1カップの、透明な水

目の前に、ガラスのコップがある。

コップにはどこからか水が注がれ続けている。また、どこからか流れ出しているのか、いつも半分くらいの量を行ったり来たりしている・・・はずだった。

ここのところ。
特に、半年くらい前からだろうか。
水の量が多くなり、摺り切りを超えて表面張力でどうにかこぼれないところまで増えることがある。
耳掻きのような小さなスプーンで必死に掻き出して、少し水が減って息をついて。
すぐにまた水が増えて、また掻き出す・・・これを繰り返している。

俺は、人よりもコップの容量が遥かに大きい方だと自信があるし、掻き出す量も多い。溜め込むタイプじゃない。
そもそも、コップや掻き出し量が人並みだったとしたら、ここまでやってこれなかっただろう。もう、すでに6年半である。

俺が好きで誇りにしている仕事は、離婚したときに一つの運命を迎えたと思っているし、時代の流れってやつもある。
それぞれに大きな問題を抱えた三人の子供たち。時折天才的な面を見せられて大きく期待するも、結局は奈落の底に突き落とされるかのような、ガッカリするような結果を突きつけられ。

8月から9月にかけては、様々な問題がドッと押し寄せて、人生で最も酷いと言っていいくらいの最悪な気持ちで過ごした。
離婚して以来、仕事の依頼を断ることが増えたが、今はキャパオーバーに仕事を詰め込んで、自分のテンションを無理に上げているような、そんな感じ。

正吉君のモトクロスは、8月の全国大会以降は練習にほとんど連れて行っていない。
9月に入ってからは全く行かず、10月のレース1週間前とレースの週に連れて行っただけで、その後またバイクに触ってすらいない。実質3ヶ月以上か。

このまま止めてもいいかなぁ、という気持ちと、ここまでやってきたのだから、続けよう、続けさせようという気持ちの間で揺れ動いている。

俺はこれ以上、何かやる事を増やすという事は、100％無理。新しい何かを始めるには、別の何かを止めなければならない。
もちろん、今現在仕事を無理に詰め込んでいるということは、その半面で出来なくなったものがある。
今後は、子供たちを完全放置して、俺自身がまたバイクにでも乗るか。ツーリングにでも行くか。
結婚するときにオープンカーを売ったので、またロードスターでも買うか。

これらは「逃げ」だと言えばそうだけど、逃げなきゃ俺自身が破綻してしまう。

宙ぶらりんになったモトクロス、生まれつき問題を抱えた子供たち、ある程度諦めざるを得ない仕事。その他、山積みとなった様々な問題。
こいつらの前で、俺は何もできないでいる。

俺が60で死ぬ予定と言っているのは、そういうことだ。