伊東良徳の超乱読読書日記

雑食・雑読宣言:専門書からHな小説まで、手当たり次第。目標は年間300冊。2022年から3年連続目標達成!

ケースブックアメリカ経営史[新版]

2021-04-18 19:14:37 | 人文・社会科学系
 独立後近年に至るまでのアメリカの主要産業とその頂点をなす企業の栄枯盛衰をたどりながら、企業の組織・戦略を紹介し論じた本。
 企業組織のあり方(特に集権的か分権か)、商品・サービスの提供の範囲(多角化か、選択と集中か)、商品のラインナップ(製造の合理化を優先してコストダウン・低価格化を進めるのか、顧客のニーズ・マーケティングを優先して商品・サービスをそろえるか、ハイエンドかローエンドかフルラインかなど)が議論のテーマですが、その点が中心的に書かれているのではなく、大企業の沿革・社史と経営者の伝記を読まされる中にそういう検討分析もあるという感じで、アメリカの「偉大な経営者」にあまり関心がない私には、読むのがなかなかに辛く思えました。
 その中で、J.P.モルガン、アマゾン、アップルに対しては、比較的はっきりと批判がなされています。「富豪の中で、ジョン・ピアポント・モルガンほど、その傲慢さ、尊大さ、エリート主義のゆえに、一般大衆から憎まれ、非難され、怨嗟の的になった人は少ないであろう」(153ページ)、「アップルで『週に80時間働く』という標語があったように、アマゾンも仕事に関して猛烈主義である。採用試験で、ワーク・ライフ・バランスを口にしたものはそれだけで不合格だった」(243ページ)、「従業員は低賃金、配送センターにおいては過酷な労働環境(たとえば12時半に家を出て、帰宅は深夜零時)という状況がある。かつてウォルマートが、最低賃金をも下回る低賃金、健康保険などが与えられない劣悪な労働環境によって社会的批判を浴びていたのと類似した状況である。その後、ウォルマートは若干改善され、同社に対する批判は緩和した感があるが、それに代わってアマゾンの労働環境の酷さがたびたび指摘されるようになった」(253ページ)、アップルにジョブスが復帰した後のアウトソーシング先のアジア企業について「そこでの労働条件は過酷で、09年には自殺者が相次ぎ、大きな社会問題、国際問題となった、また、環境にも負荷をかけすぎていると言われている」(320~321ページ)などの記述は、ダラダラとした社史・経営者の伝記の記述で眠くなったところで目が覚める思いがしました。基本は企業と経営者を持ち上げる本の中でこれらの企業が批判されているのはよほど悪辣だからなのか、特定の執筆者が勇気をふるっているからなのか…


安部悦生、壽永欣三郎、山口一臣、宇田理、高橋清美、宮田憲一 
有斐閣ブックス 2020年12月25日発行(初版は2002年2月) 
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする