昨日に続いて、歌川広重「冨士三十六景」から「13武蔵越かや在(むさしこしがやざい)。現在の埼玉県越谷市付近に日光街道の宿場の越谷があった。その郊外ということらしい。
紅梅か桃が咲いてすでに葉が芽吹いている。手前の下部には菜の花が点在し、川の手前では菜の花が栽培されているようである。
富士山とその手前の丹沢山塊を実景に近い形で描いている。
私はまず丹沢山塊の横の線、梅か桃の木の垂直の線と緑のグラデーションによる横の線が目に入った。
次に花の赤と菜の花の黄、そして緑と藍という色彩の配置が気に入った。
前回も指摘したが、垂直と水平が空間の奥行き、遠近感に大きく寄与している。広重の特徴として垂直の線と水平の線の配置、というのを指摘したくなった。
さらにこの作品は緑が鮮やかである。これも北斎の作品との違いを際立たせているように感じる。北斎は藍色の美を追求したが、このような鮮やかな緑は使っていないと思う。
渡し船にを待っているであろう人が男女二人ずつ。街道筋であることを表している。広重の作品に登場する人物は、実にゆったりとしている。風や雨に翻弄されて劇的な動きをする北斎の作品とは違う。
この作品も見ているうちに、鶯の鳴き声も聞こえてきそうである。実にのんびりとした春の一日を思い浮かべる。北斎の「冨嶽三十六景」とは流れる時間が違う。