《社説②・12.27》:インサイダー取引 信頼損ねるモラルの欠如
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:《社説②・12.27》:インサイダー取引 信頼損ねるモラルの欠如
東京地検特捜部が、金融庁の元職員と東京証券取引所の元社員を金融商品取引法違反の罪で在宅起訴した。それぞれ職務で知った企業情報を基にインサイダー取引をしたなどとしている。
不正な株取引を防ぐ「市場の番人」の立場でありながら、自ら不正に手を染めていたのであれば、公正であるべき株式市場への信頼を損ねる深刻な事態だ。
裁判官出身で金融庁に出向していた30代の元職員は、株式公開買い付け(TOB)を予定する企業の書類審査を担当。TOB情報を知り、公表される前に自己名義で10銘柄計約950万円分の株式を不正に買い付けたとされる。
20代の東証元社員は、上場企業の重要情報を公表する「適時開示」の担当部署に勤務していた。TOBに関する企業情報を父親に伝え、公表前に父親が3銘柄計約1700万円分の株を不正に買い付けたという。
ともに数百万円の利益を上げていたとみられる。金融庁は懲戒免職に、東証を傘下に持つ日本取引所グループは懲戒解雇とした。
インサイダー取引は、上場企業のTOBや合併、買収といった株価に大きな影響を与える重要情報を入手し、公表前に株を売買する行為だ。立場上知り得た情報で利益を上げれば、一般投資家との間で不公平が生じる。金商法で禁じられている。
ましてや証券行政を担う金融庁と上場企業の株を取引する東証は、企業に法令順守を求め、取引を監視する立場にある。市場の健全性や信頼性をゆがめる悪質な犯罪である。元職員は高い規範意識が求められる裁判官出身で、司法への信頼も揺るがす。
政府は「貯蓄から投資へ」のかけ声で投資を促し、金融庁が旗振り役を担う。新しい少額投資非課税制度(NISA)が始まり、個人投資家の裾野は広がる。
東証も国内外から投資を呼び込むため、上場基準を厳格化した市場区分の再編や取引時間の延長といった改革を進めてきた。
内部の人物が私腹を肥やすような市場を投資家が信頼できるはずもない。投資促進の機運に水を差しかねない。
金融庁は、インサイダー取引に関する研修や職員の株取引状況の把握、TOB審査担当者の株取引禁止といった再発防止策を示した。個人の職業倫理任せではなく、実効性のある対策でなければならない。市場に向けられる疑念を拭うために、徹底的に足元を見つめ直すことを求める。
元稿:信濃毎日新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2024年12月27日 09:30:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。
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