2023年3月に事件発生から実に57年を経て再審開始決定が確定した死刑冤罪事件袴田事件の1審で無罪を確信しながら他の2人との多数決に敗れて泣く泣く死刑判決を起案した主任裁判官であり、その後まもなく裁判官を辞め、2007年にそのことを公表した熊本典道元裁判官のその後を取材して書いたノンフィクション。
裁判官を辞めて弁護士になり、安田火災(現損保ジャパン)の顧問弁護士として年収1億円以上を得て豪遊していた時期もあるのに、弁護士も辞め生活保護を受けるに至ったという経緯・原因は、著者の取材開始時には本人が高齢となり記憶も怪しい状態だったこともあり、「ボクには、正直よくわからない。端緒が袴田事件にあったことに何の疑いもないが、それが後に人生を破綻させるまでの影響をもたらしたかどうかは答えられない。そもそも熊本自身がよくわからないと言う転落の原因が、他人のボクにわかろうはずもない」(200ページ)とされています。え~と…このサブタイトルからして、それがテーマの本じゃないんですか、これ?
日本の刑事司法の現状や問題点、袴田事件の捜査と裁判の問題を感じ取るにはいい本だと思いますが、焦点を当てた熊本元裁判官の人物像と人生については、今ひとつ何が言いたいのか、何のために書いているのかが判然としないという感想を持ちました。
なお、この本の中で何度か紹介されている袴田事件と熊本裁判官を描いた2010年公開の映画「BOX 袴田事件 命とは」についてはこちらで書いています。
尾形誠規 朝日新聞出版 2023年8月30日発行
裁判官を辞めて弁護士になり、安田火災(現損保ジャパン)の顧問弁護士として年収1億円以上を得て豪遊していた時期もあるのに、弁護士も辞め生活保護を受けるに至ったという経緯・原因は、著者の取材開始時には本人が高齢となり記憶も怪しい状態だったこともあり、「ボクには、正直よくわからない。端緒が袴田事件にあったことに何の疑いもないが、それが後に人生を破綻させるまでの影響をもたらしたかどうかは答えられない。そもそも熊本自身がよくわからないと言う転落の原因が、他人のボクにわかろうはずもない」(200ページ)とされています。え~と…このサブタイトルからして、それがテーマの本じゃないんですか、これ?
日本の刑事司法の現状や問題点、袴田事件の捜査と裁判の問題を感じ取るにはいい本だと思いますが、焦点を当てた熊本元裁判官の人物像と人生については、今ひとつ何が言いたいのか、何のために書いているのかが判然としないという感想を持ちました。
なお、この本の中で何度か紹介されている袴田事件と熊本裁判官を描いた2010年公開の映画「BOX 袴田事件 命とは」についてはこちらで書いています。
尾形誠規 朝日新聞出版 2023年8月30日発行