伊東良徳の超乱読読書日記

雑食・雑読宣言:専門書からHな小説まで、手当たり次第。目標は年間300冊。2022年から3年連続目標達成!

日本人が知らない戦争の話 アジアが語る戦場の記憶

2024-01-09 23:00:03 | 人文・社会科学系
 第2次世界大戦時の日本軍による中国・東南アジアでの加害行為について記述し論じた本。
 タイトル・サブタイトルからは、かつて朝日新聞記者であった本田勝一の「中国の旅」のような手厳しいルポルタージュを予想しましたが、著者が留学していたシンガポールについては被侵略者側の視点が強く出され人々の声も拾われているものの、中国については外務省発表の小泉発言を小泉首相の気持ちが伺えると評価している記述(36~38ページ)などに見られるように、基本的には日本政府の見解に依拠し日本政府に寄り添う姿勢に見られ、また日本軍の加害よりも日本人の被害の方を強調しそちらに理解を示す姿勢に見えます。後者の点は、戦争による民間人の被害に目を向ける(193~194ページ)という視点から、日本人を守るためのはずの関東軍に置き去りにされた中国残留日本人、シベリヤ抑留などを取り上げているのではありますが。


山下清海 ちくま新書 2023年7月10日発行
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神秘 上下

2024-01-08 21:52:52 | 小説
 末期の膵臓癌と診断されて余命1年と宣告された総合出版社の取締役に就任し53歳になったばかりの菊池三喜男が、仕事を放り出して神戸に転居し、総合月刊誌編集者だった20年前に電話をしてきた傷病を治す超能力があるという女性を探し歩くという展開の小説。
 余命1年の宣告を受けているという設定なんですが、それが53歳のおっさんで、大会社の幹部で財産も十分に持っているというと、全然かわいそうだという心境になれず、共感できない。この人物が余命1年と聞いて何をやりたいかと考えた末に出てくるのが「死ぬまでのこの一年のあいだに誰か女性を見つけて妊娠させられないだろうか」(上巻48ページ)というのですからなおさらです。まぁこの作品は難病ものという分類とは違うのでしょうけれども、余命宣告されたのが若い世代で健気な人物ならほぼ確実に涙を誘う(「だってバズりたいじゃないですか」で楓の運命に涙したばかりですし)のと対照的に思えました。
 もっとも、自分と年齢層が近い(生まれが私の2年前)ので、感覚が似ていることもあり、「あと一時間」の命なら何をするのが正しいのだろうかと自問して、どうせあと1時間しか生きられないのならばぽかぽかとあたたまったベッドの上でこのまま眠ってしまうのが一番と考える(上巻269ページ)あたり、そうだよなぁと笑いました。


白石一文 毎日文庫 2023年7月30日発行(単行本は2014年)
「毎日新聞」連載 
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だってバズりたいじゃないですか

2024-01-07 20:07:54 | 小説
 高2の春に飛び降り自殺を考えていた校舎の屋上でクラスメートの清純派美少女一ノ瀬楓から声をかけられ楓のイメージビデオの撮影を続けることとなった鈴木秋都が、楓の死の3年後その母のプロデューサーの手により2人の物語が実名でアニメ映画化されて話題となる中、本当の楓はあんな風じゃなかったとやさぐれて進学した芸大で鬱々としていたところに、ビデオを配信中のアイドル的な後輩胡桃沢千歳から映画のエンドロールで流れる楓のビデオのエモさを買ってMVの撮影を依頼され…という青春小説。
 高2の時のエピソード(分割されて挟まれている)は、クラスで人気の美少女が余命宣告をされてそれを秘密にしつつ目立たない地味な同級生男と接して行くとか、2人の性格とか、男の側のスタンス・距離感とか、「君の膵臓をたべたい」を想起させ、その後の展開のタッチも住野よるっぽい印象があり、生き残った志賀春樹の後日談的な味わいを感じました。そういうデジャヴ感はあっても、難病もののアドバンテージとも言えますが、楓の登場するシーン、特にラスト近いビデオのシーンなんてやはり泣いてしまいます。映画化することがあったら、楓役は是非浜辺美波でお願いしたい。
 楓と秋都が通う高校「洛北高校」って(30ページ)、実在する高校と同じ名称なんですが、作者の思い入れでしょうか(秋都が通う大学は「東京総合芸大」という架空名なので、洛北高校の方だけ特別な扱いに思えます)。


