
濱口竜介監督作品である。

濱口竜介監督作品で真っ先に思い出すのは、
2015年に公開された映画『ハッピーアワー』。
……2015年に公開された日本映画のナンバーワン!……
とのサブタイトルを付してレビューを書いたが、(レビューはコチラから)
2015年以降に公開された日本映画の中でも、
私の中では(今でも)ナンバーワンに輝いている作品である。
上映時間が5時間17分もあるマイナーな作品だったので、
上映館も少なく、見ていない人の方が多いと思うが、
あの『ハッピーアワー』を佐賀の映画館(シアターシエマ)で、
スクリーンで見ることができた幸運を、今でも感謝している。

一般の人に記憶されている濱口竜介監督作品と言えば、
濱口竜介監督の商業映画デビュー作『寝ても覚めても』(2018年)だろう。
……唐田えりかの美しさが際立つ濱口竜介監督作品……
とのサブタイトルを付してレビューを書いたのだが、
その一部を引用してみる。
濱口竜介監督の商業映画デビュー作は、
突然行方をくらました恋人を忘れられずにいる女性が、
彼と“うり二つ”の男性と出会って揺れ動くさまを描いたラブストーリーであった。
映像が美しく、
静かに進行するストーリーの後に、驚きの展開が待っている傑作で、
商業映画としても成功している作品だと思った。
そして、ストーリーの展開以上に驚かされたのは、
ヒロイン・泉谷朝子を演じた唐田えりかの“美”であった。
〈こんなにも美しい女優がいたのか……〉
という驚き。

【唐田えりか】
1997年9月19日、千葉県生まれ。
2014年、アルバイト先のマザー牧場でスカウトされ芸能界入り。
2015年に大手企業CMに抜擢され、一躍話題になる。
2016年には、back number「ハッピーエンド」のMVに出演し、
圧倒的な透明感で話題になる。
TVドラマでは「こえ恋」(2016∕テレビ東京)、「ブランケット・キャッツ」(2017∕NHK)、「トドメの接吻」(2018∕日本テレビ)などに出演。
ファッション誌「MORE」の専属モデルとしても活躍中。
2017年からは、韓国にも活躍の場を広げ、
大手企業のCMや、
Brown Eyed Soulのナオルのシングル「Emptiness in Memory」MVなどに出演し、
さらなる注目を集めている。
本作『寝ても覚めても』で初ヒロインを務め、本格的に映画デビューを果たす。
本作『寝ても覚めても』での唐田えりかとの出逢いは、
古くは、
『ロミオとジュリエット』(1968年)でのオリヴィア・ハッセー、
『勇気ある追跡』(1969年)でのキム・ダービー、
『赤頭巾ちゃん気をつけて』(1970年)での森和代、
『おもいでの夏』(1971年)でのジェニファー・オニール
新しくは、
『阿弥陀堂だより』(2002年)での小西真奈美、
『ラブ・アクチュアリー』(2003年)でのキーラ・ナイトレイ、
『パッチギ! 』(2005年)での沢尻エリカ、
『天然コケッコー』(2007年)での夏帆、
『愛のむきだし』(2009年)での満島ひかり、安藤サクラ、
『最後の忠臣蔵』(2010年)での桜庭ななみ、
『SUPER8/スーパーエイト』(2011年)でのエル・ファニング、
『海街diary』(2015年)での広瀬すず、
『夜空はいつでも最高密度の青色だ』(2017年)での石橋静河、
『四月の永い夢』(2018年)での朝倉あき
との出逢いに匹敵する。

一目惚れしやすい(熱しやすく冷めにくい)私としては、(笑)
もうこれ以上、好きな女優を増やしたくないのだが、
またもや唐田えりかに一目惚れしてしまった。(コラコラ)
これまで素人や無名俳優を使って映画を創ってきた濱口竜介監督にとって、
従来の演出法に最もフィットしたのが、
新人女優の唐田えりかではあるまいか。
演技自体はまだまだであるが、
この映画における存在感はピカイチで、
唐田えりかにとっての(女優としての)初期の代表作になったと思う。

唐田えりかは語る。
オーディションでヒロインに選んでいただいたのですが、撮影まで約2カ月間の準備期間があって、そのとき、東出さんがみんなをご飯に誘ってくれました。東出さんからは「役柄では恋人同士なので、タメ口でしゃべってほしい」と言っていただいたり、意思疎通は取れていたので、撮影前から関係性はできていました。
そういう状態で撮影に入ったのは初めてでした。良い意味で、何も考えずに現場に居ることができたというか、「ああしよう、こうしよう」ではなくて、その場で感じたままに演じられたというか……。不安が少ない状態でお芝居ができたことで前向きになれました。そのおかげで、濱口監督からはお芝居の基盤を教えてもらいましたし、お芝居をもっと知りたいと思うようになりました。
濱口竜介監督の指導法とは、
「1に相手、2にせりふ。3、4がなくて5に自分」
ということであったらしい。
演じる上で、まずは相手をみる。
(たしかに濱口竜介監督作品には互いを見つめ合うシーンが多い)

