一日の王

「背には嚢、手には杖。一日の王が出発する」尾崎喜八

映画『ぼくのおじさん』…私の好きな北杜夫、山下敦弘、松田龍平、真木よう子…

2016年11月21日 | 映画


このところ、仕事が忙しくて、
昨日の日曜日も出勤していた。
だから、せっかくの紅葉シーズンなのだが、山歩きができていない。
仕事帰りに映画は見ているのだが、
レビューを書く時間がなく、
レビューを書いていない映画が溜まっていくばかりなのである。
せめて、短くでもいいから、映画の感想を書いておこうと思い、
出勤前の時間を利用して、
こうしてパソコンの前に座っている。

今日、紹介するのは、映画『ぼくのおじさん』。
原作は、北杜夫が自身をモデルに書いた同名の児童文学で、
監督は、山下敦弘。

私は中学までは野球少年で、勉強も読書もほとんどしたことがなかった。
間違って入学した高校が進学校で、
周囲の知的レベルに追いつきたくて、
高校生になってから初めて読書を開始した。
私が高校生の頃は、北杜夫が大人気だった。
そこで、私も、まずは北杜夫から読み始めた。
『どくとるマンボウ航海記』、
『どくとるマンボウ昆虫記』、
などの「どくとるマンボウ」シリーズが面白く、
その中でも、私のお気に入りは、『どくとるマンボウ青春記』だった。


『幽霊-或る幼年と青春の物語』、
『夜と霧の隅で』、
『楡家の人びと』などの純文学作品もむさぼるように読んだ。
だから、北杜夫の諸作品は、高校時代の思い出として、
今も強く印象に残っている。
『ぼくのおじさん』は、
旺文社の雑誌『中二時代』と『中三時代』に連載後、
旺文社ジュニア図書館から1972年に発売され、
その後1981年に新潮文庫として発売されたが、絶版状態だった。
映画化に伴い、新潮文庫で記念復刊されている。


山下敦弘が監督した映画は、私の好きな作品が多く、
『リンダ リンダ リンダ』(2005年)
『天然コケッコー』(2007年)
『マイ・バック・ページ』(2011年)
『味園ユニバース』(2015年2月14日)
など、このブログにレビューを書いたものも少なからずある。
今年(2016年)9月17日に公開された『オーバー・フェンス』は、
(佐賀では遅れて公開されたので)11月1日にレビューを書いたばかりだ。

私の好きな作家・北杜夫の原作。
私の好きな山下敦弘監督作品。
それに、
私の好きな男優・松田龍平が主演し、
私の好きな女優・真木よう子がヒロイン役として出演している。
私の好きな作家、監督、男優、女優が揃った作品なので、
ぜひ見たいと思ったのだった。


担任のみのり先生(戸田恵梨香)から、


「自分のまわりにいる大人について」
というテーマで、
学校の作文コンクールの宿題を課せられた小学生のぼく=春山雪男(大西利空)。


公務員の父(宮藤官九郎)と、
専業主婦の母(寺島しのぶ)では、面白いものが書けそうにない。
そこで、居候の「おじさん」を題材に作文を書くことにした。


おじさん(松田龍平)は、大学の臨時講師で哲学を教えているせいか、


屁理屈をこね、時には雪男をダシに母からお小遣いをもらい、万年床でマンガばかり読んでいる。


そんなおじさんに見合いの話が持ち上がる。
相手はハワイの日系4世で、絶世の美女・稲葉エリー(真木よう子)。


見合いに消極的だったおじさんはエリーに一目ぼれ。
しかし、祖母が経営するコーヒー農園を継ぐためエリーはハワイへ帰ってしまう。


エリーに会いたい一心で、
あの手、この手を駆使してハワイへ行く策を練るおじさんだが、
ことごとく失敗で落ち込むばかり。


だがある日、奇跡が訪れ、ハワイに行けることに!


おじさんと雪男はエリーを追いかけてハワイへ行くが、
そこになぜかエリーの元カレ・和菓子屋の御曹司、青木(戸次重幸)もやってくる。


どうなってしまうのか、おじさんの恋……




前半は、とても面白かった。
おじさんを演じた松田龍平がとても良く、
『舟を編む』(2013年)の馬締光也役や、
『ジヌよさらば〜かむろば村へ〜』(2015年)の高見武晴役にも通じるものがあり、
こういう役をやらせたら、松田龍平は本当に上手いなと思った。


ぼく=春山雪男(大西利空)や、
ぼくの父(宮藤官九郎)、母(寺島しのぶ)とのやりとりも絶妙で、
大いに笑わされる。




だが、舞台がハワイに移ると、
途端に面白さが失われる。
なんだか間延びしたようなシーンばかりとなり、
前半のテンポ良い演出がなくなってしまう。


前半を見ている時は、
『男はつらいよ』シリーズのような面白さで、
これは「シリーズ化したら面白いのではないか」などと思ったが、
後半を見て、ちょっとガッカリ。
〈前半のテンポのままで最後まで突っ走ったら、傑作になりえたのに……〉
と、残念に思った。
期待した真木よう子も、英語のセリフが多かったからか、
演技にいつもの冴えがなく、
こちらもちょっと残念。


〈せめてラストはこうなって欲しいな~〉
と思いつつ見ていたら、エンドロールとなり、
〈やはり、私の希望する展開にはならなかったか……〉
と諦めかけた時、
エンドロール終了後に、もうワンシーンが付け加えられていて、
それがまさに私の希望する展開であった。
〈さすが山下敦弘監督!〉
と、気持ちを取り直し、
「終わり良ければ総て良し」
と、映画館を後にしたのだった。
だから、エンドロールが終わるまで、絶対に席を立たないように……ね。


私の期待が大きかったからというのもあり、
ちょっと苦言を呈したが、
佳作のレベルは維持しており、
大いに楽しめる作品にはなっている。
映画館で、ぜひぜひ。

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