畑に吹く風

 春の雪消えから、初雪が降るまで夫婦二人で自然豊かな山の畑へと通います。

連載42『駒の小屋番』(その2終り)

2015-10-23 05:41:43 | 自然


   駒の小屋番(2終り)

運良く在宅の「Yさん」に解説をしてもらいながら見学した。
感心して眺めていると、私の毛糸の丸い帽子を被った風体からか、
突然「あなたも何か芸術関係の事をしていますか?」と質問された。

 私は酒飲みにかけて「私はノミイッチョウです。」と答えた。
すると重ねて木彫も大家の彼に「何を彫るのですか?」と質問されてしまった。
「すみません、こちらの方です。」と左手で猪口を持つ仕種をした。
すると彼は「あーそうですか、済みません冗談も分からないで」と謝る。

 緻密な作風の作品と共に、彼の人格にも惹かれるものを感じ始めた。
 越後三山が月明かりに浮かぶ、冬景色の一点を予約した。
「刷り上がりが、展示している物と同じに仕上がらないかも知れません。
気に入らなかったら遠慮なく断ってください」とまた謙虚に言われる。

 一通り作品を見せていただいた後、喫茶店で話しをした。
私が「若い頃の私の夢の一つに、駒の小屋に番人として入ると言う事もありました」と言うと、
すかさず「今度是非私と交代して下さい。」と言われ返答に詰まった。見事に一本返されたのかも知れない。

 淡々とその後を継いで話されるには、最近は昔と違って駒ケ岳も登山者が増え、結構喧騒の様子。
「ゴルフよりは手軽だと、定年退職した高齢者が大勢来るのです」私もその話を聞き、
益々小屋番志願は返上する気持ちになった。

 最後に「駒ケ岳は2002.7mで昨年の七月はいつもの年より、登山者が多かった。
今年は切り上げて2003mだから増えるのだろうな。」と言われる。
それも承知の上で、今年は久しぶりに「越後駒ケ岳」に登ってみようかな。
「Yさん」と、そして古い思い出に会いに。

            (終り)
コメント (2)
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