市立病院の院長の娘として生まれ何不自由なく育ち、親の要望に背いて文学部(比較人類学類)に進学し、クラスの懇親会で浴びるほど酒を飲んで気を失い学生寮の部屋まで運んでくれだ飲んだくれの同級生和久井亮と恋仲になるが、和久井がバイトや先輩の研究の手伝いで部屋を空けることが多くなると、和久井の友人で隣の部屋に寄宿する男とデキてしまい、その男とも別れて学生寮を出てアパートに移ってそこへやってくる同級生の男に積極的に告白してつきあい飽きると別れるということを繰り返し、大学を卒業すると医者を婿養子にとって予定どおり院長夫人に収まって、専業主婦としてブランド品を買いあさり優雅な暮らしを続けていた柊瞳子が、作家になった和久井亮の講演会を機に行われたプチ同窓会で和久井と37年ぶりに再会し、自分は半ば強制的に結婚させられた、夫も息子も医師として忙しくて構ってくれない、自分は空っぽなどと不満に思い、和久井に言い寄るという小説。
恵まれた境遇にあり、和久井と別れたのも自分が今達成したものや打ち込めるものがないのも自業自得というしかないジコチュウの主人公に、還暦を過ぎて、私は空っぽなどと不満を言って自分探しをされても、わがままな金持ちの贅沢な悩みとしか見えず、全然共感できません。どんなに恵まれた生活をしている人にも悩みはあるでしょうし、世の中には自分が一番不幸で大変な思いをしてると思い込んでいる人がたくさんいるのは理解してはいるつもりですげ、それにしても…という読後感です。
主人公の目からは、冷酷さが前に立ちますが、むしろ和久井亮と、柊進(瞳子の夫)の方に誠実さを感じてしまうのは、私が男だからでしょうか。
恋愛ものの仕立てですが、作者の意図はむしろ、文学とは何か、文学で何ができるか、というテーマの方にあるように思えます。
作者が同い年のため、大学入学がキャンディーズが解散した年だとか、東海大に原辰徳がいたとか、学生時代に山口百恵が引退し、ジョン・レノンが銃殺された、「ルビーの指輪」と「恋人よ」が大ヒットしたとか、ノスタルジーを感じます。そういう読み方ができるのは特定の世代だけですけど。
谷川直子 河出書房新社 2021年1月30日発行
恵まれた境遇にあり、和久井と別れたのも自分が今達成したものや打ち込めるものがないのも自業自得というしかないジコチュウの主人公に、還暦を過ぎて、私は空っぽなどと不満を言って自分探しをされても、わがままな金持ちの贅沢な悩みとしか見えず、全然共感できません。どんなに恵まれた生活をしている人にも悩みはあるでしょうし、世の中には自分が一番不幸で大変な思いをしてると思い込んでいる人がたくさんいるのは理解してはいるつもりですげ、それにしても…という読後感です。
主人公の目からは、冷酷さが前に立ちますが、むしろ和久井亮と、柊進(瞳子の夫)の方に誠実さを感じてしまうのは、私が男だからでしょうか。
恋愛ものの仕立てですが、作者の意図はむしろ、文学とは何か、文学で何ができるか、というテーマの方にあるように思えます。
作者が同い年のため、大学入学がキャンディーズが解散した年だとか、東海大に原辰徳がいたとか、学生時代に山口百恵が引退し、ジョン・レノンが銃殺された、「ルビーの指輪」と「恋人よ」が大ヒットしたとか、ノスタルジーを感じます。そういう読み方ができるのは特定の世代だけですけど。
谷川直子 河出書房新社 2021年1月30日発行