伊東良徳の超乱読読書日記

雑食・雑読宣言:専門書からHな小説まで、手当たり次第。目標は年間300冊。2022年から3年連続目標達成!

おり姫の日記帳

2009-12-18 21:58:53 | 小説
 いじめっ子の不良女子高生チンニョが、手下のヨンジュ、優等生だが素行の悪いミンジョンらとともに過ごす学園生活や、兄や母らとの関係、ダンス教室で知り合った不良小学生らと巻き起こす騒動などで進行させる短編連作。
 主人公が高校2年生から高校卒業までの間が描かれていますが、話の間がちょっと飛んでいる感じのところもあり、通し読みするとアレッと思います。
 前半では、母親に対する関係というか目線がかなり冷たくて、なんか寒々とした感じがしましたが、最後の方では少しそれが和らいだ感じがします。それは、必ずしも主人公の成長として描かれているというよりも、書いている期間の経過で書き手の感覚が変わったのかなという気がします。
 韓国の世界青少年文学賞受賞作ということですが、私にはピンと来ませんでした。日本で言えば、橋本治の「桃尻娘」が出たときのような「衝撃」なんでしょうか。


チョン・アリ 訳:花井道男
現文メディア 2009年7月発行(原書は2008年)
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ルポ雇用劣化不況

2009-12-11 01:13:39 | ノンフィクション
 2002年以降人件費削減によって不況を乗り切り過去最高の企業収益を謳歌した日本企業が、高賃金に耐えられる企業体質を作らずにきたために賃下げ依存症状態になり、そのために消費者でもある労働者の購買力は失われて内需は細り、現場は権限もなく熟練しない非正規従業員ばかりがマニュアルの範囲でのみ対応して顧客サービスが劣化し、現場の発言権はなくまた意欲も失われて物づくりの質も落ちてきている様子を、労働現場の取材によりレポートした本。
 「自己責任」「市場主義」という企業も政府も責任を取らない姿勢で、セーフティネットを整えようともしない日本で、派遣労働や偽装請負で企業がやりたい放題に労働者を安く使い捨てにできる状態を作ってしまえば、派遣切りによって企業は即ホームレス製造機となる。派遣会社は、お客様である派遣先の意向をくみ取って労災を隠し、物言う労働者は派遣会社が自主的に排除するから、派遣先企業が手を汚さずとも法律の規制を事実上無視した好き放題の結果を得られる。「規制緩和」の名の下に行われてきた最近の日本の「改革」が、いかに経営者にだけ都合のいいものであったかが語られています。この本でも紹介されているように、そんなことやる前からわかりきったことで、労働側や学者は法改正前から指摘していたのですが。
 この本のタイトルや書きぶりは、そういうやりたい放題が、企業自身の首を絞めるようになってきたというスタイルを取っています。今どきの日本ではそういう書き方が書きやすいのですが、そういうパターンになる以前の段階で(要するに企業自身が困らなくても)労働者の生活や人権のレベルでの議論がスッと入る社会であって欲しいと思います。


竹信三恵子 岩波新書 2009年4月21日発行
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ギャングスタ

2009-12-10 23:32:48 | 小説
 不良少年が集まる明王工業高校に入学したイケメンのナンパ男白石力が、明王工業の四天王や極悪ナンバー1の第一高専の三大王らとの戦いに巻き込まれながら男の友情に目覚め、四天王の上のギャングスタに上りつめる極道青春小説。
 小説というより極道ものの劇画の原作みたいな感じです。全編ひたすら喧嘩・決闘シーンの連続で、血が騒ぐとも、グロテスクとも言えます。どちらがより冷酷で残虐に徹しきれるかということが勝負を分けるというパターンが多く、フェアプレイとか人間らしさなどせせら笑われる感じ。基本的には漫画的な読み物ですから、まぁいいですけど。
 大井区とか、田蒲駅とか森大駅とか中途半端にいじった地名が使われるのは、読んでてなんか気恥ずかしい。
 そういうところも含めて、安い劇画雑誌のセンスかなと思います。


