伊東良徳の超乱読読書日記

雑食・雑読宣言:専門書からHな小説まで、手当たり次第。目標は年間300冊。2022年から3年連続目標達成!

戦後政治史[第四版]

2021-07-10 23:26:06 | 人文・社会科学系
 第2次世界大戦での敗戦から安倍晋三の2度目の退陣・菅内閣成立までの各内閣の動きとその推移、国政選挙の経緯と結果を取りまとめて解説し論じた本。
 コンパクトに過去を振り返り再認識する読み物として、優れものです。
 改めて、最近は脱原発発言などでハト派のイメージ/幻想に包まれている小泉純一郎が、新自由主義政策により大企業経営者の意向に合わせた規制緩和・構造改革・郵政民営化などの政策で民間大企業に利益をもたらし、社会保障費の抑制と地方交付税削減で庶民の暮らし/福祉を切り捨て、格差拡大を招いて、現代日本の歪み/格差社会を作り出した元凶であったこと、政治的には自衛隊の海外派遣、イラク戦争の積極支持などの対米追随/タカ派路線と対アジア外交の軽視/中国等との関係悪化を引き起こしたこと、そしてそれらを安倍晋三が金融緩和(異次元緩和)と公共投資で持てる者だけに利益を享受させ、消費増税と社会保障のさらなる切り捨てで庶民の生活を圧迫し、安保法制等によってタカ派路線とアジア諸国との関係悪化を、小泉政権をさらに超えて突き進めたことを再認識できました。
 この本では、解説に徹しているので、そこは触れていませんが、このような庶民を踏みにじる政治家が、大企業経営者に支持されるのはごく自然ですが、何故に不利益を蒙る若者やワーキングプア層に支持されるのか、そこがどうすれば変化するのかを探っていくことが、ともすれば絶望的な気持ちになりますが、やはり大事なことなのだなと感じます。


石川真澄、山口二郎 岩波新書 2021年3月19日発行(初版は1995年)
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お電話かわりました名探偵です

2021-07-06 22:52:00 | 小説
 県警本部で110番通報に応対し所轄警察署に指示をする通信指令室の課員の中で、通報への応答で事件を解決に導く名手として「万里眼」と呼ばれる切れ者の先輩君野いぶきの活躍を、隣席で執務する美声だが女性と会話をするのが苦手な課員早乙女廉の語りで描く推理ラブコメ小説。
 推理小説部分は、人の発言から勘違い・行き違いを探ったり嘘を暴いていくパターンで、基本的に1つのアイディアにより長くはしにくいものを、警察の通報司令室での応答ということで読者の興味を持たせて取りまとめたという感じです。通信指令室を舞台にするアイディアは、私にはハル・ベリー主演の映画「ザ・コール 緊急通報司令室」を想起させますが、私は見ていませんけど(テレビ、ほとんど見ないもので)韓国ドラマのリメイクドラマあたりからというところでしょうか。
 ラブコメ部分は、美声だがそれ以外に特に取り柄のない24歳男性に、美形で頭が切れるがロリ声の28歳女性が好意を持ってアプローチをし、しかし鈍感というよりも白々しいほどぶりっこの男が気づかずにすれ違うという、少女漫画のオタク向けバージョンの趣があります。主人公に親近感を持つ読者と呆れる/白ける読者のどちらが多いでしょうか。


佐藤青南 角川文庫 2020年12月25日発行
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不摂生でも病気にならない人の習慣 なぜ自律神経の名医は超こってりラーメンを食べ続けても健康なのか?

2021-07-04 00:21:06 | 実用書・ビジネス書
 著者紹介で「自律神経研究の第一人者」とされている著者が、主として自律神経の乱れを回避するという観点から生活習慣について助言する本。
 朝食を抜くと自律神経のバランスが乱れてしまい、その状態を引きずったまま1日を過ごすことになると、強調されています(31~33ページ)。一度乱れた自律神経をリカバーするのは容易なことではない、今日は何をやってもうまく行かない日は、朝食を抜いたことが原因になっていることが多いとも(同)。一度乱れた自律神経が元通りになるまでだいたい3時間かかる(122ページ)、怒りによっても自律神経は乱れ、ほんの数分瞬間的に怒鳴ったことでその後の3時間をひどいものにしてしまうとか(同)。著者は怒りそうになったら「ゆっくり話す」「階段を1階分上り下りする」ことを推奨しています(120~127ページ)。う~ん、健康というよりも、仕事の効率や一日をよりよく過ごすために、心がけたいところです。著者は、怒らないために他人に期待しない、他人を信じないということも言っています(168~175ページ)。さすがにそこまでは…とも思いますが。
 ストレスの9割は人間関係から来る(191ページ)、著者は他人の評価を人前で口に出さないことにしている、第三者の話題が出たら「よく知らないんです」と言うようにしている(同)というのも見習ってみたい気がします。
 50~64歳の人では睡眠時間が8時間以上の人は記憶力と意思決定能力が低下する、50歳を過ぎると「寝過ぎ」にも注意が必要(195ページ)、寝だめでは睡眠不足は解決しない、長すぎる睡眠はかえって体に疲労を蓄積させ倦怠感が増す(226ページ)って…特に週末の惰眠、二度寝、三度寝の快楽に身を任せている私には耳が痛い (@_@)
 家庭では小言が始まったら皿洗いをしよう(209~211ページ)というのは、夫婦円満のためにはいいアイディアのように思えます。しかとすんなって、言われないように気を配りながらできれば、ですけど…
 タイトルで予想したよりは、おちゃらけた話ではなく、参考になりそうな情報が多くあったと思います。


