俳優・水谷豊の監督デビュー作である。
本作の企画は、40年前、
23歳の水谷豊が思い描いていたあるストーリーが元になっているという。
その後、ブロードウェイで見たショウにショックを受け、
言葉や文化の壁を超えたエンターテインメントとして、
足音で奏でるタップダンスをモチーフにした、
若きダンサーたちの青春ストーリーに思いを馳せるようになったそうだ
この企画が具体的に動き出したのは、2015年。
遠藤英明プロデューサーに、長年思い描いていたストーリーを打ち明け、
遠藤は水谷の話を元にプロットを作成し、
その後、脚本家・両沢和幸の手により、物語が作り上げられた。
当初は、天才タップダンサーを主役に据えた物語を想定していたが、
水谷が既に60代になっていた為、
主役は、元・天才タップダンサーで、
とある理由から大きな怪我を患い、今は一線を退いている設定とされ、
彼と、未来あるタップダンサーの若者たちの“師弟の物語”としてストーリーが出来上がった。
1988年12月24日東京「THE TOPS」。
ステージに置かれたドラム缶の上で、若い男が激しいタップを踏んでいる。
男は、宙高くジャンプするも着地に失敗。
落下の際に倒れたドラム缶の下敷きになり、左足に大怪我を負う。
これが天才タップダンサー・渡真二郎(水谷豊)のラスト・ショウとなった。
それから、約30年後。
ダンサー引退後も、振付師としてショウ・ビジネスの世界に身を置く渡だが、
酒に溺れ、自堕落な日々を過ごしていた。
ある夜、渡のもとを旧知の劇場オーナー・毛利喜一郎(岸部一徳)が訪れた。
約半世紀の歴史を誇る劇場「THE TOPS」も、時代の流れとともに客足が遠のき、
いよいよ看板を降ろすことに。
その最後を飾るショウの演出を、盟友の渡に依頼しに来たのだった。
気乗りのしないまま、とりあえず参加したオーディションだったが、
とても使えそうにない参加者ばかりにうんざりし、退出しかける。
そんな渡の足を引き止めたのは、
MAKOTO(清水夏生)のパワーに溢れたタップの音だった。
その音を聴いた瞬間、渡の止まっていた時間が再び動き始めた……
MAKOTOをはじめ、渡の厳しいオーディションを勝ち抜いた
RYUICHI(HAMACHI)、
MIKA (太田彩乃)、
YOKO(佐藤瑞季)に、
JUN(西川大貴)も加わって、
「ラスト・ショウ」に向けて、ハードなレッスンが始まった……
監督デビュー作にしては、なかなかの作品であった。
面白かったし、エンターテインメント作品として成り立っていると思った。
題材は、すでに手垢の付いたベタな内容であるし、新鮮さはない。
水谷豊、岸部一徳、北乃きい、六平直政、前田美波里など、
著名な俳優は出演しているものの、
主要なタップダンサーたちは、皆、無名で、
俳優を専門としていないので、演技はイマイチ。
だから、
それぞれに苦悩を抱えた若者たちの人生を描いた部分は弱い。
にもかかわらず、見る者の心を動かす作品に仕上がっているのは、
やはり水谷豊監督の作品への思いがたくさん詰まっているからであろうと思った。
ステッキが折れてしまうほどの常軌を逸した猛特訓は、
映画『セッション』を思わせる。
気迫に満ちた若きダンサーたちのタップは、
映画『ラ・ラ・ランド』のようだ。
両作品を監督したデミアン・チャゼルの影響も少しはあるのかもしれない。
若手ダンサーの主演的存在であるMAKOTOを演じた清水夏生のダンスは見事であったが、
やや存在感が薄く、北乃きいに助けられた部分が大きかったのが気になった。
それと比較して、
脇役ではあったが、「THE TOPS」の事務員を演じた「さな」(本名は、赤坂さなえ)が存在感があって良かった。
演技も悪くなく、ラストに見せ場もある。
水谷豊監督も、粋な演出をするもんだ。
もう一人、
MIKAを演じた太田彩乃が印象に残った。
厳格な父に隠れてダンスを続ける病弱なお嬢さんの役であったが、
その清楚な佇まいと、熱を帯びたダンスとの対比が素晴らしかった。
木村多江を若くしたような感じで、
これからも期待できる女優ではないかと思った。
この映画の見所のひとつは、美術(近藤成之)が優れていること。
渡真二郎(水谷豊)が酔いつぶれている酒場、
劇場「THE TOPS」の舞台や事務室、
MAKOTO(清水夏生)と恋人・森華(北乃きい)が住むアパートなど、
実に好い雰囲気を醸し出している。
小道具、大道具も凝っていて、見る者を飽きさせない。
「魂が鳴り響く、ラストダンス24分。」
という謳い文句の通り、
ラストのダンスにも感動させられた。
音楽やダンスを題材とした映画は、
この「ラスト○○分」というのが常套句だし、
「またか」という気分にもさせられはするが、
そこに至る過程と、ラストへ集約されていく盛り上げ方が優れていれば、
やはり感動させられる。
エンドロールまでダンスになっているので、
最後の最後まで楽しめるのが好い。
本作『TAP THE LAST SHOW』は、
佐賀県での上映がなく、
福岡の(レトロ感あふれる)中洲大洋で見たのだが、
観客にお年寄りが多かったということもあるかもしれないが、
映画が終わって拍手が起きたのも久しぶりの体験だった。
ベタな内容、
ベタなセリフ、
ベタな演出ではあるが、
この映画には、観客を楽しませようとする“熱”を感じるし、
それが、私にも好印象を与えた。
水谷豊の初監督作品としては、「成功した」と言えるのではないかと思う。
こういう「思いが詰まった」作品は、何度も撮れるものではないが、
あえて「次作にも期待」と言っておきたい。
映画館で、ぜひぜひ。