一日の王

「背には嚢、手には杖。一日の王が出発する」尾崎喜八

映画『昼顔』 ……不倫映画と思いきや、なんとももどかしい大人の純愛物語……

2017年06月28日 | 映画


私の世代だと、
『昼顔』と言えば、ジョゼフ・ケッセルの小説であり、


第28回ヴェネツィア国際映画祭で金獅子賞を受賞した映画『昼顔』(1967年)である。


美しい若妻のセヴリーヌ(カトリーヌ・ドヌーヴ)は、
医師である夫のピエールとともにパリで幸せな生活を送っていたが、
その一方、マゾヒスティックな空想に取り付かれてもいた。
ある日セヴリーヌは友人から、上流階級の婦人たちが客を取る売春宿の話を聞き、
迷った後に「昼顔」という名前で娼婦として働くようになる……


“昼顔”という言葉は、以降、
平日昼間に夫以外の別の男性と恋に落ちる主婦のことを指す代名詞となり、
世の中に広く浸透した。


しかし、あれから半世紀近くが経ち、
2014年にTVドラマ『昼顔~平日午後3時の恋人たち』が放送されたとき、
〈“昼顔”なんて随分古い言葉を探し出してきたな~〉
と思ったし、ドラマを観ようとは思わなかった。
そして、実際観なかった。
だが、このドラマは人気を博し、
その年の流行語大賞にノミネートされるなど、社会現象にまでなり、
いろんな媒体で採り上げられたことで、
私自身もそのドラマの内容を知ることとなった。
だから、TVドラマは観ていないが、おおよその内容は把握していた。


今年(2017年)6月10日に公開された映画『昼顔』は、
そのTVドラマ『昼顔~平日午後3時の恋人たち』の劇場版である。
監督は、TVドラマでも演出していた(4人のうちのひとり)西谷弘。
脚本も、TVドラマと同じく井上由美子。
上戸彩と斎藤工の他、私の好きな伊藤歩も出演している。
〈見ておかねばなるまい〉
と思い、遅ればせながら映画館へ足をはこんだのだった。


夫がいる身でありながら、
妻のいる北野裕一郎(斎藤工)と惹かれ合い、


不倫関係に陥った笹本紗和(上戸彩)。


その関係が公然のものとなり、彼女は北野と離れ夫とも別れることになった。
あれから3年……
紗和は、海辺の町で、
杉崎尚人(平山浩行)が営むレストランで見習いとして働きながら暮らしていた。


店と狭いアパートの往復が日課で、
北野の夢を見る事さえ既に無くなっていた。
海岸沿いの小さな町には、彼女の過去を知る者は誰もいなかった。


一方、大学の非常勤講師となっていた北野は、
蛍に関する講演を、ある街で行う事に……
そのことを偶然知った紗和は、いけないと思いながらも会場へ足を運んでしまう。
講演中、客席に目を向けたとき、北野は言葉を失う。
そこに紗和の姿があったからだ。
「神様は、私を試していたのでしょうか」
運命のいたずらか、再びめぐり会う二人。


あの時に交わした愛を忘れられず、どちらからともなく逢瀬を重ねていく。
清流ながれる蛍の住処が“約束の場所”。


そんな中、二人の前に現れたのは、北野の妻・乃里子(伊藤歩)だった……




TVドラマの方は観ていないので、
映画『昼顔』だけを見た感想を言うと、
「決して、もう二度と。せめて、もう一度。」
というキャッチコピーさえ違った意味に感じられるほどの、
「不倫映画と思いきや、なんとももどかしい大人の純愛物語」
であった。(笑)
(期待していたわけではないが)ベッドシーンも1回だけで、(笑)


延々と二人の“思い”が描かれる。


逢瀬は重ねるが、肉体関係はなく、
裁判所で言われた通りに言葉も交わさず、
目で愛を確かめるだけなのだ。(メルヘンチック)


これを“純愛”と言わずして何と言う。


北野の妻・乃里子(伊藤歩)が二人の前に現れるシーンも、
この時点ではまだ二人に(再会後の)肉体関係はなく、
乃里子の詰問がキッカケになり、
紗和と北野はお互いの愛の強さを知ることになる。
なんとも日本的な不倫映画であった。
結末はやや衝撃的ではあるが、
〈そうしなければ物語を終わらせることができないだろう……〉
ということが見る者にある程度想像でき、
想定内の出来事であり、それほどの驚きはない。


ドロドロした不倫映画を期待して見に行くと、(そんな人がいるのか?)
肩すかしをくらうほどの純愛物語。
かつて、映画『恋におちて』で、


フランク(ロバート・デ・ニーロ)が、彼の妻に、
モリー(メリル・ストリープ)との関係を、
「僕たちは何もせずに(肉体関係はなく)終わってしまった」
と告白したとき、
「その方がよっぽど悪いわ」
と、妻から頬を叩かれるシーンがあったが、
かように、肉体的な裏切りよりも精神的な裏切りの方が“罪”なのだ。


「肉体関係がないから大丈夫」
と、精神的な浮気をしているあなた、
そう、あなたのことです。(笑)
そのことがかえって“大罪”なのを知っていましたか?(コラコラ)


そんな“肉体の罪”よりも“精神の罪”を描いているのが、
映画『昼顔』と言えるのではないか。
私の極私的な好みで言えば、
上戸彩よりも伊藤歩が好きなので、
伊藤歩が妻であれば、決して浮気はしないと思う。(ほんまかいな?)


菅野祐悟が手掛けた音楽が美しく、
主題歌を担当するLOVE PSYCHEDELICOの「Place Of Love」も素敵だ。

TVドラマを観ていない人のためのドラマダイジェスト(その後に映画の予告編あり)


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