喜友名トト 新潮文庫 2023年12月1日発行
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健康寿命をのばす食べ物の科学

2024-01-06 00:07:10 | 自然科学・工学系
 食品、食生活が健康に与える影響とその原因・機構に関する研究の現状等について解説した本。
 新書であること、序盤の語り口等から平易な本と思って読み始めましたが、中盤以降はカタカナ・英字の生化学物質名と構造式が頻出し、あぁ私はやっぱりこの分野(生化学)が苦手だったんだと再認識するハメになりました。化学物質とか亀の子(ベンゼン環)とかが苦手な人は220ページ以下のまとめだけ読むという方針が無難に思えます。
 私は、聞き慣れない生化学物質名が出てきたところで脳が固まってしまい/拒絶反応を起こし、説明内容の大部分が理解できていないので、たぶん私の理解不足なのだろうと思うのですが、母乳についての説明で「乳の源は血液で、乳一リットルをつくるのに血液四〇〇~五〇〇リットルが必要とされます」(206ページ)って、それでいいんでしょうか。母乳で乳児を育てれば授乳量は1日あたり1リットルくらいになるということですが、人間の体内の血液は通常5リットル程度といいますから、この記述だと、授乳中の母親は毎日全血液の100倍程度を消費し(乳に変え)ているということになりかねません。私の読み違いなら(なんといっても、私はこの本の説明のほとんどがちゃんとは理解できてませんから)それでいいんですけど…


佐藤隆一郎 ちくま新書 2023年4月10日発行
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AIを超えたひらめきを生む問題解決1枚思考

2024-01-05 22:46:42 | 実用書・ビジネス書
 問題解決のための思考方法として、5つのステップからなる「問題解決1枚シート」への手書き書き込みをして思考を整理することを勧める本。
 1枚紙への書き込みを推奨し、著者の作成した「問題解決1枚シート」(商標登録済みとのことです)を利用することを勧めていますが、最大のポイントは真の問題が何かをよく考えること、ゴールを意識することにあると思います。真の問題は何かの検討では、漏れなくダブりなく検討することが重要として、市場・顧客、競合(他社)、自社(の能力等)の3要素や、製品、価格、流通(販売チャネル)、販売促進の4要素や、自己の競争優位性の分析(価値、希少性、組織の3要素)などを行うことの重要性が説かれています。それはこのシートを使うかよりも、一種のブレーンストーミングの重要性や分析方法の問題で、そちらの解説に関心を持ちます。1枚に書かせることで一覧性を意識し、またポイントを忘れないという意味はあると思いますが。
 分析方法で漏れなくダブりなくということが繰り返されているのですが、そこはなかなか難しいことで、著者の出す例でも「たとえば『人材育成がうまくいっていない』という問題があったとき『意欲の問題』と『技術の問題』という2軸で捉えれば、漏れ・ダブりなく問題を深掘りできます」(101~102ページ)というのですが、それがロジカルな帰結なのか、私にはうまく理解できません。方向性、努力目標としては、理解できるのですが。


大嶋祥誉 三笠書房 2023年11月10日発行
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時短×脱ムダ 最強の仕事術

2024-01-04 19:09:20 | 実用書・ビジネス書
 パソコンでの作業の能率を上げるための Windows 操作、文字入力、Excel 、Outlook の設定やショートカットキーの利用について解説した本。
 類書が数多あるなかで、Windows 操作や入力のところで使ってみたい、使えたら便利だなと思わせる説明が多々あり、他方 Excel では数式には立ち入らず( Excel では、特に大量のデータベースを扱うような場合に用いる数式が使いこなせるか否かで作業時間が劇的に変わることがありますが)入力と作業環境に徹しているところが、むしろ好感を持てました。
 マウスを使わずショートカットキーを使えという本を読む度に、やってみようとは思うのですが、なかなか覚えられずに、結局思い出すよりもマウスでクリックした方が速いということになり定着しないということを繰り返しています。確かに便利そうなので今度こそ頑張ろうと決意はするのですが(私は喫煙者ではないですが、いったい何度目かわからない禁煙宣言みたいな)…


