
今日は、父の四十九日法要だった。
佐世保の某ホテルで行われ、親戚一同が集った。
午後は、墓地へ移動。
納骨をした。
この墓地は、生前、父が買っておいたもので、佐世保郊外の小高い丘の上にある。
墓石には、生まれてすぐ亡くなった私の姉の名がすでに刻んであり、
そこに新しく父の名が刻まれた。
私個人としては、
死んだら、海か山に自然葬として散骨してほしいと思っているのだが、
こんな素敵な丘の上ならこの墓に入ってもいいかなと思った。
そう配偶者に伝えると、
彼女も「私もここでいいよ」と言った。
今日は「山」にも「映画」にも行けなかったので、
以前読んだ「本」の紹介をしようと思う。
かとうちあき著『野宿入門』。
著者が男性だったら手に取らなかったかもしれない。
〈女性で野宿の入門書を書くとは面白い〉
と思った。
サブタイトルは、
「ちょっと自由になる生き方」。
帯には、
「楽しい ただそれだけです」
とある。
発刊は2010年10月だから、東日本大震災の約半年前。
震災後の発刊だったら、この本に眉をひそめる人がいたかもしれない。
「不謹慎」だと。
震災や津波で家を失った人も多く、未だ避難所暮らしをしている人も多い。
そういう人たちに対する配慮が足りないのではないか……と。
たとえ震災前であっても、
経済状況を理由に、
世の中にはしたくもない野宿をせざるをえない人々も大勢いるわけで、
ホームレスを推奨するような言動はいかがなものか……と。
そう、「野宿」に対する風当たりは意外に強いのだ。
一方で、こういったことも耳に入ってくる。
東日本大震災のボランティア志願者の中に、
「メシはどこで貰えるんですか?」
「僕のテントはどれですか?」
と真顔で質問してくる人がいる……と。
自分は無償で働くのだから、食事と宿泊は用意されて当然だ……と。
世の中には、野宿さえ体験したことのないヤワな若者が案外多いのかもしれない。
だから、本書は、意外に、
若者たちが「非日常」を体験するための啓蒙書になるのかもしれない……とも感じた。
【かとう ちあき】
1980年、神奈川県生まれ。
法政大学社会学部卒。
在学中、就職活動はせずに旅を続けることを決意(のち挫折)。
介護福祉士。
「人生をより低迷させる旅コミ誌」がキャッチフレーズのミニコミ誌『野宿野郎』の編集長。
創刊から6年で7号まで刊行。
著者の野宿歴は長い。
最初は、15歳の女子高生のとき。
そのときは、「野宿をする」ことに「自由」を感じ、「青春」の象徴のように思っていたのです。若いうちにしかできないことなのだと、考えていたのです。だから、いまのうちにやりたい! やらねばならぬ! と、「えいやっ」とやってみたところ、意外と簡単にできるし面白かった。(18頁)
大学時代は、
コンパで酔いつぶれて家に帰れなくなり野宿したり(消極的野宿)、
「青春18切符」を使い、野宿をしながら貧乏旅行をしたり(積極的野宿)と、
野宿生活を満喫。
社会人になってからは、「野宿をしたことがない人が大半の職場」という逆境の中、
さらなる野宿スキルを磨いていく。
2004年10月、雑誌『野宿野郎』創刊。
2005年1月、第2号、
2005年7月、第3号、
2006年3月、第4号、
2006年12月、第5号、
2008年9月、第6号、
2010年3月、第7号を発刊。
そして、ついに、
2010年10月、本書『野宿入門』を刊行。
雑誌編集と平行して、
「野宿の日」野宿、
お花見野宿、
新春寒中焚き火新年会野宿、
寒中ゆく年くる年カウントダウン焚き火花火野宿忘新年会、
など、いろいろな野宿イベントを開催。
いやはや、素敵な女性である。
で、『野宿入門』であるが、
野宿の始め方、
野宿グッズの揃え方など、
野宿の基本(笑)から懇切丁寧に解説している。
自虐ネタで笑わせ、ほんわかと野宿の魅力を語る。
トイレや雨対策などにも気配りし、
不況でも、雨の日でも、
いくつになっても……
寝袋ひとつあれば、
生きられる。
そう思えば、
今よりちょっとだけ強く生きていける、かも?
と説く。
そして、巻末に収められている実家の前の公園で、
母親と一緒に野宿するくだりで、ホロッとする。
(娘と野宿する母親も素敵だ)
本書を読みながら、私はうんうんと頷いていた。
なぜなら、私も野宿を少なからず経験していたからだ。
私の場合、
テント泊の回数は50回ほどだが、
野宿については、100回近くしている。
よって、野宿に関しては、けっこうウルサイのだ。(笑)
野宿は、高校時代や大学時代にも体験しているが、
回数をこなしたのは、やはり徒歩日本縦断のときだ。
北海道での約1ヶ月はテント泊主体だったが、
本州に入ってからは、テントを家に送り返し、シュラフひとつでの野宿が主体となった。

無人駅、バス停の待合い室、神社、お寺、公園のベンチ、四阿(あずまや)、公民館の軒下、工場の倉庫、商店街の路地……と、ありとあらゆる場所で寝た。
旅の最後の方は、もう野宿がすっかり身に付き、
どこででも寝られるようになっていた。

私が徒歩日本縦断の旅をした1995年当時、
『STBのすすめ』(STB全国友の会編/どらねこ工房)という本が出ていた。

STB(ステビー)とは、station bivouac ステーション・ビヴァークの略で、
駅泊のこと。
「駅寝しやすい駅」に関する膨大な口コミ情報を一冊にまとめたもので、歩き旅でとても重宝した本だ。
(1987年の発刊以降、改訂が繰り返されてきたが、治安の悪化などによりSTBに対する世間の目が厳しくなってきたせいか、2000年の「定本準備号」を最後に更新は途絶えているそうだ)


また、『全国駅前銭湯情報』(銭湯を愛する旅人の会編/新日本企画)という本もあった。

野宿の旅をする者にとって、1週間に1度くらい(笑)は風呂に入りたい。
そこで役に立ったのが、この本。
全国主要駅の駅前銭湯を案内地図付きで紹介したガイド本で、
「東海道本線」「東北本線」など主要鉄道路線ごとに分類し、
銭湯の所在地・営業時間・特徴を掲載してあった。
(私が使っていたのは、’94~’95年版だが、この本も、’96~’97年版を最後に、途絶えているようだ)

かとうちあき著『野宿入門』を読んでいたら、いろいろなことが次々に思い出されて楽しかった。
野宿していると、必ずと言っていいほど、警官から職務質問を受ける。(笑)
その対処の仕方も、女性ならではのものがあり、女性の野宿志願者は(いるのか?)は必読である。
野宿は、テント泊よりも自然が身近に感じられるだけでなく、
なにもなくても体ひとつあれば生きていけるという自信を生む。
こういう時代だからこそ、野宿をやってみる価値はあるのだ。
やりたいけど、できないだろうとか。ひとから見て、これじゃダメだろうとか。「いいトシして」と思われるのが、恥ずかしいとか。
そうじゃなくて、やろうと思いさえすれば、なんでもできるし、なんでも面白い。
野宿はそんなことにも気づかせてくれます。そしてなにより、なんでも面白がり「愉しむ力」を育ててくれる。
お金があってもなくっても。その力さえあれば、日常は、いまより少し愉しくなってくる……のでは、ないでしょうか。(212~213頁)
あなたも、ぜひぜひ……