一日の王

「背には嚢、手には杖。一日の王が出発する」尾崎喜八

映画『デイアンドナイト』 ……“善と悪”というテーマに真っ向から挑んだ傑作……

2019年02月02日 | 映画
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いつも言っていることではあるが、
私の場合、
映画館で見る映画を決めるときは、
ほとんどの場合、出演している女優で決める。
本作『デイアンドナイト』は、
清原果耶が出演しているので、見たいと思った。

私が初めて清原果耶を素晴らしい女優として認知したのは、
映画『3月のライオン』(前編:2017年3月18日、後編:同年4月22日公開)においてであった。
その後編のレビューで、
映画『3月のライオン 後編』 ……後編でひときわ輝いていた清原果耶……
と題し、清原果耶を絶賛する記事を書いた。
その後も、清原果耶が出演する映画やTVドラマは欠かさず見ていたのだが、
昨年、主演したNHKドラマ『透明なゆりかご』(2018年7月20日~9月21日)があまりにも素晴らしく、
NHKドラマ『透明なゆりかご』 ……清原果耶の演技力と存在感に圧倒される……
と題し、またまた清原果耶を絶賛する記事を書いた。
特に気に入った女優は、偶然の出逢いを楽しみにするのではなく、
〈次はどんな作品に出るのだろう……〉
と調べて、その映画の公開を心待ちにするようになる。
そうやって清原果耶の出演作として知ったのが、
本作『デイアンドナイト』であったのだ。

〈『デイアンドナイト』って、どんな作品なんだろう……〉
そう思って更に調べてみると、
俳優・山田孝之がプロデューサーを務めている映画だった。
山田孝之は俳優としては出演しておらず、
プロデューサーに専念していて、脚本にも名を連ねている。
監督は、『青の帰り道』などを手がけた藤井道人。
主演は、阿部進之介。
山田孝之と同じ事務所に所属する彼も、企画・原案から携わり、
この長編映画で初主演を果たしている。
山田孝之、藤井道人、阿部進之介がタッグを組んで、
完全オリジナル脚本で挑んだ作品……
〈面白そうだ……〉
と思った。
で、公開日(2019年1月26日)から数日後に、
イオンシネマ佐賀大和で鑑賞したのだった。



明石幸次(阿部進之介)は、
父が自殺したという知らせを受け、実家へと戻ってきた。
父は大手企業の不正を内部告発したことで死に追いやられ、
家族もまた、崩壊寸前であった。


そんな明石に手を差し伸べたのは、北村(安藤政信)という男だった。


北村は児童養護施設のオーナーとして、父親同然に孤児たちを養いながら、


「子どもたちを生かすためなら犯罪もいとわない」
という道徳観を持っていた。


正義と犯罪を共存させる北村に魅せられていく明石と、


そんな明石を案じる児童養護施設で生活する少女・奈々(清原果耶)。


しかし明石は次第に復讐心に駆られ、
父を死に追い込んだのが誰なのかを調べていく。
父の下で働いていた元従業員(山中崇)、


取引先の自動車整備工場の若手オーナー(淵上泰史)、


そして、大手企業の社員・三宅(田中哲司)にたどり着いたとき、


明石は善悪の境を見失っていくのだった……




“人間の善と悪”というテーマに、真っ向から挑んだ傑作であった。
「愛する家族の命が奪われたとしたら、あなたはどうするだろうか……」
ということを、見る者に問いかけてくる愚直なまでに真っ直ぐな映画であった。
脚本がよく練られており、
映像も美しく、
音楽も素晴らしい。
山田孝之、藤井道人、阿部進之介の三人が挑んだプロジェクトは、
見事な傑作となって結実していたのだ。


そもそも、どういう風に、この企画が進行したのか?
最初は、阿部進之介と藤井道人監督が、映画の話をしているときに、
「そのうち二人で映画を作れたらいいね」
との言葉が出たのが出発点であったらしい。
継続的に話し合っているうちに、『デイアンドナイト』の原形となるアイディアが湧き、
その頃に、山田孝之も合流したようだ。


その時は、まだメモみたいな感じでしたよね。僕はそれまで映画のプロデュースをやったことがなかったけど、興味だけは昔からあったんです。ただ、プロデューサーとしての能力は何もないから、一緒に作ってゆく中で学ぶ形にはなってしまう。でも、影響力とか、人を集めることなら絶対に協力できると思って「プロデューサーとして入れてくれないか?」とお願いしました。ここがチャンスだなと。(『デイアンドナイト』のパンフレットより)

と山田孝之が語るように、
山田孝之がプロデューサーとして加わることで、企画は大きく動き出していく。
藤井道人監督が2013年から4年をかけて脚本を書き、
それをプロジェクターで壁に投影して、
阿部進之介と山田孝之が、映し出された台詞をお互いに演じてみて、
違和感がある箇所を修正していったという。
藤井道人監督は語る。

明石役の阿部さんはそこにいるので、それ以外全部の役を山田さんがその場で芝居するんですよ。芝居をしてみて、つかえるような箇所があれば、戻ってやり直す。それを何度も何度も繰り返しましたね。(『デイアンドナイト』のパンフレットより)

こうやって28稿くらいまで書き直したという。
脚本が練られていると感じたのは、こういった努力があったからなのだ。
こうした過程があったからこそ、台詞の一言一言が生きた言葉として見る者に届いたのだ。
この完成度の高い脚本を、優れた俳優たちが演じることで、
映画『デイアンドナイト』は優れた作品として完成した。


明石幸次を演じた阿部進之介。


自ら企画した作品であるし、
長編映画初主演作ということで、
意気込みが違うなと思った。
覚悟が感じられたし、主演としての存在感も感じられた。
これほど打ち込める作品があること、
しかもそれが傑作であること、
阿部進之介にとって、それはとても幸福なことである。
阿部進之介の現時点での代表作誕生の瞬間に立ちあえたことは、
私にとっても、とても幸運なことであった。



大野奈々を演じた清原果耶。


本作『デイアンドナイト』に、もし清原果耶がいなかったら、なんと殺伐とした映画になっていただろう……と思った。
自殺、悪意、復讐、犯罪、暴力など、暗い描写が多い中で、
大野奈々を演じた清原果耶が出てくるシーンだけが、なんだかホッとできたような気がする。


泥水に咲いた蓮の花のような存在であった。
2002年1月30日生まれだから17歳になったばかり。(2019年2月現在)
撮影時は、まだ15歳か16歳であったろう。
その若さで、この演技。


いやはや、凄い女優がいたものだ。


末恐ろしいとさえ感じる。
20代、30代、40代、50代、60代……と、
清原果耶は将来どんな女優になっていくのか?
それを見届けられないのが悔しい。
このように思える女優に出逢えたことは、
ある意味、幸運なことではあるのだけれど……


ああ、それから、清原果耶が、


主題歌「気まぐれ雲」を、


劇中の役柄である「大野奈々」名義で歌っているので、お聴き逃しなきよう……



この他、
北村健一を演じた安藤政信、


表の顔と裏の顔を持つトモコを演じた小西真奈美、


児童養護施設で働く友梨佳を演じた佐津川愛美が、
しっかりした演技で本作を支えていた。


語りたいことは多いが、
出勤前なので、この辺で……

映画を撮るということに関して、
若い人たちに、ある可能性を示したと言える傑作『デイアンドナイト』。
映画館で、ぜひぜひ。

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