは何を何のために書くべきか、小説家とはどのような存在か、小説家の人生は小説にどこまで/どのように描かれるべきかなどの哲学的な問いかけが、娯楽小説の形で論じられています。終盤になってその問いかけがばたつく感じがあって、その前の小説家須賀庸一の半生的な記述の長さと、ちょっとバランスが悪い印象を持ちますが、最後で持ち直してうまくまとまるため、読後感はいいと思います。
岩井圭也 祥伝社 2020年3月20日発行