山里に生きる道草日記

過密な「まち」から過疎の村に不時着し、そのまま住み込んでしまった、たそがれ武兵衛と好女・皇女!?和宮様とのあたふた日記

人生というものをトシで決めたことはない

2024-07-12 23:10:14 | 読書

 オラの人生の羅針盤でもある作家・高尾五郎氏から、篠田桃紅(トウコウ)『百歳の力』(集英社新書、2014.6)の本が送られてきた。オラの高校生の時は、武者小路実篤とその白樺派に傾倒していたことがあったが、その限界を突き破っていたのが、アメリカの国民的詩人のホイットマンでもあった。高尾氏はしばしばホイットマンの詩を引用し、自前で『草の葉』という文芸誌も刊行していた。氏は、後期高齢者のオラの先輩ではあるが、いまもホイットマンの気宇壮大な理想主義的な世界を追尾している。氏は、80歳代になってもなお青年の素志を忘れない作家でもあり、書家・アーティストの篠田桃紅の貫く共通の気骨を感じられる。

 

  篠田桃紅は、「常識の世界に生きなかったから長生きできた」とし、100歳を超えても現役として墨による抽象作品を描き、海外の美術館でも高い評価を受けていた。2021年、107歳で死去。

 本書は、口述筆記のような優しい文面ではあるが、そのなにげない言葉には凛とした哲学に支えられている。「つくるということは、続けるということ。道と同じ、ここで終わるということがない。…人生と同じ」とか「自分が動きやすいように、妨げるものや邪魔するもののないように、自分のグラウンドをつくったことが私の精神に大きく作用している」とかいうふうに。「自分のグランド」形成がこの日本が直面している喫緊の課題なのだ。

  

 とりわけ共感できたのは、「人というものも自然がつくったものなんだから、自然という大きな手の中で逆らわないように、人間同士がお互いに立てあえるように、…そういう生き方こそ上等の生き方かなあと思う」というくだりだ。人間と自然との共生を育んできた日本の風土は、今の混沌とした世界の中で羅針盤となるものだ。しかし、それを経済成長優先で放擲してきた戦後のツケは、都市集中・地域解体をはじめとして日本人の精神的劣化を加速させてしまった。

 

 そして桃紅は、「もうあとどれだけ生きられるかわからないけど、限りのある人生だからいいのであって、永遠に生きることになったら、ぜんぜんちがうでしょうね。…死があるから、人生というものを生きているわけですよね」と、名僧でも言えないような言葉を軽やかに言い放つ。

 

 晩年に向かってもなお老いを突き抜けた桃紅の魂は飄然として成り行きと伴走する。それに呼応するかのように、高尾五郎氏は、「80歳から起こすルネサンス」「90歳から起こすルネサンス」この2冊を世に投じようとしている。彼の代表作『ゼームス坂物語』(清流出版)は、芥川賞をもらっても十分な作品だ。彼は、灰谷健次郎らを輩出した理論社の社長・小宮山量平の自然と人間とのみずみずしさを継承しながらも、そのパトスはトシを超越しながらいまだに放出してやまない。

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