伊東良徳の超乱読読書日記

雑食・雑読宣言:専門書からHな小説まで、手当たり次第。目標は年間300冊。2022年から3年連続目標達成!

最愛の子ども

2020-06-12 20:36:07 | 小説
 共学の私立高校の女子クラスという微妙な環境で「わたしたちのファミリー」と位置づけられる、世渡り下手で素直でない面白くないとプイと一人で出て行ってしまう直情径行型の今里真汐ママ、思慮深く物事に動じない触られた者が気持ちよくなる触り方をして優しく接する舞原日夏パパ、どこか抜けている天然ちゃんの薬井空穂の3人の絡み合いうつろう関係とそれを周囲でハラハラしながら見守り味わい楽しむ「わたしたち」の雰囲気を描いた青春群像小説。
 包容力があり、しかしなおどこか謎めいた日夏と、意固地だが憎めない真汐のキャラ設定とその組み合わせ、それを見守る周囲の女子高生たちとさらにはやんちゃな一部のその親たちという舞台装置がうまくはまった感じです。
 語り手が「わたしたち」という、客観的な俯瞰するような視線で語れるようでいて、しかしあくまでも主観で語り、3人の実像ではなく物語を紡いでいるのだ、誰も見ていないからこれは想像だと言って語るという手法が取られています。私自身小説を書いて、そこでは登場人物の一人の語りの形式を取っているため、語り手が同席しない場の事実や他の人物の内心を語れないという制約があるのに対して、こういう手法を取れば何でも書けるのだなと気がつき、感心しました。ある意味でとても便利な手法ですが、ただそういう手法を取りながら、客観的記述ではなくて、「わたしたち」のイメージ、共有する物語・ファンタジーなのだというある種ふわっとした情感を保つのは、意外にさじ加減が難しいかもしれません。そういうところの巧みさに、惹かれました。
 多数の愛すべき人物を生み出しながら、作者は空穂の母についてはあくまでも悪役にしています。シングルマザーの看護師に、作者は何か恨みでもあるのでしょうか。


松浦理英子 文春文庫 2020年5月10日発行(単行本は2017年4月、初出は「文學界」2017年2月号)
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