本作『チワワちゃん』は、
岡崎京子のコミックが原作の映画である。
岡崎京子のコミックが原作の映画と言えば、
蜷川実花監督作『ヘルタースケルター』(2012年、主演・沢尻エリカ)
行定勲監督作『リバーズ・エッジ』(2018年、主演・二階堂ふみ)
を思い出すが、(タイトルをクリックするとレビューが読めます)
いずれも傑作であった。
だから、『チワワちゃん』(2019年1月18日公開)も早く見たいと思っていた。
監督は、弱冠27歳の新鋭・二宮健。
主演は、私の好きな門脇麦。
成田凌、寛一郎、玉城ティナ、吉田志織、村上虹郎らに加え、
栗山千明、浅野忠信も出演しているということで、
弥が上にも期待は高まっていた。
しかし、第5回「一日の王」映画賞の対象となる2018年公開作品をすべて見終わってから2019年公開作品を見ようと思っていたので、我慢していた。(笑)
そして、先日、第5回「一日の王」映画賞の発表をして区切りがついたので、
やっと『チワワちゃん』を見ることができたのだった。
その日、東京湾バラバラ殺人事件の被害者の身元が判明した。
千脇良子・20歳・看護学校生。
ミキ(門脇麦)はそれが、自分の知っている“チワワちゃん”のことだとは思わなかった。
ミキがいつものミュージックバーで、
仲間のヨシダ(成田凌)、カツオ(寛一郎)、ナガイ(村上虹郎)、ユミ(玉城ティナ)らと飲んでいる時、
ヨシダの新しいカノジョとしてチワワ(吉田志織)が現れた。
以前、ヨシダのことが好きだったミキは、フクザツな気持ちで二人を見ていた。
その時、バーテンダーのシマ(成河)から、
VIP席にいる男たちのバッグの中に、政治家に届ける600万円が入っていると教えられる。
皆がザワつくなか、意を決したチワワが、あっという間にバッグを奪って、走り出した!
翌朝、昨夜の男たちが贈賄罪の疑いで逮捕されたとニュースで報じられていた。
宙に浮いた大金をめでたく頂いて、バカンスに繰り出すミキたち。
毎晩が豪華なパーティと、最高のお祭り騒ぎ。
だが、600万円をたった3日で使い切り、皆は日常に戻っていった。
そんななか、チワワだけが“パーティ”を続けていた。
インスタがきっかけとなり人気モデルとなったチワワは、
サカタ(浅野忠信)という有名カメラマンと付き合い始めていた。
やがてチワワとミキたちは住む世界も違い始めていった。
チワワを偲ぶために、仲間たちが久しぶりに集まったが、誰も最近のチワワを知らなかった。
そんな中、ファッション雑誌のライターのユーコ(栗山千明)から、
チワワの追悼記事の取材を受けるミキ。
もっと話を聞かせてほしいと頼まれたミキは、
仲間たちにあらためてチワワとの思い出を聞きに行く。
しかし、ミキを待ち受けていたのは、
それぞれの記憶の中の全く違うチワワだった……
結論から言うと、
エネルギッシュな若者たちの青春を描いた傑作であった。
映像と音楽センスが優れ、
冒頭から見る者を圧倒する。
映像に乗せられ、
音楽に乗せられ、
あっという間に映画の世界へ連れ去られる。
原作者・岡崎京子の作品世界、
蜷川実花監督作『ヘルタースケルター』にあった極彩色の映像や空虚さ、
行定勲監督作『リバーズ・エッジ』にあった爆発寸前の愛憎や孤独や性といったものを、
しっかりと内包しつつ、
前2作にはない“疾走感”で、
鮮やかに青春を切り取って、その断面を見せてくれた。
『チワワちゃん』を脚色、演出し、
しかも傑作に仕上げたとき、
弱冠27歳だったという二宮健監督とは、どういう人物なのか?
