ー繋ぎ手ー
復員後は半分ヤクザみたいになってしまった兄だけれど 物の無い時代 随分と助けられた
兄が闇市でそこそこ名が売れるまでは 捜して見つけてくれるまでは あたしは遠い親戚の家の厄介者だった
まだ子供で 役にも立たないと言われて 雑草まじりの雑炊が一日一度
水汲み 雑巾がけ 田畑の草むしり
鶏の卵を取るのは 嘴でつつかれることもあり怖かった
痩せこけて 日焼けと汚れで色は真っ黒 目ばかり大きな子供で「牛蒡に目鼻だった」と後で兄が言った
空襲で家が焼けて両親も死んで その遠い親戚がいないと あたしは死んでいただろう
兄は だからその遠い親戚に「妹が世話になった」とかなりの金品を渡したようだった
無頼な兄 随分無茶もしていた兄
だけどあたしにはとても優しかった兄
そんな兄が思いつめたような目をするようになった
後で知った
戦争へ行く前の兄が父の出入りしていたお屋敷のお嬢様に憧れていたこと
兄が志願兵になったのはーそのお嬢様が嫁入りするのを見たくなかったこと
兄は憧れていたお嬢様を見つけたのだった
そうしてお嬢様に戦争前の暮らしを生活を取り戻してやりたいーと思ったようだった
男の純情が兄にもあったのだ
でも兄は殺されてしまった
兄の建てたという洋館にいた兄が愛した女性は 自分はもう長くないからこの洋館をくれると言った
だけど洋館で眠るととてもとても恐い夢を見る
ここでは暮らせない そうあたしは思った
その女性は少し考えたようだった
弁護士さんにも入ってもらってその女性とあたしは洋館についての取り決めをした
あたしは預かるだけ 管理するだけ
洋館にある離れで暮らすぶんには恐い夢も見ないですんだ
取り決めができて あたしの生活が落ち着いたのを確認するようにして 間もなくその女性は生きることをやめてしまった
兄と一緒の墓に入れてほしいって それが遺言
「お兄様はあたくしを救ってくださったの 」
せめてもの恩返しにと あたしの生活を案じてくれたのだった
あたしは離れの一部を小物などを置く店にして 生きていた頃の母を思い出し 機織りの真似事などして そうしてできた布も売るようにした
時々洋館を掃除し部屋に風を入れる
兄が愛した女性の血縁 もしも見つかるのならばーそう言っていたその女性の従妹
その消息を弁護士さんが追ってくれてーみつけてくれた従妹という人の孫娘
その写真を見てあたしは驚いた
兄が愛した女性に生き写しのそれは美しい娘であったから
時期が来たと あたしは思った
あたしの仕事は終わった
この洋館に住むべき人間を見つけた
兄が想いを寄せた女性はたいそう美しかった
まるでかの女性が生き返ったかのようなー
あたしはこの娘に洋館を渡す為に生かされていたのだと思った
その娘が洋館を訪れた日 洋館の庭には花が充ちた
季節を無視してとりどりの花が咲いた
洋館が土地が喜んででもいるようにー
復員後は半分ヤクザみたいになってしまった兄だけれど 物の無い時代 随分と助けられた
兄が闇市でそこそこ名が売れるまでは 捜して見つけてくれるまでは あたしは遠い親戚の家の厄介者だった
まだ子供で 役にも立たないと言われて 雑草まじりの雑炊が一日一度
水汲み 雑巾がけ 田畑の草むしり
鶏の卵を取るのは 嘴でつつかれることもあり怖かった
痩せこけて 日焼けと汚れで色は真っ黒 目ばかり大きな子供で「牛蒡に目鼻だった」と後で兄が言った
空襲で家が焼けて両親も死んで その遠い親戚がいないと あたしは死んでいただろう
兄は だからその遠い親戚に「妹が世話になった」とかなりの金品を渡したようだった
無頼な兄 随分無茶もしていた兄
だけどあたしにはとても優しかった兄
そんな兄が思いつめたような目をするようになった
後で知った
戦争へ行く前の兄が父の出入りしていたお屋敷のお嬢様に憧れていたこと
兄が志願兵になったのはーそのお嬢様が嫁入りするのを見たくなかったこと
兄は憧れていたお嬢様を見つけたのだった
そうしてお嬢様に戦争前の暮らしを生活を取り戻してやりたいーと思ったようだった
男の純情が兄にもあったのだ
でも兄は殺されてしまった
兄の建てたという洋館にいた兄が愛した女性は 自分はもう長くないからこの洋館をくれると言った
だけど洋館で眠るととてもとても恐い夢を見る
ここでは暮らせない そうあたしは思った
その女性は少し考えたようだった
弁護士さんにも入ってもらってその女性とあたしは洋館についての取り決めをした
あたしは預かるだけ 管理するだけ
洋館にある離れで暮らすぶんには恐い夢も見ないですんだ
取り決めができて あたしの生活が落ち着いたのを確認するようにして 間もなくその女性は生きることをやめてしまった
兄と一緒の墓に入れてほしいって それが遺言
「お兄様はあたくしを救ってくださったの 」
せめてもの恩返しにと あたしの生活を案じてくれたのだった
あたしは離れの一部を小物などを置く店にして 生きていた頃の母を思い出し 機織りの真似事などして そうしてできた布も売るようにした
時々洋館を掃除し部屋に風を入れる
兄が愛した女性の血縁 もしも見つかるのならばーそう言っていたその女性の従妹
その消息を弁護士さんが追ってくれてーみつけてくれた従妹という人の孫娘
その写真を見てあたしは驚いた
兄が愛した女性に生き写しのそれは美しい娘であったから
時期が来たと あたしは思った
あたしの仕事は終わった
この洋館に住むべき人間を見つけた
兄が想いを寄せた女性はたいそう美しかった
まるでかの女性が生き返ったかのようなー
あたしはこの娘に洋館を渡す為に生かされていたのだと思った
その娘が洋館を訪れた日 洋館の庭には花が充ちた
季節を無視してとりどりの花が咲いた
洋館が土地が喜んででもいるようにー