新堂冬樹 徳間書店 2009年6月30日発行
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僕らが旅にでる理由

2009-12-08 22:03:53 | 小説
 なにがしかのストレスを抱えている男は平等に患者でありそのストレスを解消させるのは医師の努めであると考えて月曜日から金曜日までそれぞれ別の男と関係を持ち続ける歯科大学2年生高山衿子が、虫歯の木訥な40歳童貞男ラーさんと旅に出て、途中で知り合った恋人募集中のパートタイマー松本パルコと3人で放浪した末に共同生活を始めるという小説。
 冒頭の設定からも予測できるように、わかったようなわからないような観念的な展開で、途中衿子が数日のうちに体重が3倍になるほど太ったとか、突然老女になったとか、妄想と現実が入り乱れて進みます。旅の途中でラーさんが「あ」を見つけたとかいうのは、ジュンブンガク的と言うよりもセサミストリート的ですけど。ラストも、衿子は成長したんだか単に普通の大人になったというんだか。
 不思議な感覚の残る小説ではありますが、スッキリしたり、読み終えたぞという充実感は得にくい感じです。
 タイトルの「僕らが旅にでる理由」というのも、単行本化するときにわざわざつけたそうです(雑誌連載時は「いしのつとめ」)が、女2人と男1人の旅ですし、女が「僕」と自称しても私は別にいいと思いますが作品中で1人称を「僕」と言っているのはラーさん1人(衿子は「わたし」、パルコは「あたし」)で、なぜ「僕ら」なんでしょう。
 奇をてらった不思議感が命の作品でしょうか。


唯野未歩子 文藝春秋 2009年8月10日発行
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心をつなぐ左翼の言葉

2009-12-05 23:17:38 | 人文・社会科学系
 元共産党員でセゾングループ経営者にして詩人の著者の対談。
 対談のはじめで語られている、「理論的には正しくても、相手の心に響かないというのでは意味がない」、右も左も知識人の言葉は大衆の言葉になっていない、自身の感性と一体になっていない(14~15ページ)という問題意識の下で、護憲のための運動のあり方、日本の社会と運動の今後、プロレタリア文学などを語っています。
 改憲はアメリカにあごで使われるような自衛隊にするということを明文で約束することだから完全に独立を失うことになる(35ページ)ことに光を当ててアメリカへの従属を主矛盾として護憲の統一戦線を形成すべきだという指摘には、ドッキリします。アメリカの占領政策転換で戦犯たちが復権された際に、アメリカの都合での偽の復権は拒否するという国粋主義者は誰一人おらずみんなアメリカに尻尾を振った(65~66ページ)という指摘にも。派遣切りをする企業経営者の強欲さや派遣法を認めた連合の無責任さの指摘も、元大企業経営者に言われても・・・という気もしますが、新鮮でもあります。
 対談なので、提起された問題にきちんと回答がなかったり詰め切れてない部分も多いですが、今という時代の気分にはフィットする読み物にはなっています。


辻井喬 かもがわ出版 2009年10月23日発行
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ネットビジネスの終わり

2009-12-05 16:57:37 | 実用書・ビジネス書
 携帯電話(といっても端末の製造)、出版・新聞・雑誌、アニメ・ゲームの各業界の事情を、主として資金調達と投資の視点から検討論評した本。
 「ネットビジネスの終わり」のタイトルを付けながら、むしろネットの周辺というか、ネットビジネスでコンテンツを喰われて売上が減少している業界の側からネットビジネスやネットユーザーの「ネット上の情報は無料」という意識に文句を言っているものです。勝ち組企業側の目線で、日本の企業を上位1つかせいぜい2、3に統合して、日本のユーザーの細かい要求に応じずに世界市場を目指せ、格差社会などと喧伝して社会保障の充実を求めるなどもってのほか、国の資金は日本企業の海外進出に回せという議論を展開しています。よい物を作ればいいのではなく、それをいかに売るかとセットで考える必要があり、それをファイナンスとセットした形で、つまり巨額の資金調達で実行して行けということです。前半の著者がファイナンスのアドヴァイスをする業界に関してはそういいながら、ネット業界については、「Yahoo!や楽天といった規模の経済でのプレイができる強者企業を作ってしまった」(174ページ)などと否定的な書き方をしています。どちらかといえば、ネットビジネスに終わって欲しいという願望を持つ著者が書いた「ネットビジネス批判」という感じです。
 日本の大手企業のために底辺労働者やユーザーは我慢しろという主張に共感する人はどれくらいいるんでしょうか。