【二宮健】
1991年生まれ、大阪府出身。
10代から映画制作をはじめ、
2015年に卒業制作作品として発表された『SLUM-POLIS』が国内外の映画祭で話題を呼び、全国で劇場公開される。
2017年、原案・監督・脚本を務め、桜井ユキ・高橋一生出演『THE LIMIT OF SLEEPING BEAUTY』で、商業映画デビューを果たした。
その他の監督作品に、
『MATSUMOTO TRIBE』(17)、
『眠れる美女の限界』(14)など。
DEAN FUJIOKA、BiSHらのMVを監督するなど、
ジャンルを超えた映像の制作を行っている。
この二宮健監督に見い出され、
チワワちゃんこと千脇良子を演じた吉田志織が超ド級に素晴らしかった。
私は、門脇麦を目当てに本作を見に行ったので、
最初はずっと門脇麦ばかりを見ていた。
ヨシダ(成田凌)の新しいカノジョとしてチワワ(吉田志織)が現れたときも、
目を引くような“美”を持っているわけでもなく、
“存在感”もそれほど感じられず、
過去を回想するときに、バラバラ殺人事件の被害者として、イメージ映像的に現れるだけの女優だと思っていた。
だが、物語が進むにつれ、
回想シーンと思われた過去譚が本作『チワワちゃん』の主旋律と解ったとき、
主役である門脇麦よりも、
チワワちゃんを演じた吉田志織の存在感が徐々に増してきて、
やがて、吉田志織が主役の座に躍り出るのだ。
色の無い人物に、薄い色が付けくわえられ、
やがて、鮮やかな原色に彩られていく。
このジワジワ感がタマラナイほど素敵だった。
【吉田志織】
1997年3月21日生まれ、北海道出身。
主な出演映画に、『honey』(2017)、『心が叫びたがってるんだ。』(2017)。
主な出演ドラマは、「モブサイコ100」(テレビ東京)、「FHIT MUSIC♪」(dTV)、「花にけだもの」(フジテレビ/FOD)、「東京アリス」(Amazonプライム・ビデオ)、「クズの本懐」(フジテレビ/FOD)、「突然ですが、明日結婚します」(フジテレビ)、などがある。
2017年にデビューしたばかりの新人女優である。
本作のスクリーンに登場したときも、新人女優のような雰囲気を漂わせていた。
だが、途中から徐々に新人らしさが抜けてゆき、
後半にはこの映画に登場する俳優の誰よりもキャリアがあるような存在感を身に纏うようになる。
これは本当に凄いことだ。
(こんな表現はあまり使いたくないが)本来の主役である門脇麦を食ってしまうほどであった。
これほどまでの女優に仕上げた二宮健監督も凄いが、
その演出に応えた吉田志織も凄い。
これからどんな女優に育っていくのか、本当に楽しみだ。
ミキを演じた門脇麦も悪くはなかったが、
途中から本人も気づき始めたのではないだろうか?
本当の主役は、チワワちゃんであることを……
だからなのか、演技に“戸惑い”のようなものが見られた。
そういう役柄でもあったのだが、なんだか元気がないように感じた。
若者だけが登場する映画ではあるが、
ベテランの有名カメラマン・サカタを演じた浅野忠信が登場すると、
それまでの雰囲気を一変させたのは「さすが」であった。
サカタはチワワを撮りながら、
チワワに問い続け、チワワの中にあるものを引き出そうとする。
チワワの吉田志織が存在感を増してくるのも、この浅野忠信とのシーンがきっかけだったように感じた。
浅野忠信は、役柄としてチワワを、
そして、吉田志織の演技を、吉田志織の良さをも引き出していたのだ。
このシーンには、本当に惹き込まれた。
吉田志織の女優開眼の瞬間に立ち会ったような気にさえさせられた。
本作『チワワちゃん』を見終わって感じたのは、
昨年(2018年)に鑑賞した『ここは退屈迎えに来て』に構図が似ているということ。
門脇麦、成田凌といった出演者がダブっていることもあるが、
『ここは退屈迎えに来て』が、
みんなの憧れの的だった椎名(成田凌)を巡る物語であったのに対し、
『チワワちゃん』の方は、
チワワ(吉田志織)を巡る物語であったからだ。
『ここは退屈迎えに来て』の都会版、現代版が『チワワちゃん』であるような気がした。
『ここは退屈迎えに来て』のレビューにも描いたが、
「人は、見たいものしか見ないし、見えていない」のだ。
映画『チワワちゃん』でも、
それぞれの記憶の中のチワワは、全く違うチワワであった。
自分が思っていた人物が、
他人にはまったく違って見えていたということは往々にしてある。
『市民ケーン』を持ち出すまでもなく、この手の映画や小説は数限りなくあるので、
それらと比較しながら楽しむのも一興だ。
いろんな楽しみ方ができる傑作『チワワちゃん』。
新鋭・二宮健監督の作品として、
新人・吉田志織が女優開眼した作品として、
長く語り継がれるであろう。
映画館で、ぜひぜひ。