一日の王

「背には嚢、手には杖。一日の王が出発する」尾崎喜八

映画『ジャッジ!』 ……「これを見ないと今年は始まらない」級の傑作……

2014年01月24日 | 映画
毎日目にする、TVや新聞や雑誌や看板の広告……
私たちの身の回りには、広告が溢れている。
ことにTVCMは、最も視覚に訴えてくる媒体で、
広告と分かっていながら、ドキドキさせられたり感動させられたりする。
最近、ドキドキさせられるTVCMでは、
石原さとみが出ているサントリー鏡月のCM「ひとくちどうぞ(ゆず)」篇がある。


飲み会などで、時々、
「これ美味しいよ~」
と言って、自分が飲んでいるグラスを差し出す女の子がいるが、
それが天真爛漫さなのか、計算されたものなのか判らないが、
こんなことされたら、大抵の男はドキドキっていうかドギマギしてしまう。
その女の子が魅力的で、好意を抱いている女性ならば、なおのこと……だ。
その辺の男の弱さをうまく衝いたCMで、秀逸だ。

以前、私がこのブログで紹介した真木よう子が出ているトヨタのSAIのCM「恋歌」篇も、ドキドキさせられるCMのひとつ。


車のCMに与謝野晶子の短歌を組み入れたTVCMは、過去にもあって、
マツダのRX7のCMがそれ。


与謝野晶子の短歌「やは肌の……」は、
他のCMにも使われていて、1982に放送されたサントリーワイン「レゼルブ」のCMは秀逸。
作曲は五輪真弓、歌は中本マリだ。
ナスターシャ・キンスキーがとにかく美しい。(大好きだった)


このように、優れたCMはたくさんあるけれど、
くだらないCMも、実は、たくさんある。(笑)
映画『ジャッジ!』は、このくだらないCMから始まるのだ。(爆)


どんなに優れた作品を作っても、
クライアントの一言で、やり直しをさせられる。
無理難題を吹っ掛けられ、結局、見るも無残な作品と成り果てる。
そんなCMが、TVでは毎日流されている。
ただTVを観ていただけでは分からない広告業界の裏側を、
B級的センスで描き、
映画としては素晴らしいA級のコメディーに仕上げているのが、
本作『ジャッジ!』なのである。
ソフトバンクの「ホワイト家族」シリーズのCMプランナー・澤本嘉光が脚本を手がけ、
サントリー「グリーンDAKARA」で知られるCMディレクター永井聡が監督を務めているので、
全編がCM感覚に満ち溢れ、観る者をグイグイと引き込んで、
大いに笑わされて、大いに泣かされ(?)る。

広告代理店「現通」で働く太田喜一郎(妻夫木聡)は、
情熱は人一倍、でも腕はイマイチという落ちこぼれクリエイター。


お人好しな性格が災いして、
いつも身勝手な上司・大滝一郎(豊川悦司)の尻ぬぐいをさせられてばかりだ。
ある日、太田は、大滝から、
「代わりにサンタモニカ広告祭の審査員をやってほしい」
と無茶ぶりされる。


年に一度、世界中の一流クリエイターが集まって、最高のCMを決める輝かしい舞台。
夜ごと開かれるパーティーには、パートナーの同伴が必要と知った太田は、
仕事も英語もできるが、ギャンブル好きの同僚・太田ひかり(北川景子)に、
「一週間だけ偽の奥さんになってほしい」
と頼み込む。
普段から太田をバカにしているひかりは、
「なんで私が」
と一度は断ったが、サンタモニカがラスベガスに近いことを知り、
しぶしぶ同行を決める。


大滝から、
「広告祭のことなら全部この人に訊け」
と紹介された鏡さん(リリー・フランキー)は、資料保管室の窓際社員。


教えてくれたのは英語のフレーズをいくつかと、
‟ペン回し”のやり方、あとは大量のオタクグッズを手渡されただけだった。
いよいよ開幕する審査会。
そこで彼を待っていたのは、
日本から来たライバル代理店のエリート社員・木沢はるか(鈴木京香)をはじめ、
クセ者揃いの審査員たちだった。

いや~、こんなに面白い作品だとは思わなかった。
妻夫木聡、リリー・フランキー、でんでん、あがた森魚、伊藤歩、荒川良々など、
好きな俳優がたくさん出演していたので見に行ったのだが、
これほど質の良い作品だとは正直思わなかった。
映画館では、私の席の後ろに、二人組のおばあさんが見に来ていたのだが、
この二人が笑うこと笑うこと。
普段、家でTVを観ているノリで笑うので、
うるさいやら、可笑しいやら。
お年寄りをこれほど笑わせる映画には、最近お目にかかっていなかったので、
新鮮だったし、驚かされた。
それに、ただ笑わせるだけのコメディーではなくて(それだけでも難しいのだが)、
全編に伏線を張り巡らせていて、
終盤に一気に、あるべきところへ収拾させていく。
見事の一言であった。