橋本和則 SBクリエイティブ 2023年4月6日発行
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はたらく土の虫

2024-01-03 21:14:16 | 自然科学・工学系
 土壌中に生息する虫たちの生態を解説した本。
 著者自身は、体長0.5~2ミリメートルくらいの節足動物「トビムシ」の研究を専門としている(世界中でトビムシを専門とする生態学者は50人くらいだとか:3ページ)そうですが、土壌生物
には「分解者」のイメージがつきまとうがミミズやシロアリのような特に影響力が強い者以外は野外では分解作用の検出さえ難しく分解にどれくらい寄与しているとも寄与していないとも断言できないとか(2~3ページ)、人工的な培養器の中でいろいろな餌を同時に与えると強い好き嫌いを示すトビムシが自然条件下では消化管内容物に大きな差はなく菌糸や胞子、腐食など多様な餌が入っている(105~106ページ)など、観察が難しい土壌動物について確定的に明らかにされていることはまだ少ない(133ページ)という研究者としての悩みが語られています。
 「はたらく土の虫」というタイトル、ほのぼのとしたタッチの挿絵から、子ども向けの本のようにも見えますが、しっかり大人向けの本です。


藤井佐織 瀬谷出版 2023年11月30日発行
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都会の鳥の生態学 カラス、ツバメ、スズメ、水鳥、猛禽の栄枯盛衰

2024-01-02 21:47:25 | 自然科学・工学系
 東京や著者の住む市川市を中心に都会で生息する鳥たち、特にツバメ、スズメ、カラス、水鳥、ハヤブサ・タカ・フクロウ等の様子を解説した本。
 人間の傍で営巣することで天敵のカラスから守られるツバメ、人の傍ではあるがツバメほど人に近づかず人目に付かないところで営巣するスズメ、バブル後急増したが生ゴミなどの対策で2000年以後東京では激減したカラス、駆除されなくなりまた緑地保護の動きもあって都市への進出が見られる猛禽類などの様子が紹介され、鳥と人との距離が論じられています。
 カラー口絵ではカラフルなイソヒヨドリやカワセミが目を惹きます。カワセミが、きれいな水のない都会で生息しているということには興味を持ち、より詳しく読みたいところですが、カワセミ関係は2ページだけ(142~143ページ)で、著者の関心はそちらにはあまり向かず、ほとんどのページがそれ以外のツバメ、スズメ、カラス、猛禽類などに当てられています。その辺、学者らしいということでしょうか。


唐沢孝一 中公新書 2023年6月25日発行

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我が身を守る法律知識

2024-01-01 14:00:14 | 実用書・ビジネス書
 交通事故、不動産トラブル、刑事事件、離婚、相続、雇用(労働)、金融商品、詐欺被害等のふつうの人が遭遇しやすい法的紛争について、裁判の実情と紛争の予防のための知識を解説した本。
 民事裁判官としての経験に基づき、基本的にはどちら側ということなく手堅く裁判実務の実情を説明しています。交通事故の裁判に用いられている基準(赤本等)が被害者(特に交通弱者)の過失割合を大きく評価しすぎているとか、刑事裁判官の事実認定があまりに検察側によりすぎているという批判がなされているところは、裁判官経験者の本としては注目されますし、「民事訴訟法分野の最高裁判例には、この事件に限らず、結論に問題のあるものやその理由付けが不合理、不十分なものが時々あります(ほかの分野よりもそれが目立つようです)。これは、最高裁判所調査官(最高裁判事らの補助官)の調査が不十分であった場合に、最高裁判事らにそれを適切にチェックする能力が十分にないことを示しています」(160ページ)という記載を最高裁調査官経験者(なぜか1年だけで異動になっているようですが)がしていることも興味深いところではありますが。
 一般の方が裁判になるリスクとその際の方向性等を理解するにはとてもいい本だと思います。


瀬木比呂志 講談社現代新書 2023年3月20日発行
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