それを意識すると、せりふが自然に出てくる。
感じたままに動くと、
自分はどうでもよくて、相手が一番と大切だと思えるようになってくるのだという。
デビュー以降、演技に対して前向きになれない部分があり、苦手意識があったのだが、
『寝ても覚めても』では、演技へのアプローチを含めて初体験が多く、
前向きになれるきっかけになったそうで、
濱口竜介監督には本当に感謝しているとのことだった。

本格的な映画デビュー作が、濱口竜介監督作品であったことは、
唐田えりかにとって、物凄くラッキーなことだったのではあるまいか。
そして、唐田えりかを見出した濱口竜介監督の“目”も称賛されるべきものであろう。

と、唐田えりかをクローズアップして論じたのだが、
その後に起こった東出昌大と唐田えりかの不倫騒動で、
二人が出逢った作品が『寝ても覚めても』であった為、
そして、
当時あまり知られていなかった唐田えりかという女優が注目を浴びたこともあって、
私が書いたレビューへのアクセス数が急増し、
色んな意味で驚いたのを憶えている。
私は、俳優のプライベートな面については興味がなく、
不倫についても何も思うところはないのだが、
(第一、“おしどり夫婦”なんて呼ばれている俳優にロクな俳優はいない)
世間のバッシングの仕方、激しさには驚かされた。
まるで自分が被害を受けたかのような罵詈雑言がネットに溢れ、
俳優生命が絶たれるほどまでに二人を叩き続けるネット民に唖然とした。
あまりにも激しいバッシングだったので、
唐田えりかの行く末を心配していたのだが、
最近、唐田えりか×吉村界人W主演短編映画『something in the air』が公開され、

女優として復帰したことが報じられていたので、
唐田えりかファンの私としては、安心したし、嬉しかった。
話が脱線してしまったが、
その濱口竜介監督の新作が『ドライブ・マイ・カー』なのである。
原作は、村上春樹。
短編小説集『女のいない男たち』の中の一作で、
映画化に際しては、「ドライブ・マイ・カー」のほか、
同短編小説集に収録されている「シェエラザード」「木野」のエピソードも投影されているという。

村上春樹原作の映画は、
『風の歌を聴け』(1981年)
『ノルウェイの森』(2010年)
などの長編小説を映像化したものよりも、
『トニー滝谷』(2004年)
『ハナレイ・ベイ』(2018年)
『バーニング 劇場版』(2018年)
など、短編小説を映像化したものの方に傑作が多く、
『ドライブ・マイ・カー』も期待できると思った。
脚本は濱口竜介と大江崇允。
主演は西島秀俊で、ヒロインは三浦透子。
2021年・第74回カンヌ国際映画祭コンペティション部門に出品され、

日本映画では初となる脚本賞を受賞し、
国際映画批評家連盟賞、AFCAE賞、エキュメニカル審査員賞の3つの独立賞も受賞している。

(2021年)8月20日に公開された作品であるが、
佐賀ではシアターシエマで、1週間遅れの8月27日から公開された。
で、先日、やっと見ることができたのだった。

舞台俳優であり演出家の家福悠介(西島秀俊)は、
愛する妻の音(霧島れいか)と満ち足りた日々を送っていた。

しかし、音は秘密を残して突然この世からいなくなってしまう。
2年後、
広島での演劇祭に愛車で向かった家福は、
ある過去をもつ寡黙な専属ドライバーの渡利みさき(三浦透子)と出会う。

さらに、
かつて音から紹介された俳優・高槻耕史(岡田将生)の姿をオーディションで見つける。


喪失感と“打ち明けられることのなかった秘密”に苛まれてきた家福。
みさきと過ごし、お互いの過去を明かすなかで、
家福はそれまで目を背けてきたあることに気づかされていく。

