

ヒシの繁殖力は大したものだ。見かけた時は一株、どうしようかと迷いつつ現在に至ったが、既に畳3枚分ほどに広がり実も熟し株から離れる時期になった。
少年時代、稲刈りの合間に採集し、そのまま齧っていたのだが茹でて食べた事は無く、今回「茹でて食べれば栗の様に美味しい」と思い至り自宅で塩茹でした。
熱い時の試食感は「レンコンの食感」で栗の感じとはかけ離れている。それでも数個を包丁で切り割りスプーンでほじって食べたのだが、果肉部が小さいので結構食べ難い。生を齧って食べていた時の方が満足感はあったように思う。
とはいうものの、この池は水田皮膚炎が発生した水域でもあるから「生食」は避けねばならぬ。
さて笊の中で粗熱を下げ摘まめる温度になったから、再度頂こうと包丁を押しあてたのだが入って行かない。「熱い時と冷えた時、この差はなんですか?」とさながらテレビ番組になってしまった。
「私としたことが…」と思いつつ、次々と包丁を押し当てたが押し切れない。クルミの殻の様に刃の傷もつかなかった。それではと「加熱したら軟化するだろう」とレンジに入れてみたら大爆発してしまった。確かに爆発したのだが破れ目が見えない。
ここで人生の大疑問「液体の中では爆発しないのに、気体の中では何故爆発するのか」ということだ。これはノーベル賞につながる大発見に違いない。
この時は名誉称賛より食い気で、仔細に見たら中心線に沿って筋が見えた。「ここか」と包丁の角を当て開いたが頑固だった。これですっかりお熱が冷めゴミ箱にお入りいただく。
栗の様に美味しくなるかも、ヒシの実御飯は世界初、等々の妄想構想ああそうこうそう空しく、お熱は冷え切ったのであった。
半世紀ぶりのお熱もほんの一時で、こういうことを「簡単の夢」と言うのだろう。感嘆するつもりがいとも簡単に頓挫、人生の厳しさをヒシヒシと感じつつ、水底を探り離れ果実を拾っている時に刺された指先も疼くし、もう「泣きっ面にヒシの祟り」…。
自分を慰めるために唄った「貴方が刺した小指が痛い」、まあ、小指でなく人刺し指だったけんど。