《社説①・10.10》:衆院解散・総選挙へ 自民政治のゆがみ問う時
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:《社説①・10.10》:衆院解散・総選挙へ 自民政治のゆがみ問う時
日本の民主主義が危機に直面している。自民党の長期政権下で極まった政治のゆがみを正すことができるかが問われる。
衆院が9日に解散され、事実上の選挙戦に突入した。総選挙は15日公示、27日投開票の日程で行われる。
自民派閥の裏金事件が尾を引く中での選挙である。石破茂首相は「新内閣への信任を主権者に問う」と解散の大義を強調する。
だが、自民総裁選で約束した予算委員会を開催せず、就任からわずか8日後の解散だ。有権者が判断する材料は不十分なままで、党利党略と言うほかない。
あらわになったのは、内閣支持率が下がるたびに表紙を替える「疑似政権交代」でやり過ごそうという旧態依然とした姿勢だ。
◆国民を顧みぬ党利党略
しかし、国民の政治不信は、そうした小手先の対応では拭えないほど深刻な状態にある。
裏金問題は、不透明なカネを使って党勢を維持し、権力の座にあぐらをかく自民の実態を浮き彫りにした。
派閥パーティー券収入のノルマ超過分を議員に還流しながら、政治資金収支報告書に記載していなかった。派閥の会計責任者ら11人が立件された。
使途の公開義務がない政策活動費を党幹部が意のままにし、自らの力の源泉としてきたことも改めて問題視された。
自民の権力基盤はこうした金権体質によって固められた。与党に復帰した2012年以降は、数の力を頼みにして国会を軽視する独善的な政権運営が続いた。
当時の安倍晋三首相や菅義偉首相は、異論に耳を貸さない態度が目立った。国論を二分しながら、集団的自衛権の限定行使を認める安全保障法制の制定を強行したのが象徴的だ。
3年前の衆院選で勝利した岸田文雄前首相は当初、「丁寧で寛容な政治」を掲げて政権のあり方を変えようとした。だが、重要政策や疑惑に対して表面的な説明を繰り返す姿勢に終始し、国民の支持を失った。
安倍元首相への銃撃事件を機に、自民と世界平和統一家庭連合(旧統一教会)との深い関わりが表面化した。教団が選挙に協力する見返りに、政策がゆがめられた疑いも指摘されている。
今回の衆院選の最大の焦点は、それらの弊害の温床となった「政治とカネ」の問題に各党がどう向き合うかだ。
先の通常国会では政治資金規正法が改正されたが、多くの抜け道が残され、抜本的な改革は先送りされた。
9日に国会で開かれた党首討論で、首相は裏金問題の再調査に消極的な姿勢を改めて示した。不透明な政策活動費についても、総選挙で「使うことはある」と開き直った。これでは新内閣の本気度が疑われる。
◆野党は「裏金」で共闘を
野党の戦略も問われる。
立憲民主党の野田佳彦代表は「政権交代こそ最大の政治改革だ」と訴えている。
だが過去には、旧民主党政権が迷走と分裂の末に3年あまりで下野し、政権担当能力の欠如を露呈した。国民の期待を裏切り、その後の自民政権の長期化に手を貸すこととなった。
今回の選挙で試されるのは、「反裏金」「反自民」で野党が足並みをそろえ、協力する態勢を整えられるか否かだ。
個別政策では主張が異なる部分もあるが、政策活動費の廃止などの政治改革に関しては、野党各党で共通点が多い。
選挙では、裏金問題に関与した自民前議員らに対して、野党が一致結束して対峙(たいじ)できるかがカギとなる。
自民執行部は12人を非公認とする方針だ。残りは公認しても、比例代表との重複立候補を認めないとしている。
野党は候補者を一本化し、裏金問題についての民意が投票結果に反映される構図を作り出すべきである。
政治に対する国民の不信は高まる一方だ。しかし既存政党が受け皿になり得ておらず、近年の選挙では投票率の低下が顕著だ。
首相は現状について「日本政治全体の危機だ」との認識を示す。しかし、与野党に今求められているのは言葉だけでなく、国民が納得できる改革の青写真を示し、信頼を取り戻す実行力だ。
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