21日と22日、NHKが地方自治体が、憲法の地方自治の原則を脅かす事件について報道しました。これについては、すでに記事にしていますので、ご覧いただければと思います。
この事件は、「政治的中立」の名の下に、憲法を尊重し、擁護する義務を負っている自治体(団体自治)が、住民自治を否定するという点で、その存在を自ら否定するという暴挙を行っているのだということを、どれだけ自覚しているかという問題です。以下検証してみました。
自治体が憲法記念日に行事を企画しないことそのものがおかしい!
1.まず典型的な誤りは、「『憲法記念日』の集会について、後援の申請を受けましたが、『政治的中立性を損なう可能性がある』」という神戸市の「理由」です。大爆笑です。憲法をもう一度読み直せ!ということです。憲法記念日に、国家の最高法規である憲法について、その理解の徹底を図る責任は、国と地方自治体にあることを、全く理解していないのです。本来は、後援の申請をした団体がやるべきことではありません。国と自治体がやるべきことです。
住民自治を保障する団体自治の「政治的中立」論を吟味しなおせ!
2.次は、「政治的中立を保つ」論です。「後援」が、自治体の賛否を問うものかどうか、一つひとつの団体がどのような申し入れをしたか、検証してみなければなりません。この場合の「政治的中立」は、自治体として、何もしないこと、自治体の主張する意見の異なるどちらにもつかないということを認めたとしても、議論を封じるようなことを、意味しているのではありません。これは「政治的中立」論に名を変えた怠慢です。
「団体が過去にTPPに反対の決議を出していることなどから、行政の中立性が保てない」(静岡県)とするのは、団体自治の機能の無理解の典型です。「行政の中立性」を履き違えていると言わなければなりません。これでは、政権と意見の違うテーマでは議論を保障しないと言っているようなものです。しかも静岡県はTPPについては、賛成も反対も表明しないということでしょうか。政府が決まったことに従うということなんでしょうか。これでは、住民に対して無責任と言われても仕方ありません。政府に意見具申すらしないと言っているのです。団体自治と住民自治の否定そのものです。
「区民からクレームが寄せられたことをきっかけ」とするのは理解できるとしても、だからと言って、団体自治である自治体が何もしないというのは住民自治の発揚にはなりません。これが許されるのであれば、「クレーム」を言ったもんが勝ちということになり、政治は閉塞していくことは明らかです。「百害あって一利なし」と言わねばなりません。
「あるテーマについて賛成派や反対派がいるなかで1つの方向だけ取り上げるのは問題があると考えている。原発、TPP、消費税は政治と密接に結びついたテーマで、判断が難しい」(足立区消費者センターの高野龍一所長)というのは責任放棄です。「1つの方向だけ取り上げる」のではなく、まさに公平に、住民にわかりやすい資料をつくり、討論の場を設定・保障し、住民ぐるみの議論を発展させるべきです。それが最低の責任というものです。
では「政治的中立」論とは何か、です。特定の団体と財政的に癒着をする、或いは特定の団体の利益保障のために窓口を一本化して排除することです。これは、同和行政の窓口一本化問題に象徴的に示されています。
そもそも地方自治とは何か!民主主義の学校とは何か!考えろ!
3.そもそも地方自治は、「民主主義の学校」と言われています。これは住民が政治に直接係わるシステムを備えていることを示した考え方です。地方自治法の第二章 住民、第五章 直接請求、第十節 住民による監査請求及び訴訟などは、その典型です。住民が自らの人権を守り拡大し暮らしをより良くしていくために、地方自治体の団体自治を活用して、意見を述べ合う場を設定することは、団体自治と住民自治を担う主人公として大変重要です。また住民自治を団体自治である地方自治体が保障することは当然で、その際のものさしは、日本国憲法であることも当然です。
以上の視点に立つと、意見の異なる政治的課題を「政治的中立」の口実に、住民自治を団体自治が制約・抑圧することは、憲法違反と言わなければなりません。こうした手口が許されるとすれば、時の政権に反対する住民の意見は、著しく阻害されることになりかねません。団体自治組織である地方自治体は、中央政府の下部組織ではないのです。下部組織的役割が強調されるようになれば、それは地方自治の自己否定を意味すると言わなければなりません。
「政治的中立」を口実に「後援」を拒否した団体自治である自治体は、以下を検証すべきです。
第3部_[地方自治]1.地方自治の本旨、国と地方の役割 - 参議院憲法審査会
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中学公民:地方自治(都道府県や市町村)のしくみ | 中学生の社会(地理・歴史・公民)の
中間テスト・期末テスト・高校受験の勉強法
長野県千曲市の実質的な『民主憲法不支持宣言』に強く抗議します。村野瀬玲奈の秘書課広報室2014年3月5日
それでは、NHKの記事をご覧ください。
“政治的中立への配慮”が相次ぐ 4月21日 19時27http://www3.nhk.or.jp/news/html/20140421/k10013915271000.html
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憲法や原発など国民の間で議論が分かれているテーマを取り上げた講演会や展示会などについて、各地の自治体が「政治的中立を保つ」として内容の変更を求めたり、後援の申請を断ったりするケースが相次いでいることがNHKの取材で分かりました。
