一日の王

「背には嚢、手には杖。一日の王が出発する」尾崎喜八

映画『ミュージアム』 ……カエル男を妻夫木聡に演じさせたことが成功の要因……

2016年11月22日 | 映画


本作は、
過激な描写と緊迫のストーリー展開で人気を博す、
「ヤングマガジン」連載の巴亮介のサイコスリラー漫画を、
大友啓史監督が実写映画化したものである。


大友啓史監督といえば、
「るろうに剣心」シリーズの、
『るろうに剣心』(2012年)
『るろうに剣心 京都大火編』(2014年)
『るろうに剣心 伝説の最期編』(2014年)
が思い出されるが、
三作とも映画館で見て、
大いに満足し、
レビューも書いている私としては、
映画『ミュージアム』もぜひ見たいと思った。


主人公・沢村久志刑事を演じるのは、小栗旬。


沢村の妻を演じる尾野真千子はじめ、
野村周平、田畑智子、市川実日子、伊武雅刀、大森南朋、松重豊、妻夫木聡など、




豪華キャストが共演している。
期待しつつ、映画館へ向かったのだった。


現場に謎のメモが残される猟奇殺人事件が矢継ぎ早に発生するが、
その事件は雨が降る日のみ起こっていた。
事件を追っていた警視庁捜査1課の沢村久志刑事(小栗旬)は、
仕事人間のあまり、妻・遥(尾野真千子)は息子と家を出てしまい、
今は只、捜査にまい進する日々だった。


そんな沢村たちをあざ笑うかのように、事件はますますエスカレートしていった。


飼い犬を手放した女性は犬に食われ、
母親と二人暮らしの引き込もり男は“生まれてきた体重”だけ肉体が切り裂かれる。
その凄惨な遺体が発見された現場には、
「ドッグフードの刑」
「母の痛みを知りましょうの刑」
などといった謎のメモが残されていた。


一連の事件の関連性を調べていた沢村は、
犯行が私的な制裁のために繰り返されていること、
そして、過去の、ある裁判員裁判が関係していることを知る。
やがて、犯人も判明するが、
それは、カエルのマスクをかぶり、
自らを殺人アーティストと称する、カエル男(妻夫木聡)であった。


カエル男を追い詰める沢村であったが、
妻・遥がその裁判員裁判の裁判員の一人だったことから、
カエル男に妻子を奪われ、
カエル男の仕掛けた残虐なワナにハマっていく。


そして、沢村を衝撃の結末が待っていた……




なかなか面白い作品であった。
さすが、大友啓史監督。
「雨」「現場に残されるメモ」「妻が狙われる」など、
設定は1995年(日本公開は1996年)のアメリカ映画『セブン』(デヴィッド・フィンチャー監督)にそっくりで、『セブン』が好きな私としては、大いに楽しむことができた。
グロいシーンは多いが、
描写はそれほど具体的ではなく、
観客の想像に任せるような演出が目立った。
それは、この映画をR指定にせず、
多くの人に見てもらいたいという制作者側の意図があったようで、
それは概ね成功しているといえる。
R指定ではない(PG12でさえない)が、
観客の想像に任せるような演出にすることにより、
見る側の想像力が試される。
見る側の想像力の有無により、
この映画の凄惨さに強弱が生じる仕組みになっているのだ。
子供にはそれなりに、
想像力の強い大人には強烈に意識させ、過激なシーンをより過激に感知させる。
想像力のある人ほど楽しめる作品となっているのが面白い。
さて、あなたは如何?


この映画が成功している大きな要因は、
犯人のカエル男を妻夫木聡に演じさせたことだろう。


最初は、「犯人を演じているのは誰か?」を伏せる案もあったらしいが、
妻夫木聡の強烈な個性や演技力などを最初から見せる方が得策……と考えが改められ、
カエル男(妻夫木聡)を最初から登場させ、出番を多くし、
沢村刑事(小栗旬)との対決シーン連発でラストまで引っ張っていく演出がなされている。
だから、予告編でも「カエル男は妻夫木聡」とアピールされている。
このカエル男が、演技力のない別の男優によってなされていたなら、
『ミュージアム』という映画は、まったく違った作品になっていたことと思う。
妻夫木聡の実力の伴った熱演により、本作は良質の作品になりえたのだ。



沢村刑事の妻・遥を演じた尾野真千子の演技も忘れがたい。


彼女の迫真の演技は、より緊張を高め、
ラスト近くのクライマックスシーンでは、
小栗旬が「乗せているエンジンが違う」と形容するほどの凄まじい演技で魅せる。



その他、出演シーンは少ないものの、
遥(尾野真千子)の親友・秋山佳代を演じた田畑智子、



医療研究センターの女医・橘幹絵を演じた市川実日子など、
演技力のある女優が脇をしっかり締めていた。



日本のサイコスリラー映画としては、
かなり成功している作品ではないかと思う。
映画館で、ぜひぜひ。


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