迦陵頻伽──ことだまのこゑ

手猿樂師•嵐悳江が見た浮世を気ままに語る。

陰陽―カゲヒナタ―2

2012-05-02 22:36:41 | 戯作
翌二日目。

一人でピッキングをする僕の後ろに付いてチェックしている彼―“ヤマウチ ハルヤ”が、昨日の一件のために、何となく気になる存在となってしまった。


だからと言って、この“ヤマウチハルヤ”と親しくなろうとか、そんなバカなことは考えない。


第一向こうは、完全に人間嫌いだし。


それに僕だって、“おともだち”をつくるためにバイトしているわけじゃない。


すべては、「現代の大和絵師」になるため―先祖の近江中納言が代々受け継いでいた大和絵“近江風”を、現代に甦らせるためだ。


そのために必要なのは、

そう、

カネ、

さ。

“先立つモノ”なんて云うくらいだしね。



特に大きなミスもなく、午前中の作業は終了。

「じゃ、午後もそんな感じで…」

と言い残して、昨日と同じ調子で立ち去ろうとしたヤマウチハルヤは、あっと何かを思い出したような感じで僕を振り返って、

「昨日の帰り、アレ拾ってくれて、ありがと」

“アレ”?

ああ、カードのことか、と気が付く。

“ヤマウチ ハルヤ”とネームが書かれた。

「いやいや、そんな…」

と言いかけたところで、

「速攻棄てたよ。アレ」

はい?

「ありがと」

言っている意味が分からないでいる僕に、彼は微かにニヤッとして見せて、向こうへと歩いて行った。

「……」

何だかまるで、“オマエが触れたから棄てた”、そんなニュアンスにも聞こえた。

だとしたら、相当にイヤなヤツ。


でも、本当にそう?


あの時、微かにニヤッとした瞳(め)の奥に、悪意とは違う、何か哀しみのような表情(いろ)が滲んでいたように、僕には見えたけど…。





〈続〉
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