迦陵頻伽──ことだまのこゑ

手猿樂師•嵐悳江が見た浮世を気ままに語る。

『ゆりこちゃんとはなび』

2012-08-10 08:22:17 | 浮世見聞記
ゆりこちゃんは、おとうさんと、はなびたいかいをみにいくことを、とてもたのしみにしていました。

おうちで、いなかのおばあちゃんにぬってもらったゆかたをきて、おとうさんがおしごとからかえってくるのを、まっていました。


でも、おとうさんは、なかなかおうちに、かえってはきませんでした。


「おとうさん、おそいなあ」

そうすると、おとうさんから、でんわがかかってきました。

「ごめんね、おしごとがおわらなくて、はなびたいかいには、いけなくなってしまったんだ」


ゆりこちゃんはでんわをおくと、かなしくて、ないてしまいました。

ずっと、ないていました。


そのうちに、とおくから、


どーん。

どーん。


と、はなびをうちあげるおとが、きこえてきました。


ゆりこちゃんは、どうしても、はなびをみたくなりました。


「わたしひとりで、みにいこう」

ゆりこちゃんは、いなかのおばあちゃんにかってもらったげたをはいて、そとにでていきました。



はなびたいかいをやっているこうえんは、たくさんのひとで、とてもこんでいました。


そらをみあげても、まわりは、せのたかいおとなたちばかりで、ちいさなゆりこちゃんは、はなびをみることが、できませんでした。

「みえないなあ、みえないなあ」


そのうちにゆりこちゃんは、うしろからだれかにおされて、ころんでしまいました。


「いたい」


ゆりこちゃんは、ひざをけがしてしまいました。

「いたいよう」

ゆりこちゃんは、なきだしました。


すると、

「だいじょうぶ?」

といって、おとなのおんなのひとが、ゆりこちゃんをだいて、おこしてくれました。

「こっちにいきましょうね」

おんなのひとは、ゆりこちゃんのてをひいて、おおきなきのしたへと、つれていきました。


「おねえちゃんだから、ないかないのよ」

おんなのひとはそういって、ゆりこちゃんのけがをしたひざに、ばんそうこうをはってくれました。

「うん、ありがとう。もうなかないよ」

ゆりこちゃんは、おんなのひとに、おれいをいいました。


「こちらのほうが、はなびがよくみえるのよ」

おんなのひとは、ゆりこちゃんのりょうてを、やさしくにぎりました。


すると、ゆりこちゃんとおんなのひとは、ふわりとうきあがりました。

ゆりこちゃんがびっくりして

「うわあ」

といったときには、おんなのひとといっしょに、おおきなきのてっぺんに、すわっていました。


どーん。

どーん。


はなびが、ゆりこちゃんのめのまえで、たくさんあがりました。


「きれいだなあ」


ゆりこちゃんは、たかいところにいるのが、こわくなくなりました。


どーん。

どーん。


「きれいだね」

おんなのひとが、ゆりこちゃんに、いいました。

「うん」

ゆりこちゃんは、おんなのひとをみて、いいました。

おんなのひとは、とてもきれいなひとでした。


どーん。


どーん。


ゆりこちゃんは、はなびたいかいをみにきて、よかったとおもいました。







おしごとからいそいでかえってきたおとうさんは、となりのいえのおばさんからら、ゆりこちゃんがひとりではなびたいかいへいったときいて、こうえんへと、はしっていきました。


こうえんにくると、はなびたいかいはもうおわっていて、だれもいませんでした。


おとうさんは、おおきなこえでゆりこちゃんをよびながら、あちこちをさがしました。


ゆりこちゃんは、おおきなきによりかかって、ねむっていました。


おとうさんは、ゆりこちゃんを、やさしくおこしました。


ゆりこちゃんは、めをさますと、

「おとうさん」

といって、とびつきました。


そして、やさしい、きれいなおんなのひとと、きのうえではなびをみたことをはなしました。


おとうさんは、ゆりこちゃんのあたまをやさしくなでながら、ゆりこちゃんのおはなしを、しずかに、きいていました。


そして、


「ゆりこちゃんは、ゆりこちゃんがうまれてすぐになくなったおかあさんといっしょに、はなびをみたんだね」


と、いいました。
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