季節の味を味わって頂こうと、久しぶりに恩師の家を訪ねた。
ここでいう恩師とは、学生時代に教えを請うた、教師と生徒という関係とは少し違う。
完全に大人になって、父親となり、我が子の保護者としてPTAのTとして学校に出入りするようになってからの、言うなれば社会人としての恩師である。
出会いはかれこれ36年前になる。当時の年令は56歳で、それはそれは元気のいい、ハンサムでかっこいい校長先生であった。こちらは、他になり手がなくて渋々引き受けたPTA会長さん。
学校の経営者であり教職員の面倒を見ながら、児童・生徒の教育の充実。そんな多くの矢面に立つ校長という立場と、児童・生徒と保護者を代表するという立場で、時に口角泡を飛ばす場面もあったのか、なかったのか。
全体的には、年の離れた兄貴みたいな感覚で、可愛がって頂く中で色々奥の深い人世勉強をさせて頂いた恩師ということになる。
授業中に居眠りする児童が増えた時は、スポーツ少年団などの指導者を集めて「練習時間の制約」「帰宅時間の厳守」という大義で、丁々発止。間に入ったPTA会長は慎重な判断を迫られる。八方走り回って校長の意図するところを繰り返し説明して、双方納得のもとに放課後の練習を「勝つために」ではなく、「児童の体力増強」「運動神経の発達」という目標転換をさせたこともあった。
その陰には、1年間かけて日没の時刻を調査した克明なグラフが出来上がっていた。このグラフに合わせて練習の開始と終了を指導者自身に決めさせる。そんな芸当もさら~っと出来る経営手腕と説得力を併せ持つ、師と仰ぐにふさわしい社会人の中での先輩であった。
久しぶりの訪問でも元気の良さと、確かな記憶力は衰えを知らず、昔話に花が咲く。
御年92歳。愛妻は施設に。目下一人の生活。そんな不遇を一切感じさせない、どうかすると青春のかけらがどこか身についているようなスマートさと、屈託のなさが、訪れる者を安心させるようだ。
そうだ、年令に関係なく生きている限り、こざっぱり、清潔感を漂わせ、周囲に安心感を与える生き方を。と、幾つになっても良き恩師であり、佳き先輩であることには間違いない。今日も素敵な時間を持てた。