伊東良徳の超乱読読書日記

雑食・雑読宣言:専門書からHな小説まで、手当たり次第。目標は年間300冊。2022年から3年連続目標達成!

ノーマンズランド

2020-06-25 21:05:16 | 小説
 姫川玲子シリーズの長編第6作。
 北朝鮮拉致被害者の家族と元恋人が、拉致実行犯を捜し求めて長い年月を苦痛と焦燥、徒労感のうちに過ごす様子を軸に、殺人事件とそれを隠蔽しようとする政治家、警察内の一部勢力等を絡めた展開をしています。
 拉致被害者の家族らの悲しみと苦痛を描くのはいいのですが、拉致問題解決のために自衛隊の特殊部隊を密かに北朝鮮に侵入させて拉致被害者を奪還すべきだ、それしかない、そのためには憲法第9条が障害だ、だから憲法を改正すべきだという、ウルトラ右翼・ウルトラ過激派の政治主張を、拉致被害者の存在を利用して広めようという特殊な作品になっています。長編第5作の「硝子の太陽 R-ルージュ」に続けてこのシリーズをネトウヨ的な政治主張の広告塔に用いた作者は、姫川玲子シリーズを政治宣伝に捧げるつもりなのでしょうか。登場人物やその関係でシリーズの体裁は保たれているものの、姫川玲子自身、年齢が上がり、関係者が次々と死んだという設定もあってか、当初の勢いというか、感覚、閃きで走り出すこともなくなり、読んでいて、姫川玲子シリーズではあるものの、別に姫川玲子じゃなくてもいいんじゃないって感じますし、潮時でしょうかね。
 この作品の後に書かれた「歌舞伎町ゲノム」ではネトウヨ的な政治主張がないのは、作者がこの作品の後はそういう政治主張を卒業したのか、それとも短編集だから政治主張を展開する余裕がなかったというだけなのか、一応注目しておきたいところです。


誉田哲也 光文社 2017年11月20日発行
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