伊東良徳の超乱読読書日記

雑食・雑読宣言:専門書からHな小説まで、手当たり次第。目標は年間300冊。2022年から3年連続目標達成!

女であるだけで

2021-04-08 21:29:57 | 小説
 父親に売られたメキシコ先住民ツォツィル族出身の娘オノリーナが、オノリーナを買った夫フロレンシオから激しい暴行を受け、さらには夫に金を払った夫の友人との性交を強要された挙げ句に夫を殺して懲役20年の刑を受けるが、薄給の人権委員会で働く若き弁護士デリアが恩赦を求めて奔走し…という展開の小説。
 カバーの見返しでは「史上初のマヤ語先住民女性作家として国際的脚光を浴びるソル・ケー・モオによる『社会的正義』をテーマに、ツォツィル族先住民女性の夫殺しと恩赦を、法廷劇的手法で描いた、《世界文学》志向の新しいラテンアメリカ文学×フェミニズム小説」と紹介されているのですが、法廷のシーンはありません。デリアと検察官、裁判官とのやりとりの台詞はあっても、それは法廷でというよりも法廷外でのやりとりのようですし、証人尋問の場面もありません。「法廷劇」と言われれば、ふつうは証人尋問や被告人質問をはじめとする法廷シーンがあり、緊迫感のあるやりとりを期待するはずで、そこはちょっと出版社の姿勢を疑います。
 虐待を受けた先住民女性を救い出すために、若い女性弁護士が頼まれもしないのに報道を見て弁護を買って出て弁護士費用も取らずに(まぁ本人からは取れないでしょうけど)持ち出しで献身的に活動するのに、本人からはさして感謝もされません。出所したらしばらく自宅に住まわせるというのも何か当然のように受け止められています。弁護士に対する高い期待があると受け止めるべきなのでしょうけれども、こういうのを読むと、弁護士というのは実に報われない存在だなと、暗い気持ちになります。


原題:Cheen timeen x ch'uupen
ソル・ケー・モオ 訳:吉田栄人
国書刊行会 2020年2月20日発行(原書は2015年)
コメント
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