一日の王

「背には嚢、手には杖。一日の王が出発する」尾崎喜八

映画『少女は卒業しない』 ……河合優実の初主演作にして青春恋愛映画の傑作……

2023年03月19日 | 映画


私は、女優・河合優実のファンである。


【河合優実】
2000年12月19日生まれ、東京都出身。
2019年デビュー。
2021年に公開された、

『サマーフィルムにのって』(2021年8月6日公開、松本壮史監督)
『由宇子の天秤』(2021年9月17日公開、春本雄二郎監督)
などの作品で、
第43回ヨコハマ映画祭「最優秀新人賞」
第35回高崎映画祭「最優秀新人俳優賞」
第95回キネマ旬報ベスト・テン「新人女優賞」
第64回ブルーリボン賞「新人賞」
2021 年度全国映連賞「女優賞」
を受賞。
2022年には、

『ちょっと思い出しただけ』(2022年2月11日公開、松居大悟監督)
『愛なのに』(2022年2月25日公開、城定秀夫監督)
『女子高生に殺されたい』(2022年4月1日公開、城定秀夫監督)
『冬薔薇』(2022年6月3日公開、阪本順治監督)
『PLAN75』(2022年6月17日公開、早川千絵監督)
『百花』(2022年9月9日公開、川村元気監督)
『線は、僕を描く』(2022年10月21日公開、小泉徳宏監督)
『ある男』(2022年11月18日、石川慶監督)

と、8作もの出演作が公開され、
第14回TAMA映画賞「最優秀新進女優賞」
第44回ヨコハマ映画祭「助演女優賞」
ELLE CINEMA AWARDS 2022「エル・ガール ライジングアクトレス賞」
第35回日刊スポーツ映画大賞・石原裕次郎賞「新人賞」
などを受賞。


上に記した映画はすべて見ているし、
今後も、河合優実の出演作はすべて見たいと思っている。
今年(2023年)公開予定の河合優実出演作は、今のところ、
『少女は卒業しない』(2023年2月23日公開、 中川駿監督)
『ひとりぼっちじゃない』(2023年3月10日公開、伊藤ちひろ監督)

の2作なのだが、
『ひとりぼっちじゃない』は佐賀県での公開予定はなく、(なんとかして見に行くつもり!)
『少女は卒業しない』の方は、
全国公開日から約1か月遅れの3月17日から佐賀でも公開されると発表された。
『少女は卒業しない』は河合優実の映画の初主演作。
河合優実には過去に、
『透明の国』(2020年・嵐あゆみ監督の東京藝術大学修了作品)という主演映画と、
『AREA』(2022年・関翼監督)という短編の主演映画があるが、
長編の商業映画主演作としては『少女は卒業しない』が初となる。


原作は、
「桐島、部活やめるってよ」「何者」などで知られる直木賞作家・朝井リョウが、
2012年に発表した連作短編小説。


すでに映画化されている
『桐島、部活やめるってよ』(2012年8月11日公開、吉田大八監督)
『何者』(2016年10月15日公開、三浦大輔監督)
の印象が良かったので、
その相性の良さからも映画『少女は卒業しない』は期待が持てると思った。


原作に感銘を受け、監督・脚本を手掛けたのは、
高校生を主人公に描いた短編映画『カランコエの花』が国内映画祭で13冠を受賞し、
話題を呼んだ中川駿。
本作が中川駿監督にとっても商業長編映画デビューとなる。
原作にある7編の物語から4編を抜き出し再構築しており、
廃校前の高校を舞台に、卒業式までの2日間における4人の少女たちの心の機微を、
丁寧に描き出しているという。


河合優実の他、
小野莉奈、小宮山莉渚、中井友望と、
将来有望な女優たちがキャスティングされており、
弥が上にも期待は高まった。
で、佐賀での公開初日(3月17日)に、
ワクワクしながら上映館であるシアターシエマに駆け付けたのだった。



廃校が決まり、校舎の取り壊しを目前に控えた地方のとある高校。
“最後の卒業式”までの2日間。
別れの匂いに満ちた校舎で、
世界のすべてだった“恋”に「さよなら」を告げようとする4人の少女たち。
進学のため上京するバスケ部長・後藤由貴(小野莉奈)は、
地元に残る恋人・寺田(宇佐卓真)との関係が気まずくなっていた。


