待ち望んだ春が訪れて桜が咲き、その桜も今や葉桜となって緑を増して来た。菜の花には蝶が舞う。四季の中でも最も空気が美味しく、いい季節となった。
新しい芽を吹いた木々が、時折降る柔らかな春雨に濡れて、水も滴るいい男ならぬ優しい薄緑が私たち人間様を包んでくれる。
そんな昼下がり、秋には大勢の人が紅葉を求めて訪れる錦帯橋近くのもみじ谷公園に出かけてみた。
目的は言わずと知れた「青もみじ」をこの目に焼き付けるためである。季節が来れば自らの葉を赤く染めて、訪れる人の目を感嘆の眼差しに替える魔力を秘めたもみじの、5月を前にした今の姿を確かめに。
中には今も秋も変らぬ赤い葉っぱの木もあるが、その大半はさも優しそうな薄緑。まさしく青もみじそのものである。もちろん、中には青の深さが濃くて力強さを感じさせる木もある。
秋とは異なる得も言われぬ雰囲気の中を、訪れる人もない今、独り占めして美味しい空気を胸いっぱいに吸い込めば、コロナもお籠もりの鬱憤も一瞬忘れさせてくれる。
時には敢えて季節を違えて訪れてみるのもまたいい。自然はその時々の移ろいある景色を見せてくれる。「青もみじ」ちょっと贅沢な得した気分にさせられた。