【社説・01.15】:学術会議法人化/独立性保つ改革の道探れ
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説・01.15】:学術会議法人化/独立性保つ改革の道探れ
国内の科学者を代表する組織である日本学術会議が大きな転機を迎えている。政府の有識者懇談会が先月、学術会議を国の機関から切り離し、新たな法人に移行させる最終報告書をまとめた。政府は法人化の具体的な制度設計を進め、関連法案を通常国会に提出する方針だ。
報告書は、国に助言する権限や国からの財政支援を保障する一方、運営の客観性を高めるために政府が関与する制度を設けるよう提言した。
学術会議の光石衛会長は法人化を大筋で容認する談話を出したが、内外の学術関係者からは独立性が脅かされるとの懸念が出ている。なぜ法人化する必要があるのかの説明も十分とは言えない。
学術会議は1949年、国の特別機関として設立された。科学が戦争に利用された反省から、政権から独立した政策提言や分野を超えた科学者の連携を使命とし、年間10億円の国費で運営している。その存在意義が問われる重大な局面だ。政権に都合のよい改変に終わらないよう、慎重に議論を尽くす必要がある。
元はといえば、2020年に当時の菅義偉首相が学術会議の会員候補6人の任命を拒否したのが発端だった。理由を説明しないまま、政権の意向で会員を選別するかのような対応に「学問の自由の侵害だ」と批判が高まった。任命拒否の過程を国が公表しないのは違法だとする訴訟は今も続く。報告書がこの問題に言及していないのは違和感がある。
焦点の会員選考については、法人化に伴い「政府は関与しない」と明記し、首相の任命をなくすとした。併せて、外部有識者でつくる「選考助言委員会」に意見を聴くことや、投票制も提示した。
年齢、性別、地方在住者や外国人など会員の多様性を高める工夫は不可欠だ。運営の透明性や国民に説明する責任は学術会議側も自覚しているだろう。たゆまぬ自己改革が求められるのは言うまでもない。
問題は、活動を確認する「評価委員会」や財務などをチェックする「監事」を首相が任命する新たな仕組みである。随所に設けられた外部監視が活動を制約し、独立性を損なわないか。懸念はぬぐえない。
そもそも今回の改革論議は任命拒否問題への批判をかわそうと政府、自民党が持ち出した。論点のすり替えに学術会議側は不信感を募らせてきた。法人化に向けた協議の前に、政府は任命拒否を撤回し、長引く対立を解消するべきだ。
世界的な感染爆発や気候危機、生成AIの進化などに即応して政策を提言する専門家の存在は重要性を増す。科学と真摯(しんし)に対話し、国の針路を見定めるのは政治の責任である。
元稿:神戸新聞社 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2025年01月15日 06:00:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。
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