軽音楽部長の神田杏子(小宮山莉渚)は、
幼なじみの森崎(佐藤緋美)に思いを寄せている。


クラスになじめず図書室に通う作田詩織(中井友望)は、
図書室の管理をする坂口先生(藤原季節)に淡い恋心を抱いている。


そして卒業生代表の答辞を務める山城まなみ(河合優実)は、
どうしても伝えられない彼・佐藤駿(窪塚愛流)への“想い”を抱えていた。


抗うことのできない別れを受け入れ、
それぞれが秘めた想いを形にしようとしていた……




河合優実の主演作ではあるが、
山城まなみ(河合優実)
後藤由貴(小野莉奈)
神田杏子(小宮山莉渚)
作田詩織(中井友望)
という女子高生4人を中心に、


それぞれの恋愛の相手である、
佐藤駿(窪塚愛流)
寺田賢介(宇佐卓真)
森崎剛士(佐藤緋美)
坂口先生(藤原季節)
を含めた群像劇で、


序盤は、各人の紹介を兼ねたような卒業式直前の学校内の様子が描かれ、
ありがちな学園ドラマ、学園群像劇のような感じで進む。


だが、中盤から終盤にかけて、
それらステレオタイプの学園モノとは一線を画す展開をみせる。
物語は静かに進行するのだが、
ドキドキさせられ、ワクワクさせられ、感動させられるのだ。


(ネタばれになるので詳しくは書けないが)これが実に新鮮で、
私はいつしか涙を流していた。
映画鑑賞後、
〈私は何に感動して涙を流したのだろう……〉
と考えたが、いまひとつはっきりしない。
終盤はただダラダラと涙を流していたような気がする。(笑)
悪意というものがどこにも見当たらない純粋で美しい映画であった。
私の中の汚れたものがすべて浄化されたような爽やかな気分になった。
ただ単に河合優実の初主演作というだけではなく、
(前期高齢者の私にとっては)すでに失くしてしまったものがたくさん詰まった、
タイムカプセルのような、お金では買えない宝物のような作品であった。
ちょうど1年前に見た『愛なのに』と同じくらい、(レビューはコチラから)
好きになったし、何度でも見たいと思わせる映画であった。
『愛なのに』はBlu-rayディスクを買い、もう何度も見たし、
今も、メイキング映像やオーディオコメンタリー等を楽しんでいるが、
『少女は卒業しない』も(半年後くらいには発売されるであろう)Blu-rayディスクを買い、
これから先も何十回と鑑賞したいと思った。



山城まなみを演じた河合優実。
3年B組。料理部の部長で、卒業生代表として答辞を読むことになる……という役柄。






群像劇であるので、
〈主演作というのがやや薄れがちになるのでは……〉
と心配していたのだが、杞憂であった。
河合優実の出演シーンの比重は、他の3人より少し多いという程度であったが、
圧巻の演技で「河合優実の主演作である」ということを見る者に知らしめる。


特に後半は、
(詳しくは書けないが)難しいシチュエーションでの演技が要求されていたが、
さすがの演技で見る者を感動へと導いていた。


この映画は卒業というひとつのリミットに直面する高校生たちの群像劇です。
誰もが生きる上で経験する「絶対的な終わり」をいまどう捉えて物語に向き合うか、
じっくり自分に問いながら臨みました。
また、主演という形でお話を頂き、肩肘張らずに挑もうとは思いましたが、
やはり1番目に名前がくるとなると良いものを作りたいという気持ちが
いつも以上にメラメラと燃えはじめたのを最初から感じていました。
中川監督が有難いことに
私たち若いキャストと常に同じ目線に立とうとして下さったので、
なんとか感覚を伝えあおうと沢山言葉を交わしながらシーンを紡いでいきました。
キャストの皆さんとの日々も、とても瑞々しく感じられる出会いや再会が重なった春でした。
ラストカットを残して、皆が出番を終えて現場を去ってゆく体育館で、
人知れず泣いてしまったほどです。
あの時それぞれの中に映っていた景色が、
観てくださる方の胸にもたしかに反射するような映画になっていたらいいなと願っています。


河合優実はこうコメントしていたが、
「あの時それぞれの中に映っていた景色が、観てくださる方の胸にもたしかに反射するような映画になっていたらいいなと願っています」という言葉通りに、私の胸にも反射し、
私自身は高校の卒業式から50年(半世紀!)も経っているものの、
卒業式前の2日間と卒業式当日を、
山城まなみ(河合優実)と同じ空間で追体験しているような錯覚に陥った。


