翌二日目。
一人でピッキングをする僕の後ろに付いてチェックしている彼―“ヤマウチ ハルヤ”が、昨日の一件のために、何となく気になる存在となってしまった。
だからと言って、この“ヤマウチハルヤ”と親しくなろうとか、そんなバカなことは考えない。
第一向こうは、完全に人間嫌いだし。
それに僕だって、“おともだち”をつくるためにバイトしているわけじゃない。
すべては、「現代の大和絵師」になるため―先祖の近江中納言が代々受け継いでいた大和絵“近江風”を、現代に甦らせるためだ。
そのために必要なのは、
そう、
カネ、
さ。
“先立つモノ”なんて云うくらいだしね。
特に大きなミスもなく、午前中の作業は終了。
「じゃ、午後もそんな感じで…」
と言い残して、昨日と同じ調子で立ち去ろうとしたヤマウチハルヤは、あっと何かを思い出したような感じで僕を振り返って、
「昨日の帰り、アレ拾ってくれて、ありがと」
“アレ”?
ああ、カードのことか、と気が付く。
“ヤマウチ ハルヤ”とネームが書かれた。
「いやいや、そんな…」
と言いかけたところで、
「速攻棄てたよ。アレ」
はい?
「ありがと」
言っている意味が分からないでいる僕に、彼は微かにニヤッとして見せて、向こうへと歩いて行った。
「……」
何だかまるで、“オマエが触れたから棄てた”、そんなニュアンスにも聞こえた。
だとしたら、相当にイヤなヤツ。
でも、本当にそう?
あの時、微かにニヤッとした瞳(め)の奥に、悪意とは違う、何か哀しみのような表情(いろ)が滲んでいたように、僕には見えたけど…。
〈続〉
一人でピッキングをする僕の後ろに付いてチェックしている彼―“ヤマウチ ハルヤ”が、昨日の一件のために、何となく気になる存在となってしまった。
だからと言って、この“ヤマウチハルヤ”と親しくなろうとか、そんなバカなことは考えない。
第一向こうは、完全に人間嫌いだし。
それに僕だって、“おともだち”をつくるためにバイトしているわけじゃない。
すべては、「現代の大和絵師」になるため―先祖の近江中納言が代々受け継いでいた大和絵“近江風”を、現代に甦らせるためだ。
そのために必要なのは、
そう、
カネ、
さ。
“先立つモノ”なんて云うくらいだしね。
特に大きなミスもなく、午前中の作業は終了。
「じゃ、午後もそんな感じで…」
と言い残して、昨日と同じ調子で立ち去ろうとしたヤマウチハルヤは、あっと何かを思い出したような感じで僕を振り返って、
「昨日の帰り、アレ拾ってくれて、ありがと」
“アレ”?
ああ、カードのことか、と気が付く。
“ヤマウチ ハルヤ”とネームが書かれた。
「いやいや、そんな…」
と言いかけたところで、
「速攻棄てたよ。アレ」
はい?
「ありがと」
言っている意味が分からないでいる僕に、彼は微かにニヤッとして見せて、向こうへと歩いて行った。
「……」
何だかまるで、“オマエが触れたから棄てた”、そんなニュアンスにも聞こえた。
だとしたら、相当にイヤなヤツ。
でも、本当にそう?
あの時、微かにニヤッとした瞳(め)の奥に、悪意とは違う、何か哀しみのような表情(いろ)が滲んでいたように、僕には見えたけど…。
〈続〉