ー機織り女(はたおりめ)-
{手の届かぬ女性だと思っていた・・・・・
華族様だかの洋館のお姫様
その趣味が織物
カタン タン カタン
母は生活の為に機を織っていたがー
美しい白い指で器用に糸を操る
いつかどこかのお坊ちゃまの嫁になるのだろうと
縁談があるとか 決まった許婚者がいるのだとか
そんなふうにも言われていた
だがー戦争が全てを変えた
空襲で美しい洋館は燃え落ちて
憧れのお姫様は行方不明に
荒っぽい時代 その時代が俺には合っていた
闇市の中で扱った品がいい金に化けた
金が金を生んで いつか〇〇の殿様なんぞと呼ばれる身分になっていた
そんな時 お姫様を見つけた
お姫様は教会でオルガンを弾いていた
もうとっくに誰かの奥さんになっていると思っていたが
焦がれたモノに手が届く 今なら
今ならー
俺は 伝手を頼み 懇願した
どうか どうか俺の妻に
はいと言ってほしくて 洋館のあった場所に寸分違わぬ洋館を建てた
そこに住んでほしい
機織りの機械も据え付けた
以前のように織ってくれ 音立てて
機織り機に触れ 彼女は涙を流した
「あたくしは そういうふうに想ってもらえる価値ある女ではありません」
何故ならば あたくしはー
あたくしはー
そこで言葉が止まる
目を閉じて 覚悟を決めたように喉を震わせる そして一気にー
「襲われました!米兵に 車に無理矢理連れ込まれて 男達がいっぱいいるところにー
ぼろぼろになって道端に捨てられた所を今度は復員兵達が襲ってきてー」
「ねえ ここまでしてくださって嬉しかったです 有難うございます
どうぞここに見合った方を奥様になさってください」
お姫様は どれほど恐ろしい思いをしたのか
「あたくしは もう誰かの妻になれるような女ではないのです」
伸ばした俺の腕を振り切るように去っていく
幾度も彼女は自殺を図ったと 教会の牧師が教えてくれた
男は 鬼に見えるか
俺も鬼に見えるのか
俺が触れると その心が壊れてしまうか
どうしても手に入れられないのか
お姫様 俺が守ってやりたかった
分かった ならば 妻になどと無理は言うまい
ただ ここに住んでくれ
そうして昔のように 気が向いた時に
織物をしてくれ
時に織る音を聞かせてくれ
それで いいから
俺は洋館の名義を彼女の名前にした
その書類を彼女に渡した
「どうして ここまでして下さるのです」
それは それは君が 君の姿こそが戦場で俺が生き抜く力となった
俺の心の奥底の何より大切なもの}
「君がここに住めば 俺は平和になったと信じることができる」
そう言って その男性(ひと)は去っていった
あたくしは後悔した
振り返ることなく去っていくその広い肩 何からも守ってやろうと言った男性(ひと)の後姿
もう何の価値もないあたくしなのに
パンパンと同じ汚れた身のあたくし
壊れた玩具のような 何の価値も無い
謝ることもできなかった
どうして呼び止められなかったの あたくしはー
敵も多かったその男性(ひと)は それから間もなく
暴漢に刺されて死んでしまった
せっかくあの男性(ひと)が用意してくれた 調えてくれた洋館
そして機織りの道具でも駄目 あたくしにはもう織れない 織れない
だって あの男性(ひと)が居ない
今度こそ もう生きていけない・・・・・!
馬鹿だった あの男性(ひと)こそ あたくしの最後の 最後の希望であったのに
もう おしまい 愚かな
愚かすぎるあたくし
ごめんなさい
{手の届かぬ女性だと思っていた・・・・・
華族様だかの洋館のお姫様
その趣味が織物
カタン タン カタン
母は生活の為に機を織っていたがー
美しい白い指で器用に糸を操る
いつかどこかのお坊ちゃまの嫁になるのだろうと
縁談があるとか 決まった許婚者がいるのだとか
そんなふうにも言われていた
だがー戦争が全てを変えた
空襲で美しい洋館は燃え落ちて
憧れのお姫様は行方不明に
荒っぽい時代 その時代が俺には合っていた
闇市の中で扱った品がいい金に化けた
金が金を生んで いつか〇〇の殿様なんぞと呼ばれる身分になっていた
そんな時 お姫様を見つけた
お姫様は教会でオルガンを弾いていた
もうとっくに誰かの奥さんになっていると思っていたが
焦がれたモノに手が届く 今なら
今ならー
俺は 伝手を頼み 懇願した
どうか どうか俺の妻に
はいと言ってほしくて 洋館のあった場所に寸分違わぬ洋館を建てた
そこに住んでほしい
機織りの機械も据え付けた
以前のように織ってくれ 音立てて
機織り機に触れ 彼女は涙を流した
「あたくしは そういうふうに想ってもらえる価値ある女ではありません」
何故ならば あたくしはー
あたくしはー
そこで言葉が止まる
目を閉じて 覚悟を決めたように喉を震わせる そして一気にー
「襲われました!米兵に 車に無理矢理連れ込まれて 男達がいっぱいいるところにー
ぼろぼろになって道端に捨てられた所を今度は復員兵達が襲ってきてー」
「ねえ ここまでしてくださって嬉しかったです 有難うございます
どうぞここに見合った方を奥様になさってください」
お姫様は どれほど恐ろしい思いをしたのか
「あたくしは もう誰かの妻になれるような女ではないのです」
伸ばした俺の腕を振り切るように去っていく
幾度も彼女は自殺を図ったと 教会の牧師が教えてくれた
男は 鬼に見えるか
俺も鬼に見えるのか
俺が触れると その心が壊れてしまうか
どうしても手に入れられないのか
お姫様 俺が守ってやりたかった
分かった ならば 妻になどと無理は言うまい
ただ ここに住んでくれ
そうして昔のように 気が向いた時に
織物をしてくれ
時に織る音を聞かせてくれ
それで いいから
俺は洋館の名義を彼女の名前にした
その書類を彼女に渡した
「どうして ここまでして下さるのです」
それは それは君が 君の姿こそが戦場で俺が生き抜く力となった
俺の心の奥底の何より大切なもの}
「君がここに住めば 俺は平和になったと信じることができる」
そう言って その男性(ひと)は去っていった
あたくしは後悔した
振り返ることなく去っていくその広い肩 何からも守ってやろうと言った男性(ひと)の後姿
もう何の価値もないあたくしなのに
パンパンと同じ汚れた身のあたくし
壊れた玩具のような 何の価値も無い
謝ることもできなかった
どうして呼び止められなかったの あたくしはー
敵も多かったその男性(ひと)は それから間もなく
暴漢に刺されて死んでしまった
せっかくあの男性(ひと)が用意してくれた 調えてくれた洋館
そして機織りの道具でも駄目 あたくしにはもう織れない 織れない
だって あの男性(ひと)が居ない
今度こそ もう生きていけない・・・・・!
馬鹿だった あの男性(ひと)こそ あたくしの最後の 最後の希望であったのに
もう おしまい 愚かな
愚かすぎるあたくし
ごめんなさい