幸福な体験であったし、
これから先もこの「至福のひととき」を長く味わいたいと思った。


それほどの幸福感を与えてくれた河合優実に感謝したい。



後藤由貴を演じた小野莉奈。
3年B組。バスケ部の部長で、東京の大学への進学を決めているという役柄。


小野莉奈といえば、すぐに『アルプススタンドのはしの方』を思い出すが、(コチラを参照)
上映時間わずか75分間に、
「恋」や「友情」や「嫉妬」や「挫折」や「思いの行き違い」などなど、
青春のあらゆる要素が詰め込まれている傑作であった。
「アルプススタンドのはしの方」でのシーンがほとんどだし、
無名に近い俳優たちばかりだったが、
ベタだ、チープだと思いながら、
最後には涙を流させられているという不思議な映画でもあった。
そういう意味では『少女は卒業しない』と似ている部分があったかもしれない。


小野莉奈の演技も素晴らしく、
特に、バスケのシーンと、




花火のシーンは秀逸で、
『アルプススタンドのはしの方』と同じくらい感動させられた。



神田杏子を演じた小宮山莉渚。
3年B組。軽音部の部長で、森崎とは同じ中学校に通っていたという役柄。


小宮山莉渚といえば、すぐに『ヤクザと家族 The Family』を思い出すが、(コチラを参照)
由香(尾野真千子)の娘・彩を演じた小宮山莉渚の演技が今でも忘れられない。
銀幕デビュー作が、
綾野剛の新たな代表作となった藤井道人監督作品ということで、
その幸運は、小宮山莉渚の持つスター性が自ら呼び寄せたものであろう。
本作『少女は卒業しない』でも、そのスター性は健在で、
相手役が(こちらもスター性のある将来有望な)佐藤緋美ということで、
2人の相乗効果で作品を感動作へ導いている。


特に、森崎(佐藤緋美)が独唱するシーンは秀逸で、(歌が上手すぎないのがリアルで好い)


神田杏子(小宮山莉渚)が「どうだ、思い知ったか」という場面は、
本作の名シーンのひとつになっている。



作田詩織を演じた中井友望。
3年B組。クラスに馴染めず図書室に通い、坂口先生に憧れているという役柄。


中井友望で思い出すのは、やはり『かそけきサンカヨウ』だ。
そのレビューで、私は中井友望について次のように記している。

陽と陸の同級生・鈴木沙樹を演じた中井友望。


鈴木沙樹にも原作にはないシーンがあり、
それは、陽から告白された陸が、沙樹に相談するシーン。
陸が、陽への気持ちが自分でも分らず、
〈もしかして沙樹の方が好きなのかも……〉
と思いつつ沙樹に相談するのだが、
沙樹は陸の自分への思いを勘違いだときっちり正し、
「一番言いたいことが言えないってことはさ、それって好きってことなんじゃないの?」
と、断言する。
雨が降っている中でのこのシーンは、
青春映画としても名シーンで、
沙樹を演じた中井友望という女優の名もしっかりと私の心に刻まれた。



あの中井友望を、本作『少女は卒業しない』で見ることができたことが、
何よりも嬉しかった。
しかも、演技は数段進化していた。
これ見よがしな演技ではなく、地味で静かな演技なのであるが、
見る者の心に届く演技であった。
作田詩織(中井友望)が淡い恋心を抱いている相手が、
図書室の管理をする坂口先生で、
この坂口先生を演じる藤原季節の演技がこれまた上手いのだ。


生徒にも敬語で接する坂口先生は、
作田詩織からの好意を感じ取っている風にも見えるが、
彼女にも敬語で接することで一定の距離を取っているようにも見える。


そのあたりの節度が、この二人の心情を高めもする。
4組の中で、もっともドラマ性があったのは、作田詩織と坂口先生だったと言えるだろう。


対人関係が苦手な作田詩織に坂口先生がアドバイスし、
そのアドバイスのお蔭で作田詩織に木村という友達ができる。
二人がお互いのアルバムにサインをし合うシーンは感動的で、
私の頬には涙が流れた。


この木村を演じた花坂椎南という女優もしっかりと憶えておこうと思う。(写真左・中井友望、右・花坂椎南)



これら4組のカップルのストーリーは、それぞれ独立しており、
4組が絡むことはない。
それが物足りないという人もいるようだが、
そういうありがちな物語にすることを避けることによって、
通俗に堕することを回避していると私は見る。
4つのそれぞれ独立したストーリーを
「少女」と「卒業」という共通したテーマに沿ってひとつにまとめ、
『少女は卒業しない』というひとつの映画に仕上げた手腕は見事で、
中川駿監督の商業長編映画デビュー作は“傑作”になっていると思った。



とにかく早くブログにレビューを書きたいと思ったので、
今回はこのあたりで止めるが、
本作『少女は卒業しない』については、またいずれ詳しく書きたいと思っている。
それほど魅了された作品であったということだ。


※河合優実関連・ブログ「一日の王」掲載記事
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