人を愛する痛みと尊さ、
信じることの難しさと強さ、
生きることの苦しさと美しさ。
最愛の妻を失った男が葛藤の果てに辿りつく先とは……

映画の楽しみがすべて詰まった傑作であった。
上映時間が5時間17分もあった『ハッピーアワー』ほどではないが、
本作の上映時間も約3時間(正確には179分)あり、
老人にはトイレの心配や寝落ちの危険性があったのだが、(笑)
時間を忘れるほど集中して見ることができたし、
〈終わらないで欲しい……〉
と願うほど幸福感に包まれた3時間であった。
『寝ても覚めても』のときは商業映画デビュー作ということで、
濱口竜介監督らしさが少し薄まっているようにも感じたが、
『ドライブ・マイ・カー』は、『ハッピーアワー』の良さを色濃く残しつつ、
濱口竜介監督作品として進化させていて秀逸であった。
「見事!」の一言。

正直、映画を見る前は、
西島秀俊主演作ということで心配している部分もあった。

女性に人気のある俳優であるし、
〈そこを狙ってのキャスティングか……〉
と、疑う部分があったからだ。
だが、まったくの杞憂であった。
好い意味で西島秀俊という男優の個性が消されていたし、
濱口竜介監督作品のなかに溶け込んでいた。

濱口竜介監督も、
『ドライブ・マイ・カー』の家福役は、一体誰がと考えたときに、原作の家福像とは少し違うのですが、西島さんにやっていただきたいと強く思いました。西島さんは村上春樹の世界自体にすごく親和性があるからです。自分を出しすぎないのだけど、決して率直さを失わないご本人の人となりが、村上春樹が描く主人公全般のイメージにとても近いということなのだと思います。(パンフレットの濱口竜介監督インタビューより)
と語っていたが、
映画を見終える頃には、私自身も、
〈主演は西島秀俊でなければならなかった……〉
と思わされたほどであった。
西島秀俊は、
私の好きなモトーラ世理奈の主演作『風の電話』(2020年)にも出演していたし、
私の好きな清原果那主演のNHK朝ドラ「おかえりモネ」にも出演し、
私の好きな石井杏奈が出演しているので観ていた「シェフは名探偵」(2021年5月31日~8月2日、テレビ東京)にも出演(主演)していた。
私の好きな女優の作品にいつも出ている印象があり、妬ける。(コラコラ)

濱口竜介監督作品で、いつも感心させられるのは、
女優のキャスティングが素晴らしいこと。
『ハッピーアワー』は、演技未経験者ばかりを使って作られた傑作であったのだが、
菊池葉月、三原麻衣子、田中幸恵、川村りらの4人はとても魅力的であったし、
この4人を、私は、第2回「一日の王」映画賞の最優秀主演女優賞に選出している。(コチラを参照)
『寝ても覚めても』の一番の功績も、
ヒロインに唐田えりかをキャスティングしたことにあった。
本作『ドライブ・マイ・カー』でも、女優の配役は見事で、
三浦透子、霧島れいか、パク・ユリムのキャスティングに唸らされた。
まずは、専属ドライバーの渡利みさきを演じた三浦透子。

三浦透子を素晴らしい女優として初めて認知したのは、
『素敵なダイナマイトスキャンダル』(2018年)という作品においてだった。
……柄本佑、三浦透子の演技が秀逸な傑作……
とのサブタイトルを付してレビューを書いたのだが、
そこで私は三浦透子について次のように記している。
末井昭の愛人・笛子を演じた三浦透子。

彼女の演技が、とにかく素晴らしかった。
(原作の)『素敵なダイナマイトスキャンダル』ではほとんど触れられておらず、
主に『自殺』の方に書かれている女性であったが、
末井との不倫関係から腐れ縁的な倦怠へ移行し、
やがて精神に異常をきたしていく女性の凄惨な顛末が描かれているのだが、
この難しい役を、三浦透子は見事に演じ切っている。

以降、
『フジコ・ヘミングの時間』(2018年)でのナレーション
『21世紀の女の子』の中の「君のシーツ」という短編映画(2019年)に主演
『あの日のオルガン』(2019年)
『ロマンスドール』(2020年)
『おらおらでひとりいぐも』(2020年)
などで彼女を見てきたが、
個性的な顔立ち、唯一無二の演技で、
私に強い印象を残し続けている。
本作『ドライブ・マイ・カー』では、
寡黙なドライバーの役であったが、
何も言わなくても、過去に何があったのかまでも見る者に知らしめるような、
深く、緊張感のある演技で、作品の質を高めていた。

