伊東良徳の超乱読読書日記

雑食・雑読宣言:専門書からHな小説まで、手当たり次第。目標は年間300冊。2022年から3年連続目標達成!

追及! ブラック企業

2015-03-11 21:47:53 | ノンフィクション
 ワタミ、ユニクロを中心に、過酷な長時間労働などで若者を使い潰すブラック企業の実情を報じた本。
 「365日24時間死ぬまで働け」で知られる渡邉美樹氏の創業したワタミの長時間労働は広く知られていますが、介護事業「ワタミの介護」での死亡事故を含む入所者の負傷事故の事故隠しと事故多発につながる職員が睡眠時間を削らざるを得ない長時間労働、業務委託の形式を取ることにより最低賃金以下で労働させる弁当宅配事業「ワタミの宅食」のマニュアルや研修での徹底や告知さえせずに広告では大きく謳う「安否確認サービス」の実情は、私も知りませんでした。ワタミには労働組合がないことについて、渡邉美樹氏は「今の段階として作らなければならないとも思わないし、作ろうとも思わない。」「今のワタミにとって必要かというと、必要ではない。」と言い放ったそうです。労働組合は労働者が作るもので、経営者が作ったり、経営者のためにあるものではありません。「組合は必要ない」と公言すること自体不当労働行為です。今どきこのような原始的で法的素養や常識に欠ける人物が、労働関係の法律を始めとする法律を作る国会議員になっていることは、真に嘆かわしいし、戦慄を覚えます。規制緩和と称して労働者の権利を奪う法の改悪を企み続ける安倍政権の下ではふさわしい人物なのでしょうけれど。
 入社して半年とか1年の労働者を「店長」にして「管理監督者」だからと言ってどれだけ残業しても残業代を支払わない(労働者側の弁護士として指摘しておけば、裁判になれば、それで管理監督者と認められることはほとんどありませんが)という手口は、ワタミ、ユニクロに限らず広範に行われています。昨年(2014年)秋以降、第二東京弁護士会労働問題検討委員会編の「労働事件ハンドブック」の執筆・編集で過労死・過労自殺の判決を読み込みましたが、経験も不十分な若い労働者が「店長」などにされて、残業代の未払だけではなく、責任感から過労とさまざまな重圧を背負い込んで過労うつ・過労自殺に追い込まれていく姿を見て涙しました。
 労働者が過酷な労働を強いられブラック企業が生き延びられる背景には、非正規労働者が労働者の4割をも占めるようにした政策があり、それが現在の政権でさらに助長されようとしているという日本共産党の指摘は、労働者側の弁護士としてはまさにその通りだと思います。
 もっとも、ワタミの追及が長時間労働ではなく企業ぐるみ選挙から始まるところは党利の方が重視されている印象を持ちますし、ワタミとユニクロについてはある程度まとまって書かれていますが、他の企業については断片的で迫力に欠ける感じで、そのあたりはちょっと残念です。


しんぶん赤旗日曜版編集部 新日本出版社 2014年11月10日発行
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グローバル経済史入門

2015-03-10 22:10:55 | 人文・社会科学系
 国境を越えた経済の歴史を16世紀以降というスパンで解説した本。
 「グローバル経済」というと、最近のいわゆる「グローバリズム」「グローバリゼーション」の枠組の中で捉えがちですが、この本では、それを16世紀から叙述し、18世紀までのアジアは自立した経済圏を持ちヨーロッパとの交易を必要としないアジア優位の時代であった(13ページ等)と描くことで、19世紀の西欧優位の世界をそのまま過去に投影して歴史を再構成させた西欧中心的な歴史観(4ページ)から脱却する試みを提起しています。そういった視点は有用だと思いますし、ルネサンス以前のイスラム社会の文化的優位の確認とともに私が学生の頃もすでに鄭和の遠征がヨーロッパの「大航海時代」より遥かに早く行われていたことが強調されるなど、アジアの復権・優位が語られていたことも思い出しますが、同時にそれが民族主義的な過剰なプライドと偏狭さにつながらないよう自戒しておく必要もありそうです。
 16世紀からというスパンで見ると、日本は世界有数の銀産出国であった(54ページ)が、銀が次第に払底して1660年代に銀輸出が禁止され(59ページ)、18世紀半ば以降日本は市場としての国際的魅力を失った(60ページ)、しかし19世紀後半においても「鉱物資源にめぐまれていた日本」からは石炭がアジア市場に、銅が欧米市場に輸出された(147ページ)など、「資源小国」という近年の日本の自己規定とは違った姿も見えてきます。
 現代に近づくにつれ、雑多な情報が未整理のままに書き連ねられ分析の視点がぼやけるきらいがありますが、過去の国際関係を捉え直すことで、歴史についての見方の幅を拡げる契機を与えてくれる読み物かなと思いました。


