おめでとう。
おめでとう、30歳。
今日から、本当の大人だ。
20歳はまだまだ子ども。
現代では、私は、責任ある本当の大人は30歳からだ、と思っているよ。
だから、今日から本当の大人のスタートだ。
…本当は、そんな話を、あなたにしたかった。
2か月前、あなたは、医師(せんせい)に言っていたね。
“先生、わたし、誕生日までに退院できるかなあ。”
“そうだね。今の調子ならできるかもしれないね。”
そんな言葉に、希望をもって笑っていたあなただったのに。
今は、そう言ったことも覚えていない。
再び、いや何度目になるのだろう、深い混沌の中にいる。
混沌の中であがき続けるあなたの脳は、夕べ、あなたをすっかり疲れさせてしまっていたね。
“つかれた…。”
珍しくそう言って、食事用のテーブルに顔を伏せたあなただった。
“ごめんなさい”
この言葉を、あなたは、この頃よくあちこちに書きつけている。
自分の意識が平常に保てなくても、今の自分について、たくさんの人に謝りを入れているあなた。
謝ることはない。
一番つらいのは、あなたのはずだから。
どうしようもない状況に、困り切っているのは、私たちではなく、本当はあなたなのに。
まさか、輝かしい30歳をこんなふうにベッドで迎えるなんて。
たくさんの人から祝ってほしいのに、こうして家族しか会えない集中治療室で誕生日を迎えるなんて。
こんな誕生日を迎えるなんて、あなた自身全く思ってもみなかったことだろう。
“誕生日だから、何か食べたいものある?何食べたい?”
そう聞いた母に、
“コーヒーゼリー。”
と答えたのだってね。
もうそれを言ったことも忘れてしまっているけれど、訳を聞いてみたら、
“あまり高い金を使わせたくないから。”だって。
遠慮することはないのに、こんな状態でも気を使ってくれるなんて。
あなた本来の優しさが出ていることに、笑い泣きするよ。
今したことの記憶もよく残らないのに、生年月日はもちろん、自分が生まれた時間も、午後8時25分、としっかり言えるあなた。
30年前のその日、産院から帰宅途中に公衆電話で、誕生をあなたの祖父や祖母に伝え、“嫁にやりたくない”と言った私。
その話を、あなたの祖母は、何度も笑ってしていたっけ…。
あれから、30年。
生まれてベッドにいたあなたは、なぜか30年たった今、再びベッドの上で誕生日を迎えている…。
あんなに健康に、あんなに明るく育ってきたのにね…。
さて、30代の新しいスタートだ。
ゼロからのスタート、というより、状況を考えれば、ゼロ以下の、マイナスからのスタートかもしれないね。
でも、大丈夫だよ。
みんな、あなたのことを応援している。
あなたは、病と闘って懸命に生きている。
私たち家族も、あなたの存在を励みにして、あなたと一緒に闘っている。
あなたを知っている人たちも、みな、快復を願っている。
明日を信じて、生きていこうね。
ゆっくりでもいい、一歩ずつ、一歩ずつ。
はっぴい、ばあすでい、まい どーたー。
HAPPY BIRTHDAY TO YOU !