小林弘幸 小学館新書 2020年2月4日発行
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歯はみがいてはいけない

2021-07-03 22:18:25 | 実用書・ビジネス書
 歯が健康か歯周病が進むかによって全身の健康にさまざまな影響があることを論じ、口腔内のケアについて解説した本。
 刺激的なタイトルですが、著者が言っているのは、食事の直後に(デンタルフロスや歯間ブラシでなく)ふつうの歯ブラシで歯磨き剤をつけて歯磨きをすることはむしろ有害だということで、およそ歯磨きをするなということではありません。著者は、就寝直前と起床直後に、歯磨き剤を使用せずにデンタルフロスや歯間ブラシを用いて主に歯と歯の間を丁寧に磨くこと(さらに音波歯ブラシの使用も)を推奨しています。つまり「毎食後3分以内に3分間、1日3回歯を磨こう」という3・3・3運動で広まった日本の(日本独特の)歯磨きが間違った歯磨きであり、唾液の力と歯垢や歯周病について正しく認識した科学的に正しい歯磨きをするべきだと言っているのですから、このタイトルはかなりミスリーディングです。
 歯磨きとは別に、「口を閉じて歯が接触しないか」が問われています(76ページ)。「もし接触しているとしたら、あなたは上下歯列接触癖(TCH)です。」「TCHの方の中には、無意識のうちに長時間噛み続けてしまう人がいます。それが筋肉や神経の疲労を引き起こすだけでなく、歯にも過度の負担がかかり、歯の喪失にもつながりかねません。ほかにも、TCHになると常時、自律神経の中の交感神経が緊張した状態をつくりだし、血管を細くしてその柔軟性も失わせます。これもまた、寝たきりにつながる病気を誘発する危険性がありますので、改善が必要です。」(77ページ)って。え~っ、口を閉じたら歯も閉じるもんじゃないの?なんか、恐ろしいことを言われてる感じ。
 前半は、口腔内の清潔を保たないと、間違った歯磨きをしていると、さまざまな病気等に罹患し重篤化する恐れがあるということが、これでもかこれでもかというように繰り返されています。脅かして歯医者に行かせようという印象を持ちます。終盤は、歯科衛生士が健康維持の要となる社会を理想と位置づけてそれに向けた制度等を提唱しています。そのあたりが、読み物としてはちょっとつらいかなと思います。


森昭 講談社+α新書 2016年8月18日発行
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事実認定の考え方と実務[第2版]

2021-07-01 20:40:05 | 実用書・ビジネス書
 裁判での事実認定について、基本的な考え方、証拠に基づく事実の認定、いくつかの事実からの推認などを最高裁判決を中心とする判決の事実関係と提出された証拠を検討しつつ解説した本。
 証明の程度(裁判官にどの程度の心証を形成させることが必要か)や認定/主張立証すべき事実の具体性の程度(概括的認定をめぐって)などを論じた第1章、文書(契約書)による事実認定や供述(証人の証言、当事者の陳述)による事実認定を論じた第2章、間接事実を積み上げる立証などを論じた第3章は、民事裁判に携わる者にとってはとても参考になります。これらの事実認定、証拠から個別の事実を認定する過程、認定した事実の組み合わせからさらに事実を推認する過程で、さまざまな経験則が論じられているところ、その経験則に関して判示した判決、特に相当数の最高裁判決の解説とそこから読み取るべきメッセージの解説は、素晴らしい。一度ならず繰り返し読んでみたいと感じました。
 私のサイトでも、裁判は事件ごとに事実関係が異なり提出される/されうる証拠も事件ごとにさまざまで、その事件の内容、展開、それまでの立証状態とさらにはその時点での裁判官の心証に応じてそのときそのときで考えて進める必要があり、マニュアルや勝利の方程式などといった安直な思考方法はまったく通じないことを強調しているつもりですが、この本を読んでいただくと、それが実感されると思います。民事裁判は、まさにこの本で紹介されている判決の事案のような個別場面でこの本で論じられているようなことを考えて遂行するものです。その意味で、民事裁判をしようと考える方には是非読んでいただきたいなと思いますし、この本を楽しめない/読むのが苦痛だというような人は、とても本人訴訟などできる能力はないと自覚して欲しいところです。
 この本では、事実認定における経験則違反を論じた最高裁判決が多数紹介されています。最高裁民事判例集(公式判例集)登載の著名な判決のみならず、判例時報に掲載された論文(最高裁民事破棄判決等の実情)の中で紹介されている判決にも多数言及されていて勉強になりました。これらの原判決の経験則違反を指摘する最高裁判決は、主として事実認定に不満があって上告(上告受理申立て)した事件の上告理由書・上告受理申立て理由書作成にも参考になり、また最高裁が経験則違反(審理不尽、理由不備等)を理由に原判決を破棄している事案が相当数あることも改めて実感され、力づけられるところでもあります。


田中豊 民事法研究会 2021年3月22日発行(初版は2008年)
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