本作ではなく、同じ濱口竜介監督作品『偶然と想像』(2021年末公開予定)のオーディションに参加したことが本作の出演につながったそうで、
三浦透子をオーディションで見たときの印象を、濱口竜介監督作は次のように語っている。
三浦さんは、『偶然と想像』の制作時にやっていたオーディションでお会いしました。その時話していて本当に聡明な方だと思いました。しかも頭のよさが世の中を斜めに見たり、「こんなもんだろう」と低く見積もる方にははいっていなくて、自分や周囲を良くしていく知性がある人という印象で、そこが本作のみさき像と重なったんだと思います。「あぁ、みさきがいた」と。オーディションが終わった後、山本プロデューサーに連絡して、この方を絶対にみさきにしたいんだ、と言いました。オーディション時に、運転免許を持っていないと聞いていたのでオファーの際には免許を取ることも含め、打診して下さいと伝えました。結果、免許も取り、運転も特訓していただいて、とても素晴らしく映画のなかに存在してくれていると思います。(パンフレットの濱口竜介監督インタビューより)

本作には、ロードムービー的な側面もあり、
家福とみさきが、みさきの故郷である北海道まで車で行くシーンがあるのだが、

その故郷を背景にしたみさきが殊の外素晴らしく、(三浦透子も北海道出身)
三浦透子という女優の奥深さや凄みを見せられたような気がした。

家福悠介(西島秀俊)の妻・音を演じた霧島れいか。

『ドライブ・マイ・カー』と同じ村上春樹原作の映画『ノルウェイの森』で、
レイコという重要な役を演じていたのが強く印象に残っているが、

霧島れいかもまた村上春樹の作品と親和性がある俳優(女優)だと思う。
原作では故人としてしか登場せず、
生きた(家福の妻の)音として登場するのは映画のみであるのだが、
違和感なくそこに佇み、微笑み、
あたかも原作にも書かれていたかのように自然に立ち振る舞う霧島れいかに感嘆した。

霧島れいかの美しさはもちろん、
彼女の声にも魅せられた。
家福は、車で移動する間、
妻の音が録音してくれたカセットテープを聴きながら舞台のセリフ練習をするのだが、
その声が実に魅力的で、聴いていて飽きることがない。
『かぐや姫の物語』(2013年)、『四月の永い夢』(2018年)での朝倉あきの声に勝るとも劣らない魅力的な声だったと思う。
霧島れいか自身は、
本読みが「感情を抜いて読む」ところからスタートしたので、そこを出発点にカセットテープに吹き込む声は「強弱をつけず、淡々と語る」ようにつくっていきました。そこに「もうちょっとゆっくり、或いは速く」を繰り返して、どれが音に近いのかを微調整しました。
音はもうそこにはいない人だけど、私にはあの車の中にいるように見えて、「あの時収録した声がこういう効果になっているんだ!」と驚きましたし、完成した作品を観て、すごく感動しました。(パンフレットの霧島れいかのインタビューより)
と語っていたが、
繰り返し流れる彼女の“声”が、本作の物語ともリンクし、ある種のリズムを生み、
この映画を感動作へと導く。
霧島れいかが本作で果たした客割は計り知れないものがあると感じた。

イ・ユナを演じたパク・ユリム。

映画の中で、家福が演出しているのは「ワーニャ伯父さん」の多言語演劇なのであるが、

その中に、韓国人の聴覚障がい者で韓国手話で演技する(という設定の)、
イ・ユナという女性が登場するのだが、
この女性(イ・ユナ)を演じているのが、パク・ユリムという韓国の女優であった。
このパク・ユリムの演技(表現力)がとにかく素晴らしかった。

本作のラスト近くで、
「ワーニャ伯父さん」の舞台でソーニャを演じるパク・ユリムが、
ワーニャを演じる西島秀俊へ手話で語りかけるシーンがあるのだが、
そのシーンのなんと尊かったことか。
ここに至るまでにも感動のシーンがいくつもあるのだが、
このソーニャ演じるパク・ユリムが手話で語りかけるシーンで最高潮に達する。

ワーニャ伯父さん、生きていきましょうよ。長い、はてしないその日その日を、いつ明けるとも知れない夜また夜を、じっと生き通していきましょうね。運命がわたしたちにくだす試みを、辛抱づよく、じっとこらえて行きましょうね。今のうちも、やがて年をとってからも、片時も休まずに、人のために働きましょうね。そして、やがてその時が来たら、素直に死んで行きましょうね。あの世へ行ったら、どんなに私たちが苦しかったか、どんなに涙を流したか、どんなにつらい一生を送って来たか、それを残らず申上げましょうね。すると神さまは、まあ気の毒に、と思ってくださる。その時こそ伯父さん、ねえ伯父さん、あなたにも私にも、明るい、すばらしい、なんとも言えない生活がひらけて、まあ嬉うれしい! と、思わず声をあげるのよ。そして現在の不仕合せな暮しを、なつかしく、ほほえましく振返って、私たち――ほっと息がつけるんだわ。わたし、ほんとにそう思うの、伯父さん。心底から、燃えるように、焼けつくように、私そう思うの。……(伯父の前に膝をついて頭を相手の両手にあずけながら、精根つきた声で)ほっと息がつけるんだわ!(神西清訳)
この「ワーニャ伯父さん」のラストのソーニャのセリフを、
パク・ユリムが韓国手話で語りかけるのだが、
パク・ユリムの、その表情、手の動き、そして指先で紡がれる言葉を心で聴いていたら、
〈自分の人生の終末はこのようなものであってほしい……〉
と思わされるほどに感動させられた。

