

まだ図録全体を読んでいないが、まずは会場の入口に掲げられた「欠伸布袋・紅白梅図」(茨城県立歴史館蔵)から。図録に掲載されている古田亮氏の解説によると、「武田光一氏が本作と尾形光琳作「紅白梅図屏風」(MOA美術館蔵)との関連性について指摘して以来、光琳がこの作品に刺激を受けて「紅白梅図屏風」を制作したのではないかという見解がひろく知られるようになった。両者の共通点はその構図にある。伸びをする布袋のシルエットは光琳では流水に代わるが、紅梅の枝の持つ緩いカーブと白梅の鋭い動性との対比は光琳画にそのまま現れている。‥(1763年には)さる大名家に伝わり、江戸の屋敷に置かれていたことがわかる。光琳は江戸に下った折にこの作品を目にする機会があった‥」と記している。
上記のように並べてみると、確かに左側の梅の鋭い鋭角に曲がった枝と右側の丸みを帯びた曲線の対比、伸びをする布袋ののびやかな姿態と豊かな水量を讃えた河の曲線と独特の水の紋は対比の妙を見せている。
この作品は1986年に雪村画として紹介されたばかりのようである。「戦国の世には似合わぬのんびりとした風情の作品」とも記されている。
光琳の作品のほうが、より様式化した抽象性を感じられるが、雪村画のほうがより現実味があるように見える。しかし布袋の伸びをして上に上げた両手や、土を踏む両足の格好は現実離れがはなはだしい。また布袋の両目は白梅のほうを見ているようで、紅梅には背を向けている。両サイドの細い梅の枝に対比して布袋の格好は実に丸い。
私は両サイドの梅の丹念な描きかたに大いに惹かれた。



