「Kiss me!」と何度も聞こえてきた。小生に言われていると思うほど思い上がってはいないのだが、とりあえず土を掘り上げる手を休めて顔を上げた。そして八百屋お七やアベサダでなくてホッとしたのだった。本音は「言われてみたい」なんだが…。
上空、手が届きそうな高さで二羽の猛禽類が飛翔していた。声を上げたのは後方のサシバだった。追われているのは色合いも白っぽく、やや大きかったから、おそらくオオタカだろうと推測した。サシバの鳴いた声は、おそらく初めて聞いたと思う。 二羽とも、そんなに差し迫った飛翔の仕方ではなく「追い払った」感じであった。オオタカの幼鳥は至近で確認したことがあるけど、サシバが繁殖しているのかどうかは知らないが、オオタカはサシバの雛を捕食するとも聞くし、もしかすると近くでサシバが営巣している可能性がある。
空がそうなら、地上でも似たようなことが起こっている。こちらは静かに移ろうから、注意していないと見逃してしまう。チョウの食草園はレンゲが増えてきた。下草刈りを何度かやって低草地に遷移しつつあるためであろう。また、早春に瑠璃色の絨毯になって小生の秘密の花園だったオオイヌノフグリの群落は衰退して、オヘビイチゴの黄色い花で埋め尽くされてしまった。
それぞれが生存をかけて戦っている日々は「無常」と断定できても、その営みの中は奥深いものが感じられる。そして「諸行無常・生者必滅」を感じずにはいられなかった春も逝くのだ。