杉山伸也 岩波新書 2014年11月20日発行
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出訴期限

2015-03-09 00:39:34 | 小説
 スコット・トゥローのリーガルサスペンスで、日本では2013年7月30日発行で、最新作(原書では2006年で、2012年9月30日発行の「無罪」より4年前)。
 出訴期限(日本の公訴時効のようなもの)が3年の州法の下で3年を過ぎて起訴された準強姦(昏睡強姦)事件について、上訴を担当したメイソン裁判官の悩みと、メイソン裁判官がかつて学生時代に犯した類似の過ち、メイソン裁判官への脅迫事件を絡め、裁判における法解釈とはどうあるべきなのか、裁判官とはどうあるべきか、裁判官は過去の経験に束縛されずに判断ができるかなどをテーマとしています。
 はっきり言って、ミステリーとしての部分は、私には凡庸というか、ふつうレベルの読み物に思えますが、裁判における法解釈のあり方とそれを巡る裁判官の悩みについては、貴重な題材・素材を提供してくれています。それで、つい、スコット・トゥローのリーガルサスペンス「出訴期限」を題材に法解釈を考える記事も書いてしまいました(こちら)。そういう方面に興味がないリーガル・サスペンスファンは、こちらは飛ばして、「推定無罪」→「無罪」にアタックされることをお薦めします。


原題:Limitations
スコット・トゥロー 訳:二宮磬
文藝春秋 2013年7月30日発行 (原書は2006年)
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ウォール街の狼が明かすヤバすぎる成功法則

2015-03-07 23:21:15 | 実用書・ビジネス書
 映画「ウルフ・オブ・ウォールストリート」のモデルとなったジョーダン・ベルフォートが、自ら「ストレートライン・システム」と名付けたセールスの手法について語った本。
 金持ち相手に電話セールスでジャンク債等を売りつけてのし上がった人物のセールス本ですから、詐欺まがいの手法が書かれているかと思いましたが、電話を掛ける相手は最も裕福な人々「貧しい人に電話する時代は終わった」(82ページ)、「ノー」と言われたらさっさとあきらめて次に行く(123ページ)など、見込みのある客にだけ力を注ぐむしろ効率重視の手法に思えます。
 面談の場合は「4分の1秒」、電話では「4秒」で、①頭が切れる奴だと思わせる、②どうしようもないほど熱心だと思わせる、③エキスパート、専門家であると感じさせることが重要だ(82~84ページ)、そのためには、自信を漂わせ、それらしく振る舞うこと、トナリティ(声の調子)とボディ・ランゲージで相手のことを気に掛けていること、相手と共通点があることを示せ、迷いを示さず、感情に訴えろというようなことがポイントになっています。まぁ、セールス全般の極意とはいえますが、理性的な納得よりも心理的に追い込んで買わせるという手法で、やっぱり詐欺商法の方に馴染みそうな感じもします。
 映画「ウルフ・オブ・ウォールストリート」で、マシュー・マコノヒー扮するハンスが、株が上がるか下がるかは誰にも、もちろんブローカーにも、わからない。大事なことは2つ、リラックスすること、数字ばかり扱っていると頭がちかちかする、1日2回以上マスをかけ、やりたくなくてもするんだ、それからドラッグだというようなことを教えるシーンがあり、驚きましたが、ジョーダンがこの本でも自分のメンター(師)はマーク・ハンナだとして、入社初日に「客から金を引き出すことだけを考えろ。そのために株を売りつける2つのポイントがある。1つ目はマスをかくこと。2つ目はコカイン。これさえやれば頭のキレが良くなる」と語りかけられたことを紹介しています(39ページ)。あのシーン、受け狙いの創作じゃなかったんだ。
 ところでこの本、原書の表示がどこにもありませんが、アメリカで出版されていないのでしょうか。


