この曲は、音楽雑誌の1875年の企画として作られたという。毎月の季節を詠みこんだロシアの詩人の作品にチャイコフスキーがピアノ曲を合わせたもの。ただしロシアの旧暦によるものなので、日本の季節感よりは1か月ほど遅い(4月というのは5月に相当)。
1875年という年はチャイコフスキーにとっては飛躍の年であったと思う。この年には有名な「憂鬱なセレナード」と「交響曲第3番ポーランド」「ピアノ協奏曲第1番」が作られている。翌年から「交響曲第4番」の作曲が始まり、3年後には「バイオリン協奏曲」も出来上がる。
このような大曲を作りつつ、それらの作品とは大きく趣きの違う可憐ともいえるこの12曲はとても印象深い。ことに6月「舟歌」、10月「秋の歌」、11月「トロイカ」が有名である。私はこの3曲のほかに5月の「白夜」が好きである。
5月の「白夜」は実に静かな溜息を聞くような曲である。この曲だけは私はチャイコフスキーらしいメロディーに聞こえる。高音の消え入るようなメロディーが私の好みである。
6月の「船歌」は夏の季節というよりも晩秋の落葉の始まる季節を私は思い浮かべてしまう。あるいは夏でも詩のとおりどっぷりと暮れて夕方の星がかなり見えている時刻の憂愁の時間帯である。日本のような暑さとはかけ離れた岸辺の状況に思える。
10月の「秋の歌」は私には6月の「舟歌」と並んで聞きたい曲である。季節的にも接近した趣きを感ずる。イチョウなどの派手な黄葉を通り越して冬枯れの茶色に染まった舗道と森の佇まいを連想する。今にも止まってしまいそうなゆっくりとした曲想が好きである。
11月のトロイカ。この曲は物悲しい曲調で有名な歌曲のトロイカとは違い明るい軽快な曲である。若いセルゲイ・ラフマニノフがチャイコフスキーの前でこの曲を演奏し、その後さらに自身のレパートリーとして広めたという。
チャイコフスキーならではの重厚なオーケストレーション、メランコリックなメロディーを連想してしまうが、そのようなイメージとはかけ離れた響きに私はびっくりしたことを覚えている。初めて聞いたのは、20代の半ばの時。レコードで聴いたが誰の演奏だったかは覚えていない。それが懐かしくてこのCDを購入した記憶がある。表紙の広い畑の写真が気に入って購入したのを覚えている。だが、購入した時期も覚えていないし、購入後に熱心に聴いたことはない。
このCDは演奏者であるミハイル・プレトニョフ(1957~)が1985年、またソビエト時代に来日した時の録音である。現在はロシア・ナショナル管弦楽団で指揮者として活躍していると聞く。
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