妻夫木聡。
お人好しのダメ男を演じさせたら右に出る者なし。
今回の主人公・太田喜一郎は、まさに彼にピッタリの役柄であった。
ダメ男だけれど実直で、
彼のその愚直なまでの誠実さが、
虚偽に満ちた審査会、そして審査員の心情を変えていく。
この作品が、B級映画ではなくてA級コメディーになりえているのは、
妻夫木聡が主演であったからと断言していいだろう。


北川景子。
これまでは、
美しいけれども演技力はこれから……といった感じだったが、
着実に演技力も身につけてきているのを感じた。
前半は、ツンデレぶりが格好良かったし、
後半は、コメディエンヌぶりが見事だった。
昨年(2013年)は、
『謎解きはディナーのあとで』(8月3日公開)、
『ルームメイト』(11月9日公開)で、
今年(2014年)も、
本作『ジャッジ!』(1月11日公開)の他、
『抱きしめたい -真実の物語-』(2014年2月1日公開予定)
『悪夢ちゃん The 夢ovie』(2014年5月3日公開予定)
などの主演作が控えているので、大いに期待したい。


豊川悦司。
太田に審査員を押し付ける上司・大滝一郎を実に巧く演じていた。
久しぶりのコミカルな役であったが、
「こういう人、いそう」と思わせる見事ななり切りぶり。
クールなトヨエツ(お~)もイイが、
軽薄で身勝手な面白い男の役もかなり良かった。


鈴木京香。
「現通」のライバル代理店「白風堂」の看板クリエイター・木沢はるか役。
トヨタの車のCMを受賞できるように奮闘するエリート社員なのだが、
オトコマエな面と、女性らしい面を併せ持った素敵な役どころで、
本作に華を添えていた。
ちなみに、劇中で使われるトヨタのCM は実在したもので、
何年か前にカンヌ広告祭でシルバーを受賞している作品だとか。


リリー・フランキー。
この作品でも、彼の好い意味での脱力感が活きていて(笑)、
妻夫木聡相手に、素晴らしい演技をしている。
とにかく彼のことが大好きなので、
彼が出演している映画は全部見たいのだが、
昨年は、
佐賀県での上映がなかったので映画『凶悪』を見逃してしまった。
2月22日(土)から3月14日(金)まで、
小倉昭和館で上映されるようなので、見に行くつもり。
レビューも書くので、乞うご期待。


あがた森魚。
『失楽園』(1997年)で主人公・久木の同僚の役を演じて以来、
『海炭市叙景』(2010年)、
『マイ・バック・ページ』(2011年)、
『しあわせのパン』(2012年)、
『妖怪人間ベム』(2012年)などで、
印象深い演技をしている。
「赤色エレジー」を歌っていた頃の彼と、
映画に出るようになってからの彼の印象があまりに違うので、
最初は「誰、この人?」って感じだったが、
今では私の大好きな俳優の一人である。
リリー・フランキーと同様、肩の力を抜いた演技が素晴らしい。


でんでん。
出演シーンは短いのだが、
クライアントの社長役を見事に演じていた。
お笑い芸人出身で、若き頃は、
「ようみんなぁー、ハッピーかい?」
「どうだい? 美しいだろぉー?」
などの決め台詞で沸かせたピン芸人だったが、
1981年の森田芳光監督作品『の・ようなもの』で俳優に転身。
以来、名脇役として数々の作品に出演してきたが、
園子温監督作品『冷たい熱帯魚』(2011年)の熱演で遅まきながら大ブレイクし、
同じ園子温監督作品『ヒミズ』(2012年)や『地獄でなぜ悪い』(2013年)などで、
独特の存在感を魅せている。


荒川良々。
佐賀県小城市(私の隣町)出身というだけで応援したくなる俳優だが、
そんな私の応援など必要ないほどブレイクしてきた。
いまや、TVドラマや映画にひっぱりだこ状態。
NHK朝ドラ『あまちゃん』や、
フジ系の月9『海の上の診療所』(2013年10月~12月)など、
人気ドラマにも多数出演するようになった。
つかみどころのない飄々とした雰囲気が持ち味で、
本作でもブラジル人審査員をコミカルに演じていた。


この他、
風間杜夫、伊藤歩、加瀬亮、松本伊代、竹中直人などが出演していて、
俳優陣が実に豪華。
それぞれ出演時間は短くとも、実に味のある演技をしていた。










監督、脚本家など、スタッフが、
これまでTVCMで培ったアイデア、技術をふんだんに抽入した作品なので、
テンポが良く、斬新さも感じられて、
最後までも楽しく見ることができた。
今年はまだ始まったばかりだが、
これほどの傑作に出逢えるとは思っていなかった。

主題歌とエンディング曲は、サカナクションが担当しているが、
サカナクションが大好きな私としては快感であった。


主題歌「アイデンティティ」。


エンディング曲「ユリイカ」。


映画を見たいけれど、見たい作品が見当たらないときは、
迷わず『ジャッジ!』を選んでもらいたい。
「これを見ないと今年は始まらない」
そう大声で叫びたいほどの、
超オススメ作品である。

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