これは、NHKが全国の都道府県と県庁所在地の市、東京23区、それに政令指定都市の合わせて121自治体を対象に調査した結果、分かったものです。それによりますと、
昨年度開かれた講演会や展示会などについて「政治的中立を保つ」として、施設の貸し出しを断った自治体が1つで合わせて2件、
内容の変更を求めた自治体が5つで合わせて6件、
後援の申請を断った自治体が14で合わせて22件となりました。
さらに、これらとは別に「県の政策と一致しない」として催し物の後援を断った自治体も1つあります。これらをテーマ別に見ますと、
憲法に関するものが11件、
原発に関するものが7件と全体の6割を占め、
そのほかTPPや介護、税と社会保障などとなっています。
また最も件数が多かったのは、後援の申請を断ったケースですが、その多くは「名義後援」と呼ばれ、催し物のチラシに自治体名を入れたりチラシを公共施設に置いたりすることを認めるものです。
かつて後援していた憲法や原発に関する催し物について昨年度は後援を認めなかったケースも、3つの自治体で1件ずつありました。
“中立的対応”した自治体の内訳
今回の調査で、後援の申請を断るなどの対応を取ったのは合わせて20の自治体です。
このうち施設の貸し出しを断ったのは奈良市です。
内容の変更を求めたのは東京都、足立区、福井県、福井市、京都市の5つの自治体です。
後援の申請を断ったのは札幌市、宮城県、長野県、茨城県、千葉市、静岡県、堺市、京都府、京都市、神戸市、大津市、岡山県、鳥取市、福岡市の合わせて14の自治体です。
さらに奈良県は、脱原発をテーマにした講演会について「県の政策と一致しない」として後援を断っています。
今回取材した121の自治体のうち、こうした対応を取ったのは合わせて20、全体のおよそ17%で、このほかの自治体では昨年度「政治的中立」を理由に、同様の対応を取ったことはないとしています。
神戸市は後援断る
神戸市と市の教育委員会は、護憲の立場の市民などで作る実行委員会から、来月3日の「憲法記念日」の集会について、後援の申請を受けましたが、「政治的中立性を損なう可能性がある」として断りました。実行委員会は、平成10年と平成15年の憲法記念日などに開催した集会では後援が得られていたことから今回の市などの対応を「後援承諾方針の恣意的(しいてき)転換だ」などと批判しています。これに対して神戸市行財政局庶務課の八木真課長は、
「市として後援を承認する際には要件として『政治的中立』であることを定めている。過去に神戸市が後援を行ったという事実はあるが、書面と聞き取りで今回の集会について検討した結果、昨今の護憲と改憲の議論の中で神戸市が一方の立場を応援することになるという危惧が生じ、後援を控えさせてもらった」と説明しています。
静岡県もTPP巡り後援拒否
静岡県はTPPに反対する団体が開くシンポジウムの後援を断りました。県では、TPPについては国の交渉が続いていること、国内で賛否が分かれるテーマなこと、団体が過去にTPPに反対の決議を出していることなどから、行政の中立性が保てないとして後援を断ったということです。
同じシンポジウムに静岡市は後援を出したということで、この団体の事務局長を務める司法書士の小澤吉徳さんは「TPPに関して議論をしようと企画したもので県の決定には驚いている。こうした決定は市民の活発な議論にも大きな影響があり心配だ」と話していました。
足立区は調査報告書の内容変更
足立区では、助成金を出している区内の消費者団体がまとめたTPPを巡る調査結果の報告書について内容の変更を求めました。足立区では毎年、区内の消費者団体に助成金を出し消費者の関心の高いテーマについて、区役所で展示会や発表会を開くとともに調査報告書にまとめてもらっています。このうち、昨年度、TPPを研究した団体が提出した報告書について、区は「一方的な立場の意見だけを取り上げている」として、この団体に理由を説明したうえで内容の一部を削除したということです。区では、この事業の内容について、5年前、区民からクレームが寄せられたことをきっかけに内容を事前にチェックするようになったということです。足立区消費者センターの高野龍一所長は「あるテーマについて賛成派や反対派がいるなかで1つの方向だけ取り上げるのは問題があると考えている。原発、TPP、消費税は政治と密接に結びついたテーマで、判断が難しい」と話しています。
法律・条例に基づき認めた自治体も
一方、施設の貸し出しや後援について法律や条例に基づき断る理由がないとして、認めた自治体もあります。長野市では、去年、市民団体が憲法に関する集会を企画し、長野市教育委員会に施設の貸し出しと後援を申請しました。その後、長野市には「公共施設を使わせるべきではない」という抗議電話が複数あったということです。市教育委員会は、この団体が過去に開催した集会で警備上のトラブルが起きていないかなどを調べたうえで、施設を貸し出すとともに後援も認めました。長野市教育委員会生涯学習課の松本孝生課長は「ほかの利用者に迷惑がかかったり、施設の管理に支障が生じたりしないか、確認したうえで施設の使用を認めた。地方自治法では公の施設の利用は正当な理由がない限り拒んではならないと定められており、法律や条例に照らして慎重に判断している」と話しています。
専門家「どの意見も認め議論活性化を」
地方行政に詳しい千葉大学の新藤宗幸名誉教授は「特に国論を二分するテーマを取り上げた講演会やイベントについて拒否をする動きが各自治体で広がっていると感じる。自治体は、それぞれを認めて議論が活発になるように働きかけるのが本来の姿だ」と指摘しています。(引用ここまで)
つづく