伊東良徳の超乱読読書日記

雑食・雑読宣言:専門書からHな小説まで、手当たり次第。目標は年間300冊。2022年から3年連続目標達成!

量子コンピュータの衝撃 世界を変えるデジタル最終兵器

2020-06-13 21:37:56 | 人文・社会科学系
 量子コンピュータを材料に、中国が量子コンピュータを開発・実用化するとそれが中国共産党にいかに悪用されるかをあげつらい中国の脅威をあおり立てる一種の嫌中本。
 新型コロナウィルス感染拡大防止措置・緊急事態宣言で図書館が閉鎖されネット予約しかできなかった時期に、タイトルだけで予約した本で、本を手に取ってパラパラとめくれば借りなかった類いの本です。まぁ、そういう機会がなければ読まない本を読むのも一つの経験ではありますが。
 著者は、自分は右翼ではない、ノンポリだと主張しています(112ページ)が、「『スパコンは二位ではダメなのですか?』なんて利敵発言をする大臣はクビにしなければならない」(31ページ)と述べ、量子力学の「シュレディンガーの猫」を密室の男女、女性政治家と顧問弁護士がホテルの部屋に入って朝まで出てこないときに「重ね合わせ状態」か否かに例える(60~64ページ)など、旧民主党を「パヨク」と呼ぶネット民と変わらぬ感性に思えますし、トランプ大統領が正義で、ファーウェイは「技術泥棒」(100ページ等)と断じる姿がノンポリだとは思えません。もっとも、夢で伊勢神宮に呼ばれて伊勢詣でしたら大震災が見え、翌日東日本大震災が起こった(196~197ページ)そうですから、政治的というよりは宗教的な方なのかも知れませんが。
 肝心の量子コンピュータについては、量子コンピュータ自体で何ができるかは、因数分解と総当たり計算に強い、その結果暗号解読と最短経路問題が解けるというだけで、それ以上の説明はほとんどありません。この本の前半は、文系にもわかるようにと著者は配慮したらしい量子力学の解説(専門用語はできるだけ使わないようにしている雰囲気は感じられるものの、やはりわかりにくい)、中盤以降は量子コンピュータを独裁者中国共産党が握ると個人情報がすべて掌握された監視社会で独裁者のなすがままの社会が生じるということを繰り返すものです。ネット社会をアメリカを中心とする国々が「エシュロン」で情報監視統制し、日本政府もアメリカのおこぼれを受けていることは、スノーデンの告発ですでに知られていますが、著者はそこにはひと言も言及しません。すでに行われている情報収集・監視はアメリカや日本が行っていれば問題視せず、これから行われるかも知れない情報収集・監視は中国が覇権を握るかも知れないから大問題だという捉え方は、到底「ノンポリ」の「右翼でも左翼でもない」人のものとは思えないのですが。


深田萌絵 宝島社 2020年5月28日発行
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