【社説・12.26】:【学術会議】:懸念は解消されていない
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説・12.26】:【学術会議】:懸念は解消されていない
「国の特別機関」である日本学術会議の在り方を検討してきた内閣府の有識者懇談会が、政府方針である新たな法人への移行に向けた最終報告書をまとめた。
会員の首相任命をなくす一方、首相が任命する「評価委員会」や監事を置き活動状況を確認するなど、政府の一定の関与は残す。報告書を踏まえ、政府は法人化のための法案を来年の通常国会にも提出する。
1949年に発足した学術会議はさまざまな専門分野から選ばれた科学者210人で構成。科学者の戦争加担への反省に立ち、中立的な立場で政府への政策提言を行ってきた。
時の政治の干渉を受けない組織であり続けられるか、不安視されている。政府と学術会議は禍根を残さないよう、引き続き議論を続ける必要がある。
報告書は、学術会議を国から切り離して法人化するとともに、国に助言する権限や、国からの財政支援を保障するとした。
学術会議にとって前向きな内容も含まれた一方で懸念されるのは、独立性や自律性の確保だ。
報告書は、活動を国民に説明する仕組みの必要性を指摘。会員選考の際には、会長が任命する外部有識者からなる「選考助言委員会」を新設するよう求めたほか、投票制も提示した。評価委や監事も含め、関わり方によっては独立性が損なわれかねないような提言が目立つ。
もちろん学術会議にも会員選考や運営の透明性、客観性を高める姿勢は求められる。だが、重要なのは自主的な取り組みであることだ。
学術会議の見直し論は、2020年の菅義偉元首相による会員候補6人の任命拒否に端を発する。この6人は過去に政府法案などに反対していた。
説明を求める学術会議に対して政府は理由を明らかにせず、両者は対立。政府は現行の組織形態を維持した上で、会員選考に第三者を関与させるとした法改正案の国会提出を目指した。だが、学術会議の強い反発で断念。法人化方針を決め、有識者懇談会を設けた経緯がある。
任命拒否問題について十分な説明責任を果たさないまま、政府は組織の見直し論を進めた。学術会議側の不信感は解消されていない。独立性への懸念が残るのは当然だろう。
報告書を受けて学術会議の光石衛会長は「改革の当事者として、法制化に向けて責任を持って政府と協議していく」との談話を発表した。
学術会議側が納得のいく改革を進めるには、両者の信頼関係の再構築が欠かせない。政府はまず拒否問題の解決を早急に図り、その是非を議論しなければならない。
気候変動や感染症、人工知能(AI)といった地球規模の課題が山積する。求められるのは、効率優先や利益至上主義などに陥らないように政府や産業界に幅広い科学的知見を示すことだ。
学術会議が自由に提言し、政府は施策に反映する。政府と学術会議の良好な関係を実現してもらいたい。
元稿:高知新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2024年12月26日 05:00:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。
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