著作権法についての教科書的な入門書。
初版のはしがきに、大学・法科大学院で授業をするに際して「分量や内容について私たちにとって適切な教科書が少ないことに苦慮してきました。自分たちが授業の教材として使いたい、そして、自分たちが学生時代にこんな本で学びたかった、と思えるテキストを作ったつもりです」と豪語しています。確かに、私がこれまでに読んだ著作権法の教科書と比べて、著作権法のさまざまな規定やその解釈について、著作権を保護することで長期的に豊富な著作活動を誘引する側面、著作権を制限することでパブリック・ドメイン化して新たな(後行の)創作活動を容易にする側面、著作物の利用の必要性と便宜等の原則や利益考量に立ち戻った説明がなされている場面が多く、納得しやすい感じがします。もっとも、登場するのが、著作者と、別の創作活動を行う者、著作物の利用者くらいであればわかりやすいのですが、著作者・著作権者と2次著作物の著作者・著作権者、著作隣接権(実演家、レコード製作者、放送事業者等)など権利者間の利益調整の話になると、かなり複雑になってくるのと規定がごちゃごちゃして説明に紙幅を避けなくなるのが相まって一読してわかるとはとても言えなくなっています。
日本の著作権法とその運用は、著作権等の制限が細切れの規定でなされてフェア・ユースの一般規定がないなど利用者保護は薄く、著作権保護の方にかなり偏っているように思えます。その際、それが著作者(著作物を創作するアーティスト、クリエイター)を保護するためと主張、説明されることが多いのですが、現実に著作権の強い保護によって守られているのは、自らは何も創作しないで著作権ビジネスで儲けている人々(出版社、音楽産業、著作権管理団体等。知財(知的財産権)業務に群がる弁護士らも含め…)です。著作権法は、労働者が職務上創作して使用者名で公表した職務著作を賃金がどんなに安くても関係なく現実に創作した労働者ではなく使用者の著作と扱っていますし、世間知らずの人のいい著作者が出版社や音楽産業に二束三文で著作権を譲渡させられたり独占的利用権を設定されて事業者がどんなに儲けても著作者はほとんど報酬を受けられないという事態を防ぐ方策などまったく定めていません(そういうことには関心がありません)。著作権をめぐる紛争の多くは、(著作者と海賊版事業者の紛争などではなく)著作者から権利を譲り受けて儲けを企んでいる既得権を有する事業者と、他人の著作物を利用した新たなビジネスを目論んで儲けようと思っているが著作者を囲い込めていない新興の事業者との間のものと考えられます。本当に著作者(著作物を自ら創作するアーティスト、クリエイター)の権利を守りたいのであれば、今の著作権法の枠組みや運用とは別のことを考えた方がいいと私は思うのですが。
島並良、上野達弘、横山久芳 有斐閣 2021年3月31日発行(初版は2009年10月)
初版のはしがきに、大学・法科大学院で授業をするに際して「分量や内容について私たちにとって適切な教科書が少ないことに苦慮してきました。自分たちが授業の教材として使いたい、そして、自分たちが学生時代にこんな本で学びたかった、と思えるテキストを作ったつもりです」と豪語しています。確かに、私がこれまでに読んだ著作権法の教科書と比べて、著作権法のさまざまな規定やその解釈について、著作権を保護することで長期的に豊富な著作活動を誘引する側面、著作権を制限することでパブリック・ドメイン化して新たな(後行の)創作活動を容易にする側面、著作物の利用の必要性と便宜等の原則や利益考量に立ち戻った説明がなされている場面が多く、納得しやすい感じがします。もっとも、登場するのが、著作者と、別の創作活動を行う者、著作物の利用者くらいであればわかりやすいのですが、著作者・著作権者と2次著作物の著作者・著作権者、著作隣接権(実演家、レコード製作者、放送事業者等)など権利者間の利益調整の話になると、かなり複雑になってくるのと規定がごちゃごちゃして説明に紙幅を避けなくなるのが相まって一読してわかるとはとても言えなくなっています。
日本の著作権法とその運用は、著作権等の制限が細切れの規定でなされてフェア・ユースの一般規定がないなど利用者保護は薄く、著作権保護の方にかなり偏っているように思えます。その際、それが著作者(著作物を創作するアーティスト、クリエイター)を保護するためと主張、説明されることが多いのですが、現実に著作権の強い保護によって守られているのは、自らは何も創作しないで著作権ビジネスで儲けている人々(出版社、音楽産業、著作権管理団体等。知財(知的財産権)業務に群がる弁護士らも含め…)です。著作権法は、労働者が職務上創作して使用者名で公表した職務著作を賃金がどんなに安くても関係なく現実に創作した労働者ではなく使用者の著作と扱っていますし、世間知らずの人のいい著作者が出版社や音楽産業に二束三文で著作権を譲渡させられたり独占的利用権を設定されて事業者がどんなに儲けても著作者はほとんど報酬を受けられないという事態を防ぐ方策などまったく定めていません(そういうことには関心がありません)。著作権をめぐる紛争の多くは、(著作者と海賊版事業者の紛争などではなく)著作者から権利を譲り受けて儲けを企んでいる既得権を有する事業者と、他人の著作物を利用した新たなビジネスを目論んで儲けようと思っているが著作者を囲い込めていない新興の事業者との間のものと考えられます。本当に著作者(著作物を自ら創作するアーティスト、クリエイター)の権利を守りたいのであれば、今の著作権法の枠組みや運用とは別のことを考えた方がいいと私は思うのですが。
島並良、上野達弘、横山久芳 有斐閣 2021年3月31日発行(初版は2009年10月)