山本一郎 PHP研究所 2009年11月4日発行
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よろこびの歌

2009-12-04 00:02:51 | 小説
 有名なヴァイオリニストを母に持ち音大附属高校の受験に失敗してさして特徴のない新設の女子高校に通う御木元玲と、その同級生たちが、合唱コンクールで玲が指揮を担当したことを契機に、コンクールは散々だったものの次第に理解し合い成長していく青春群像劇。
 1話ごとに語り手を替え、音大附属高校の受験に失敗した御木元玲、ピアノをやりたかったが家庭の事情でできず稼業のうどん屋で働く原千夏、ソフトボールのエースだったが肩を壊して引退した中溝早希、霊が見える牧野史香、ボーイフレンドとすれ違いを感じる美術部の里中佳子、美しい姉にコンプレックスを持ち春は短いと勉強に励んできた佐々木ひかりと、それぞれのコンプレックスと拗ね方とその心境の変化を見せながら最後にまた御木元玲にバトンを渡して締めています。
 それぞれにしらけ、醒め、拗ねていた語り手が、ちょっと前向きになれていくところが快い読後感を残します。
 ただ全体としては、なんとか最後に全部結びつけていますが、霊が見える少女とか、一本の話としてはちょっと外れすぎ。7話を2年がかりで月刊誌に飛び飛びに連載してまとめたのだから仕方ないですが。原千夏が私好みのキャラということもありますが、4話と5話を落として、御木元→原→中溝→佐々木→御木元の方がまとまりがよかったかと思います。


宮下奈都 実業之日本社 2009年10月25日発行
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愛がなんだ

2009-12-03 00:09:55 | 小説
 友人主催のパーティーで知り合った出版社勤めのさえない男に便利に使われながらのめり込みまくり仕事も女友達とのつきあいもすべて放り出して尽くすリサーチ会社勤めの女が、その男の気まぐれで呼ばれると仕事を無視するために無職になり失業保険ももらいそこねてアルバイトをしながら男に呼ばれるのを待ち続け、愛されていなくても近くにいたいと男が好きになった女と仲良くなったり男の友だちを付き合ったりするというお話。
 主人公の社会性のなさというか、中身が子どものままで社会人になってしまった責任感のなさは、読んでいて嫌になります。
 主人公だけじゃなくて、このお話の登場人物を見ていると、男に便利に使われる女と超身勝手男、男を便利に使う女と女の機嫌ばかり伺っている男、世の中にはこれだけしかいないのかと思え、やりきれない思いを持ちます。
 ところで、この主人公、高円寺だか(11ページ)西荻だか(186ページ)に住んでるって設定なんですが、男の住まいが世田谷代田(43ページ)で、何で電車で1時間近くかかる道のり(10ページ)なんだか(東京の地理感がない人のためにあえていうと、世田谷代田は小田急線で各駅で新宿まで12~3分、新宿から西荻窪まで中央線快速で12~3分、新宿から高円寺は中央線快速で6分)。10ページから11ページを読んでいるときには高円寺まで電車で1時間近くってこの男の住まいは千葉か横浜かって思いましたが、世田谷代田って出てきたときには「嘘でしょ」って思わず前を読み返しました。こういう設定はきちんとやって欲しいと思います。


角田光代 角川文庫 2006年2月25日発行
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