チェーホフを古臭いと感じてた私の認識を改めさせられたし、
チェーホフをまた読んでみたいと思わせるほどのインパクトがあった。

韓国・ソウルのオーディションで濱口竜介監督が見いだし、
キャスティングしたパク・ユリム(박유림)であるが、
彼女の名でネット検索しても、少しの情報しか出てこないので、
韓国ではそれほど有名な女優ではないのかもしれない。(違っていたらごめんなさい)

だが、これほどの演技をする女優がオーディションを受けて日本の映画に出演し、
素晴らしい演技をする、そのチャレンジ精神、韓国映画界の層の厚さに驚かされる。

女優たちを論じるのに力を入れ過ぎて、
高槻耕史を演じた岡田将生や、

コン・ユンスを演じたジン・デヨンについて、
語る気力が失せてしまった。(コラコラ)

この映画のテーマでもあり、肝となっているのは車の走行シーンで、
原作では東京が舞台なので、本当は東京で撮りたかったそうなのだが、
東京では、昨今、車の走行シーンはまったく自由に撮れないとの理由から、
当初、韓国の釜山でロケされる筈であったとのこと。
それが、新型コロナウイルスの影響などでダメになって、
急遽、広島に変更になった。
広島市のフィルムコミッションの力がものすごく大きくて、
都市部での撮影も十分にできたし、瀬戸内の島々でも撮れたそうだ。

家福とみさきが初めて出会う場所となった広島国際会議場、

家福とみさきが心を通わせる重要な場所として登場する広島市環境局中工場、

家福が広島滞在中に宿泊する場所となった呉市御手洗など、
舞台となっている広島の風景も本作の魅力のひとつになっている。

この映画では、俳優たちと同等に、車も重要な役を担っていているのだが、
原作ではサーブ900の黄色いコンバーチブルだったが、

映画ではサーブ900の赤いサンルーフに変更されている。

「本作のサーブ900は、コンバーチブルで黄色でなければサーブ900である意味はない」
とするマニアの意見もあるようだが、
黄色は、実際に撮るとなれば風景のなかに埋もれがちです。車を選ぶ上でいちばん大事だったのは、屋根があるということでした。セリフを録音するために。実際に現場で俳優たちが発した言葉を使いたいと思っていたので、そうするとオープンカーという選択肢はありませんでした。ここを変更する可能性が大きいことは、最初に村上春樹さんに送った手紙でもお伝えしました。ただ実を言うと黄色のコンバーチブルも、劇用車の会社の手配で見に行ったのですが、その会社の社長が、まさにこの赤のサーブに乗ってやって来たんです。それがめちゃめちゃカッコ良かった。とても大事にされていた車だったので、手入れが行き届いていて。同じサーブ900だし、この車が良いんじゃないかとなりました。(「Fan's Voice」濱口竜介監督へのインタビューより)
との理由で、赤いサンルーフに変更された。
私自身も、濱口竜介監督作品としての『ドライブ・マイ・カー』には黄色のコンバーチブルはそぐわないと思ったし、もし黄色のコンバーチブルだったならば物語もまた違ったものになっていたような気がした。

「映画を通じてどんなことを伝えたいですか?」
という問いに、濱口竜介監督は、
こういうことを伝えたいというのは、特にないというのが正直なところです。体験をしてほしい、とは思っています。そこそこ長い映画ですけれど、その時間をずっと楽しめるように作っていますので、乗り物に乗るように映画を見ていただけたらいいかな。その時に感じていることがすべて正しいことだと思うので、乗り物に乗るような感じで見にきていただけたらと思います。(地球の歩き方編集室インタビューより)
と答えていたが、
この映画を見ることは、まさに体験であると思う。
そこそこ長い映画だが、(笑)
楽しく、充実した時間は短く感じるものだ。
私にとっては、もっと長い時間ドライブしていたいような気分であった。
このような体験ができることは、本当に稀なことだ。
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