GITANESをまだ吸っていなかった頃の話。
それとは無関係に・・・。
年上の同年入社が他の店舗にいた。Hという男だ。
少しでも先に入社していれば先輩扱いするという
風潮が、その頃会社にはあった。
私と同じ店に勤める同年入社の先輩Y(6歳上)に
Hを紹介された。
「こちらH君。私より少し先輩でエリートだよ」
とのことだった。
仕事が終わってからJR駅前の喫茶店で合流した。
別に紹介してくれと頼んだ訳ではないのだが、Yさん
と仕事終わりに「お茶でも行こうか」ということに
なって、その場にHを呼んだ形だったと思う。
エリートだか何だか知らないが(会社にエリートが
いるなんて思いもしなかったので)、
「ああ、どうも!Hといいます!」と短く自己紹介
されたあとはなかなか尊大な奴だった。
そして話の内容も浅い。こんな浅い男がいるのか
というほど浅い男だった。
翌日、Yさんに
「Hさんって、何がどのようにエリート社員なんですか?」
と尋ねたところ、
「ああ、本人がそう言ってるんだからそれでいいかな、と。」
なるほど、自称だった。
新人たちの重要かつ季節の行事として、街頭での早朝ビラ配り
という仕事があった。二人一組になって街の主要な場所
に立ち、開店前までに渡されたビラを通行人に渡すこと。
私はエリートHとペアとされていた。
前日エリートHから電話があり、
「明日ビラ配りだからな」
私「はい、そうですね。」
「ビラは本部にあるから忘れずに持って来いよ」
私「はい、わかりました」
「よし、遅れるなよ」
私「はい」
翌日、現場近く。
約束の8時より少し前に到着していたが、Hはまだ
来ていなかった。
8時になったがHは来ない。仕方ない、ビラ配りを
始めないとビラが余ってしまう。
1人で結構な数の通行人に配る。カンタンな説明も
伴うからなかなかビラは減らない。そしてHはまだ来ない。
というより、Hはとうとう来なかった。
ビラが大量に余った。二人分を一人で配るのだから
余るのは当たり前だ。
店の朝礼までには店に到着しないといけなかった。
店に戻り、あまったビラを責任者に渡す。
けっこうな勢いで追及された。
「どうしてこんなに余るんだ?さぼってたのか?」
「いや、Hさんが」
「Hがどうした?」
「来なかったんです。止むを得ず一人でやったので
結構余ってしまいました」
携帯電話などない時代だったので、何がどうなったのか
まったくわからなかった。
「Hさんから本部や本店に連絡入ってませんか?」
「いや、何もないなあ。トラブルかなあ」
「ねえ」
「お前、ちょっとK店へ電話して事情訊いてくれ」
「わかりました」
「お疲れ様です。本店のSGCと申します。Hさんは
出社されてますか?」
「ちょっと待ってね」
「はい、H。」
「あ、おはようございます。SGCですけど、今朝は
どうされました?」
「ああ、わりぃわりぃ。寝坊した」
「え?」
「・・・」
「・・・」
「お前ひとりでやったんか。わりぃわりぃ」
「まあ寝てたんならどうしようもないですね」
「そやろ?」
「じゃあとりあえず、今日からボクに『オマエ』
って言うの、やめてもらいますね」
「・・・」
「聞こえました?」
「・・・はい・・・」
数年後、彼は会社をクビになった。
いろいろなことの合わせ技でそうなったらしい。
そして、会社のすぐ近くに競合他店が進出してきた際、
そっちに入社した。
店長代理という肩書らしい。
そして半年後、その会社もクビになったとのことだ。
実はHとは現在、生活圏がほぼ同じなので
たまにスーパーで見かけることがある。
しかし声をかけられることはまったくない。
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