ジョーダン・ベルフォート 監訳:クリス岡崎
フォレスト出版 2015年2月18日発行
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「歩きスマホ」を英語で言うと? 時事語・新語で読み解く日米の現在

2015-03-05 22:51:07 | 実用書・ビジネス書
 日本と英米の新語について、日本の新語は英語で表すと、英語の新語は日本語ではというような面からのコラム集。
 タイトルからすれば、日本の新語をメインとしているように思えますが、英米の新語の紹介も多く、私にはむしろ、英米の新語の方が面白く感じました。
 日本語→英語では、テンパる→become flustered(48ページ)、ブラック企業→a sweatshop company(61ページ)くらいかなぁ。ブラック企業は直訳で a black company としても間違いではない(61ページ)って書いてますが、アメリカでそう言ったら物議をかもすんじゃないかなぁ。
 英語→日本語では、中国の大気汚染の現状を airpocalypse : air + apocalypse (黙示録)→大気汚染地獄(151ページ)というのが、すごい。
 1987年以降に生まれた若者が digital natives で、インターネットなしで育ち成人となったが後に学んだ世代はデジタル移民(digital immigrants)なんだそうな(157ページ)。デジタル難民と呼ばれないよう気をつけよう…


石山宏一 小学館新書 2014年10月6日発行
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堕落のグルメ ヨイショする客、舞い上がるシェフ

2015-03-02 21:28:43 | 趣味の本・暇つぶし本
 副業として自腹で食べて辛口の料理評論をする著者が、飲食店業界の裏側について論じるとともに、飲食店をダメにしている要因としては客側の問題もあると指摘する本。
 批判されたレストラン側からの脅迫や出入り禁止を紹介する第1章は、そういうものかなとは思いますが、私怨感情が強く見え、延々と読まされるとちょっと辟易します。
 偽装問題をめぐる第2章は、食べログでのセミプロさくらライターを多数抱える会社の飲食店への営業の会話が、やはりそういうことはあるだろうなとは思いながらも、ショッキングです。後半の、産地偽装は一般人に見破れるはずがないのだから全ての店に偽装はあるものとしてつきあえというのは、処世術としてはそうでしょうし、味がわかりもしないで産地等の詳しい情報ばかり求めてありがたがる客のせいで飲食店が産地偽装をすることになるという指摘には一理あるとも思いますが、それでも表示する以上は嘘を言ってはいけないと、私は素朴に思います。
 第3章では、「日本広しといえど訴訟問題を語れるグルメライターは友里ただ一人」(36ページ)という著者が、飲食店側のわがままな対応を法的に論じています。しかし、予約拒否や店独自のルールについて憲法第14条(法の下の平等)違反の可能性を指摘する(79ページ、91ページ)のは、国が経営しているレストランであれば別論となるかも知れませんが、憲法第14条の私人間での直接適用を否定している最高裁判例(最高裁1973年12月12日大法廷判決:三菱樹脂事件)の下では無理があると思いますし、レストラン側が予約を拒否したり出入り禁止にするのに「合理的な理由」を求める(79ページ、85ページ)ことも私企業が誰と契約するのかは原則として自由(電気、ガス、水道等の公共企業の場合は別)である以上、法律論としては無理があると思います。もちろん、予約ができているのに当日追い返すことは債務不履行ですから、この場合店側の追い返しは違法ということになりますが。
 客側の問題点については、指摘されるような客の主張があるのならなるほどと思いますし、一見客や下戸が平等取扱いを求めるのは無理があるという指摘はもっともだと思いますが、それを言うなら第3章で憲法第14条など持ち出すなよと思いますし、関西人批判は出身地差別じゃないかとも思ってしまいます。私も大阪生まれですが、大阪生まれだから関西人批判をしてよい(誰よりも説得力がある:154ページ)という考え方には疑問を持ちます。言われている内容は関西人に共通してみられる文化だとも思えませんし、そういう行動が関西特有とも思えませんし。
 第2章、第4章、第5章と第1章の一部で構成すれば、もっと読み味のいい本になったのにと、思いました。


友里征耶 角川SSC新書 2014年3月25日発行
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