連絡船で宮島に渡って、厳島神社の回廊から眺める海中の大鳥居
青い空を突き刺すような、厳島神社五重塔
東北の松島、関西の天橋立、そして中国の安芸の宮島。世にいう日本三景の一つで、年がら年中観光客の絶えない、広島県廿日市市宮島町の厳島神社。
その表参道商店街に土産物を扱う老舗中の老舗がある。敢えて商店名は出さないが、そのどっしりとした店構え、ネームバリュー、扱う商品の豊富さ、観光客の扱い量、いずれをとっても三本の指に入る「株式会社〇〇屋」。
そんなお店の広い間口の中央部分に、四角形の商品台がをしつらえてある。商品がうず高く積まれたその中央部に陣取るのが彼女の職場であり、彼女の元気のいい売り声が通りまで聞こえる。社長・専務・常務ほか従業員約40人いる中で、いつしかベテランの売り子さんになり、みんなから親しまれてきた。その彼女とは、中学時代の同級生で、同窓会を開くときは間違いなく出席者の一人として計算できる、頼りにはなるがあまり派手さはない女傑である。
50歳からそのお店で働き始めた彼女。80歳の誕生日を1週間前に祝ったという。それに伴って連れ添うご主人の体調が芳しくない様子。そんな理由から、「そろそろ潮時。少しの元気を残して身を引こうと思っている」という電話をもらっていた。そして昨日「お世話になった皆さんへのお礼は、どんな言葉がいいと思う??」という相談であった。
さてどうしよう。兎に角今一度彼女の気持ちをしっかり聞いた上で、できれば通り一遍でない独自の退職挨拶をなどと、また肩の凝る思いをしている。
そうは言いつつも、彼女には恩義がある。
9年前の4月1日、親しい友に勧められて柄にもなく自作エッセイ集を自費出版したことがあった。それを読んだ彼女は「旅のお供にエッセイを」というキャッチフレーズで私が売って上げる。といって思いがけなく、天下の観光地のおみやげ店の店頭に並べて50冊以上売ってもらったことがある。買わされた方はさぞかし迷惑だったろうと思うが、そんな男気も持ち合わせている彼女からの頼みだ。
「80歳の退職」といったエッセイもどきのタイトルは付けないとしても、50歳から80歳までの30年間を心地よく、楽しくがんばらせてもらった会社、そして同僚の皆さんに、暖かい気持ちになってもらえるような300字程度を考えてみるとしよう。