【社説①・12.21】:与党税制大綱 開かれた論議に程遠い
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説①・12.21】:与党税制大綱 開かれた論議に程遠い
自民、公明両党は来年度の与党税制改正大綱を決定し、所得税の非課税枠、いわゆる「年収103万円の壁」を123万円に引き上げることを明記した。
国民民主との間で合意した「178万円を目指す」との内容も盛り込んだ。来年度の金額を巡り3党協議は途絶したが年明け以降の継続を図るという。
年収の壁問題は働く人の税負担を軽くして手取りを増やし、経済成長を実感できるようにするのが目的だ。政治的駆け引きの道具にしてはならない。
大綱は防衛力強化のため所得税を上げる時期決定を来年以降に先送りした。法人税などは再来年度に上げる。納税者の反発を恐れ議論を避けた形である。
与野党伯仲での熟議や開かれた税制論議には程遠い。従来の密室協議の延長でなく堂々と国会で審議を尽くすべきだ。
税と予算は表裏一体のため、与党は予算編成時期の年末に大綱を決め、政府はそれを受けて税制改正法案をまとめる。
実権を握るのは自民党税制調査会だ。かつてより影響力は低下したものの、なお存在感を放ち、毎年秋から省庁や業界団体などの要望を聞いて利害調整し税の軽減や特例を差配する。
今回の大綱も投資を促す個人型確定拠出年金の掛け金上限引き上げや中小企業の法人税軽減税率の特例延長などを決めた。
ベンチャー企業に投資する個人投資家への優遇措置であるエンジェル税制も拡充した。
経営者や投資家だけでなく現場で働く人の声も聞くべきではないか。パート主婦やバイト学生とその家族に影響する年収の壁は30年間据え置かれてきた。
国民民主が声を上げなければ問題視されなかった。その点は評価できようが、閉じた場での交渉には疑問が残る。消極姿勢を崩さなかった与党が食料品などの物価上昇を基に123万円を持ち出したのも唐突だ。
最低賃金の伸びを反映した国民民主案では税収減が7兆~8兆円に及ぶと強調したが、この案は高所得者の優遇抑制で6千億~7千億円で済むという。切り札を隠していたかのようだ。
そもそも衆院選で論戦になった消費税減税や金融所得課税強化については全く論議がない。経営者側の経団連ですら社会保障費増に対応するための「富裕層の負担増」を今月提言した。
これらを総合的に考えねば格差是正の再分配は進まない。
個別交渉は前例となり、日本維新の会も与党と高校教育無償化の協議を始めた。政策のつまみ食いでは人口減時代の税財政の展望は見えないままだ。
元稿:北海道新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2024年12月21日 04:00:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。
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